第7話 デートに行こう!③
泣き出す男の子をなだめるように頭をなでて「大丈夫だよ」と声をかけるが泣き止みそうにない。
「迷子になっちゃったみたいだね」
「僕が絶対君のママを探してあげるよ」
そう言って、男の子をひょいと抱き上げた。
「ほら、こうすれば周りがよく見えるだろう?ママが見えたらすぐに言ってほしい」
「・・・うん」
「もしかしたらこの子の親が迷子センターに行ってるかもしれないから、迷子センターに向かいながら探そう」
青波はそう言うと、男の子を抱いたまま歩き始めた。
「君の名前を教えてくれるかい?」
「・・・
「晴太か、いい名前だ」
青波がそういうと、男の子は褒められたのがわかったのか泣き止んで微笑んだ。
「お母さんと来たの?」
コクリと頷いて、また母親が恋しくなったのか目にいっぱい涙がたまって来る。
「お母さんはどんな服を着ていた?そうだな・・・色は何色を着てたかな?」
「・・・空の色」
「空の色か。じゃあ空色の服の人を確認しながら行こう」
そう言うと、青波は水色の服の女性を見る度に、「この子のお母さんではありませんか?」と確認しながら歩き出した。
そこまでしなくてもと思ったが、青波は真剣だ。
5~6人声をかけて、もうすぐ迷子センターというところで、誰かを探しているような様子の女の人がいた。
服は空色、水色だ。
「ままぁ~」
男の子を下すと、一目散に女の人の方へ駆けだした。
女の人も「晴太!」と駆け寄って男の子を抱きしめた。
「良かった」
青波は小さくそう言って優しく笑った。
男の子の母親は何度も「ありがとうございました」と頭を下げて、笑顔の男の子とともに去っていった。
「お金使わなくても人を喜ばせることってできるでしょ?」
「・・・そうですね。なんか僕まで温かい気持ちになりました」
「それは良かったです。じゃあ少し休憩でもしましょう。もちろん、割り勘で」
「割り勘?」
きょとんとする青波を連れて、有名ファストフード店に入った。
「100円でコーヒーが楽しめるのですね」
不思議そうな顔をしながら、コーヒーをくちにつける。
どうやら口にはあったようだ。
「こんなに人気のある店に来るのは初めてかもしれません」
普段は貸切ったり、高級店ばかりに行っているので、大人数の人がいる店には来たことがないようだった。
「高校生は基本ここにはよく来るんですよ。私はあんまり来れないけど・・・」
アツアツのポテトを久しぶりに食べると、やはりおいしい。
「高校生がよく来る場所なんですね」
辺りには高校生のカップルが楽しそうに話していたり、友人同士で勉強している。
「僕は常識があまりないのかもしれませんね。渚さんと話して、自分がいかに無知であるかわかりました」
「無知というか・・・住む世界が違うというか・・・」
「前もそうおっしゃっていましたが、住む世界は一緒ですよ?」
真剣な顔でこちらを見てくるので、思わず吹き出してしまった。
「そうだね、同じ高校生だもんね」
「渚さん?」
「ねぇ、久遠くんのこと教えてよ」
「僕のことですか?」
「私のことは探偵?とかに依頼して調査したんでしょ?私のことは知られているのに、私が久遠くんのこと知らないのは反則でしょ?」
「確かにフェアではないですね」
「じゃあ、まず久遠くんの家族のこと教えてよ」
「家族ですか?血のつながった家族は父だけですが、じいややメイドさんたちも一緒に暮らしてるので、みんな家族みたいな感じですね」
「お母さんは?」
「母は僕を産んですぐに亡くなりました」
「・・・ごめん」
「いえ、謝らないでください。僕にとって、母は悲しい存在ではないんです。一緒に過ごしたことはありませんが、写真では見たことあるので、顔は知ってますし、じいやが母のことをたくさん話してくれるので、一緒に過ごした気になるくらい母のことは知ってます」
首から下げたペンダントをとると、先に付いたロケットを開けた。
「これが母です」
赤ちゃんを抱いて優しく微笑んでいる女の人が写っている。
女の人の目元は青波に似ている。
この赤ちゃんは青波なのだろう。
「優しそうなお母さんだね」
「はい。父もすごく優しい女の人だったと言っていました」
「うちと境遇は似てるんだね。うちもお母さんいないし、まぁうちは父親もいないも同然だけど」
渚が自嘲気味に笑った。
「父が言ってました。渚さんのお父様は渚さんのお母様を深く愛していたと。父も母のことを深く愛していたので気持ちがわかるとも言ってました」
「でも久遠くんのお父さんは立派に青波くんを育てているじゃない。うちのぼんくら親父とは違うよ」
「渚さん・・・」
「こんな話やめやめ!違う話しよ」
ポテトを手に取って口に放り込もうとすると、ぎゅっと青波から手を握られた。
「久遠くん・・?」
「僕は絶対渚さんを一人にしません。この先に何があったとしても、渚さんと弟さんたちを守り抜きます」
真剣な瞳でいうと、渚の薬指の指輪をそっと撫でた。
晩御飯の材料を買って家に帰ると、大きな声で
さっきまで静かにデートをしていたのが夢みたいだ。
「ただいま、もう、何で喧嘩してんのよ!」
いつもの日常だなと思いながら、渚は家へ帰った。
翌朝になって、バタバタと
「
航平はそっと渚の頭に手を伸ばすと、「葉っぱついてた」と取ってくれた。
距離が近くてドキドキしてしまう。
ここまで急いできたので、汗臭いかもと思うと、恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「渚、週末家に遊びに行っていい?久々に
「もちろん、大歓迎だよ」
「じゃあ、母さんがカップケーキ作るって言ったから、持っていくよ」
「おばさんのお菓子おいしいからすごく嬉しい。弟たちもめちゃくちゃ喜ぶと思う」
「ほんと?母さんそれ聞いたら絶対喜ぶよ」
「楽しみだな」
そんな会話をしながら、校門を通ると見覚えのある高級車が目の前を通っていく。
(ま、まさか―)
校庭を走り抜け、校舎前に停まると、男の子が降りてきた。
ふわっと髪を搔き上げ、こちらを見てニコッと笑いかけてきた。
「・・・
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