第四章:クロリジョム王国編
32話:眼帯の少年
どれだけ脚を動かしたのだろう。
どれだけ痛みに耐えてきたのだろう。
失くなった右腕をじっと見つめる。
片腕がないこの状態で、よく人間二人も担いで来れているものだと我ながら感心する。
しかしそろそろ体力の限界が近い。
暗い森の中、月灯りだけを頼りに辺りをずっと彷徨っている状態だ。
疲労が溜まっているせいかどんどんと足取りが重くなる。
俺はとうとうその場に倒れてしまう。
もう指一本も動かせないであろうその時、ガサガサと草木が揺れる音を聞く。
(ここで魔獣にでも喰われて終わりかぁ……)
俺はそんな暗い考えをしながら目を閉じる。
「人っ!?あの!大丈夫ですか!!」
草村から姿を現した少年は持っていた篭をその場に置き、アデラに駆け寄る。
しかし既に意識を手放した俺にはその声が届くことはなかった。
◆◆◆◆◆◆
小鳥の
生き延びたのか…?それよりも二人が無事か確認しねぇと!!そう勢い良く身体を起こした瞬間全身にビリッと痛みが走る。
「ってぇ!!」
「あ、安静にしてないと駄目ですよ!」
何か作業をしていたのだろうか?机に座っていた眼帯をつける少年が心配そうに駆け寄る。
一体誰なんだ。
それよりもこの場所は・・・その考えが顔に出ていたのだろう。
俺の考えが顔に出ていたのだろうか、点滴を着け直した少年はゆっくりと説明を始めた。
「近くの森で倒れていた貴方達を僕が抱えてこの病院に運びました。本当にビックリしたんですからね、薬の材料を調達しに行ったら三人も人が倒れているんですもん」
「あぁ…あんがとな。それじゃ世話になった」
そう一礼すると俺は直ぐにこの場を後にしようとする。
「ちょっと待ってください!そんな体で何処に行こうって言うんですか」
何処か……確かに目指す場所なんてものはない。
だけど魔女を越えるためにも止まっては行けない気がするのだ。
「何を急いでいるか分かりませんがここで寝ていて下さい。お友達も一緒に居ますから」
そう言いながら俺をまたベッドに寝かせる。
お友達も一緒にか・・・ここに来ていないのを見るに二人共まだ起きていないのか、安静にするよう言われているのだろう、それなら俺も暫くゆっくりとさせて貰うことにする。
脱走しようにも出来なさそうだし。
「なぁ、俺達を助けてくれてありがとな」
「いえいえ。当然の事をしたまでですよ」
にこやかに笑う少年は"それでは"と回れ右で何処かに行ってしまった。
もう一度深い眠りにつき暫くした後、検査の時間だと起こされる。
「異常は無さそうですね。この調子だと直ぐに退院できそうです」
「そうか、なら良かった」
異常は無いと言ったが俺の右腕が気になる様でじっと見つめてくる。
丁寧に包帯が巻かれている所を見ると出来る限りの治療はしてくれている様だ。
「なぁあんた」
「あ、すっすみません!えっとただ少し心配だっただけで……」
「大丈夫だ、咎めるつもりなんかねぇよ」
慌てて自分の行動の意図を説明する少年を落ち着かせる。
治療をしてくれたのはこの男みたいだし、まぁ気にもなるよな。
「えっと、あんたの名前を教えてくれないか」
「あぁ僕の名前は"シオン・ザイツ"と言います」
少年は名札を見せながら名乗る。
名札あったの全然気付かなかったな、まぁそれは置いとくとしよう。
俺も彼に名乗り少し会話をする。
と言ってもあの二人の事が殆どだったがアルシアは無事に起きているようでホッとする。
問題はトランの方だ。
左目の魔石で出来ている仮面の様なものは取り外せなく、意識も戻っていないらしい。
魔石の仮面、あの時から姿は変わっていないのか。
聞きたいことは大方聞いたので、ここの事を案内して貰う。
その道中で病院食を食べているアルシアを発見した。
「よっ」
「やっほアデラ」
様子を見た感じ元気そうで良かった。
「私は直ぐ退院出来るって言われたけどそっちは?」
「俺も同じだ。となると残るは一人か」
彼女も俺と同じ様にトランの事を気にしているらしい。
まぁあんな訳が分からない状態何だから余計気にもなるか。
そんなこんなであっという間に退院の日になった。
「色々と世話になったな」
「いえいえ。お気になさらず」
俺達は取り敢えず近場の宿にでも泊まろうと話しているとシオンはこんな事を提案してきた。
「良ければ家の宿に来ませんか?今日くらいはサービスしますよ」
どうやら彼の家は宿屋らしい。
これは
暫く歩き彼の紹介した宿屋につく。
「おばさーん!」
そう彼が呼ぶと奥から一人の女性が姿を現す。
どうやらここの女将さんらしく彼が俺達について事情を説明すると快く了承してくれた。
一日分の旅費が浮くとは何とも運が良い。
そうして俺達は一度部屋を確認した後シオンにこの国の案内を頼んだ。
「それじゃ改めて、"クロリジョム王国"へようこそ」
そこからは彼に色々と説明を受けながらここを練り歩いていく。
歩きながら話している内にお互いタメ口になったりと少し親密になれたようだ。
そうしていると道の端で泣いている少女を発見する。
どうやら母親とはぐれ、おまけに膝を擦りむいてしまったらしい。
「医療道具あったかな?」
少年は小さな鞄の中をガサゴソとかき回す。
「私に任せてよ」
彼女は少女の元に近づき目線が合う高さまで
「ちょっと待っててね」
そう言うとアルシアは少女の膝に手を
《"
温かな光に包まれた傷痕はまるで最初から無かったかの様に癒えていった。
その光景をを驚愕した様子で彼はじっと見つめる。
「どう?もう痛くないかな?」
「うん!ありがとうお姉ちゃん」
少女から涙が消え明るい笑顔で礼をする。
そこからはその子の母親を捜し無事に再会させる事が出来た。
「それにしても驚いたよ。まさか治癒魔術を使えるなんて」
「えへへ、
彼女は照れくさそうに笑みを浮かべる。
「うちのアルシアは凄かろう!」
「何でそっちが得意気なのっ!?」
そうふざけ合う俺達を見て彼は笑みを溢す。
辺りが少し暗くなっているのに気付く。
トランの御見舞いの品でも買って帰ろうとしたその時奥の建設中家の一部からキラリと嫌な光りが見える。
何だ……?気になった俺はそこに行こうとしたその瞬間バキンッと音を立て鉄骨が折れ家が崩れ始める。
「うわぁぁぁぁぁ!!!?」
遠くから人々の叫び声が聞こえてくる。
折れた鉄骨が近くの人々に降り注ぐ。
まずい・・・あのままではあそこにいる人達は無事で済むことはないだろう、このままでは確実に死人が出てしまう。
その考えが過った時にはもう身体は動いていた。
《"
俺は降り注ぐ鉄骨の中に全速力で向かう。
あの場にいるのは五人程。
体の節々が痛く長くは使えない。
あの場の全員を助けるには最短でいくしかない。
《"
助けるべき人の位置を頭に流す。
落ちてくる鉄骨を足場にしたり等をして出来る限りその場から離す事が出来た。
良し!これなら全員無事で──その時だ、プツリと糸が切れた人形のように体に力が入らなくなる。
まずい、最後の一人だと言うのにこのままでは俺共々潰されてしまう。
それだけは何とか回避しなければならない。
アルシアは走って来てはいるものの、距離が離れているためここから助けて貰うのは厳しいだろう。
だったらせめてこの人だけでも。
「コイツを頼む!!」
鉄骨から視線を外し、ギリギリ動く左腕を使って何とか最初に目についた男に抱えていた人を投げ渡す。
咄嗟に上を見る。すると鉄骨はもう目と鼻の先にまで来ていた。
時間がゆっくりと進む。
人は死を感じ取ると時がゆっくりと進んでいるように感じるのは本当だったのか。
そう目を瞑り大きな鉄が地面に落下する音が聞こえた。
・・・痛みが全くと言っていい程感じない。
これは痛みを感じる間もなく死んでしまったと言うことで良いのだろうか…?そう考えていると必死に俺を心配する声が聞こえた。
「おい!アンタ大丈夫か!?」
すると目の前には散乱する鉄骨があり、俺は先程助けた人達に助けられる形になっていた。
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