2話:出会いと約束

 暖かい。そして何だかふわふわする。

 ここは……天国なのかな?でも確か僕は…僕は……


「────」


 深海から引きずり出された様に目を覚ます。

 するとそこには見慣れた天井があり、隣には僕の手をぎゅっと握ったまま眠っている母の姿があった。


「アルク。朝御飯が出来たぞ……」

「あ、えっと……おはよ」


 扉を開き母を呼びに来た父は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、涙を流しながら僕に抱きついてきた。


◆◆◆◆◆◆


 僕は父と約束していた"ソルム王国"に連れていってもらう事になった。

 と言っても大分無理やり連れてきてもらったけど。


 遡ること数時間前。本当なら家でゆっくりしているのが一番何だろうけど、この世界で初めての遠出だ。

 これを断ろうだなんて到底思えなかった。

 まぁ僕の我が儘のせいでちょっと両親が喧嘩したけど。

 数分で仲直りしたから良しとしよう。

 ……帰ったらお母さんに謝ろ。


 馬車の中で今日ソルム王国へ出向いた目的を説明してもらう。

 なんでも魔獣(まじゅう)の動きが活発になっているため仲の良い国王との会議があるようだ。

 魔獣か……昨日の女と何か関係があったりするのだろうか?そんなことを考えている内に目的地へ到着した。


「ここがソルム王国かぁ」


 ヨーロッパの城下町のような町並みが目に映る。


「トランこっちだ行くぞ」


 父に呼ばれついて行き城の前につく。

 門番に入門許可証を見せる。


「お待ちしておりました。さぁこちらへ」


 城の前の門番に通してもらい国王の前まで案内してもらう。


「よく来てくれた"ロード"」

「久しぶりだな、"ライド"」


 二人とも軽い挨拶を交わす。

 どうやら二人は幼馴染みの様なモノであり、よく母を交えた三人で遊んでいたのだとか。


「そこの子がトラン君か?」


 国王が僕の方に視線を移す。

 父は僕を紹介し、僕は緊張しながらも国王に挨拶をする。


「あぁ息子のトランだ」

「初めまして国王様、ロード・メロニコスの息子"トラン・メロニコス"と申します」

「そうかそうか、そう畏まることもない」


 国王は笑いながら答える。

 正直そう言ってくれて安心した。


「ライド、"アデラ"君は元気にしてるか?」

「あぁ相変わらずの暴れん坊だかな」


 どうやらアデラと言うのは国王の息子のようだ。


「ライド、トランは本が好きなんだが書庫に案内してもいいか?」


 書庫があるんだ!

 僕は心の中でガッツポーズをする。


「そうか、ならば家の使用人に案内させよう」

「トラン、書庫で大人しくしていろよ」

「分かった!」


 そう言うと国王の使用人は僕を書庫へと案内してくれた。

 さぁ一体どんな本があるのだろう。

 そうして書庫についた僕は読んだことの無い本をとてもワクワクしながら読んでいる。

 本に夢中になっていると後ろから声をかけられる。


「お前か?ライドの息子のトランってのは」


 振り向くと見知らぬ子供が立っている。

 てか初対面でお前とは、しかも呼び捨てだし失礼なやつだなぁ。


「そうだけど、何か用?」


 僕は少しムッとしながら答える。

 そうすると目の前の子供はニヤリと笑う。


「トラン、俺と勝負しろ!」


 少年は木剣を俺に向けながらそう言い放つ。


「待って待って、何で君と勝負しなきゃならないのさ!」


 僕は戸惑いながらそう質問する。


「俺は自分で国を築き国王になるんだ、国王になるんだったら強い方が良いに決まってるだろ!」

「だからって何で僕なのさ!?」


 子供は何でこうも訳の分からない理屈で喧嘩を吹っ掛けるんだ。

 頭が混乱しっぱなしだが一つ分かっていることがある、それは恐らく彼が国王の息子だと言うことだ。


「つべこべ言わず、俺と勝負しろ!」

「お断りだ!」


 そう言うと僕は本を閉じ少年から逃げる。

 ただ本を読んでいたいだけなのに何でこんなことになってんだ!


「待て、逃げるな!」


 少年は木剣を振り回しながら追い掛けてくる。       捕まってたまるかってんだ。

 父さんの言いつけを破る事になってしまうがこの際仕方ない。

 僕は城の物陰に隠れながら、近くの森に逃げた。

 ここまで来ればもう追ってこないだろう。

 だが、そんな考えは甘かった。


「こんな所まで逃げやがって」

「うわ!?」


 少年が目の前に立っており、俺は驚き尻餅をつく。


「そんな驚く事でもないだろ?」

「驚くよ!ここまで追ってくるとは思わないでしょ!」

「逆にここまで逃げたことに驚きだよ」


 少年は冷静にツッコミを入れる。


「まぁここまで来たらもう逃げられないぞ、大人しく勝負しろ!」

「だから断るって言ってるだろ!」


 僕は少年と言い争いをしていると、奥からガサガサと物音が聞こえてくる。


「何だ誰かいるのか?」


 少年は物音が聞こえた方を向き、そう話しかける。


グルルルル……


 奥から唸り声が聞こえてくる。どうやら人間ではないようだ。

 僕は立ち上がり少年は、木剣の刀身を引き抜き鋼の剣を現にする。

 てかそれ鞘だったのか。

 僕が剣を見ていると少年は俺に声をかけてくる。


「何ボサッとしてんだ、そろそろ来るぞ!」


 ズシン、ズシン


 足音がどんどんと近くなってきている、俺と少年は戦いに備え身構える。

 姿を現したのは目がとても黒に近い紫色に光る大きな狼のような魔獣だった。


「こんなデカさの魔獣見たことねぇ…」


 少年が魔獣のデカさに驚愕する。

 実際どの資料でも魔獣の大きさは、最大でもライオンくらいの大きさしか発見されていない。


「とりあえずアイツを動けなくするぞ!」


 少年は魔獣の足を狙い突っ込む。

 その時俺は、魔獣の動きに違和感を覚える。


「下がって!」


 そう僕が叫ぶと同時に魔獣は咆哮ほうこうする。

 そうして魔獣の足の毛が逆立ち、針のように鋭くなる。


「あっぶね!もう少しで串刺しだった」

「大丈夫?」


 少年に駆け寄る。


「あぁ、でもよく気づいたな」

「あの魔獣、明らかに君の動きを見てたのに微動だにしなかったんだ」

「なるほどな、まぁ知らせてくれてサンキューな。後俺は君じゃなくて…」


 魔獣は少年の言葉を遮るように攻撃を仕掛けてくる。


「クソッ、おい!俺が今話してただろうが!!」


 少年は魔獣にそう怒鳴る。

 こんな状況だってのに元気だなぁ。

 また魔獣は前足を大きくなぎ払い二人を狙ってくる。

 僕達は後ろに飛び回避する。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!とにかく今はアイツをどうにかしないと」

「それもそうだが、どうにかするってどうやって?」


 考えろ、絶対に何かこの状況を打破する方法があるはずだ。

 俺は必死に考え続ける、そうして僕が持っている魔術書が目に入る。


「これなら!」


 僕は魔術書を生き良いよく開く。

 頭の中に無数の文字と映像が流れ込んでくる。

 この魔術ならなんとか出来るかもしれない。


「君!僕が足を止める、その隙に仕留めてくれ!」

「君じゃねぇ!まぁいいやなら足止めは任せるぞ」


 僕は魔獣の足元に意識を集中させる。

 その瞬間本が輝き、無数の文字が浮かび上がる。


《"拘束蔓ヅルクハイトッ!"》


 魔獣の足元を中心に縄のように草が伸び体を縛る。


グルァァァァァ!!!


 魔獣は体を暴れさせつるを千切る。

 だが千切れようともすぐに草が生え、魔獣の体を縛り付ける。


「今のうちにやっちゃって!」

「了解!さっさとキメさせてもらうぜ!」


《"切魔の剣グラディオス!!!"》


 少年は魔獣の首を狙い一気に斬りかかる。


「そォら!!」


 少年は首を一刀両断し、魔獣を仕留める。


「すごいなぁ…」

「そりゃ伊達に色んな奴と戦ってないしな!」


 少年は得意気に言う。

 喧嘩を吹っ掛けまくってるのは自慢することなのか?て言うか喧嘩だけでここまでの強さにはならんだろ。

 少し疑問は残るが凄いのは確かだ。


「さてと…これどうしようか?」


 少年は倒した魔獣の方を見てそう口にする。


「待っててそれなら」


 僕は本を開くと呟いた。


《"無限収納庫アペイロス・レポノ


 ゲートのようなものが開き、魔獣の体が中に沈んでいく。


「すげぇなそれ!どうやってんだよ」

「まぁちょっとした魔法だよ」


 僕は得意気に答える。

 実際はそう簡単に出来るものではないのだが、少年も一撃で首を斬り落とすのだ、少しは僕も調子に乗っちゃってもいいだろう。

 そうして僕達は城に戻る。


「二人とも一体何処に行っていたんだ!」


 父さん達が僕達の元にやってくる。

 分かってはいたが相当心配をかけさせてしまったようだ。


「ごめんなさい…」


 僕達は深々と頭を下げる。


「まぁ怪我がないのならとりあえずは良い」

「あぁだが、これからは勝手に森に入ることなんてないようにな」


 父さん達はそう伝える。

 二人には本当に申し訳ないことをしたと反省している。

 そうしてこの日は停まらせてもらい、一日が過ぎた。


────────◆◆◆◆◆◆───────


「世話になったなライド」

「あぁまた新たな情報が入れば呼ぶ、その時にまた来てもらえるとありがたい」


 国王と父さんは会話をする。

 今日帰ることになるが、正直言うともっとここの本を読んでいたかった。

 昨日は誰かさんのせいで殆ど読めなかったし。


「おいトラン!」


 少年が声をかけてくる。

 正に噂をすればってやつだ。

 そういえばまだ今日は姿を見てなかったな。

 すっかりまだ寝ていると思っていた。


「あの時の」

「お前ずっと君って言ってたろ!俺の名前はアデラ、"アデラ・ニルマーン"だ!!」


 少年は名を名乗る、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。

 やはり予想通り国王の息子であったか。


「それでどうしたのアデラ?」

「今日は折り入って話がある」


 話とは何だろう?また勝負しろとかじゃなきゃ良いが。


「俺が十六歳になった時、一緒に旅に出てくれないか?」


 旅に出るか・・・確かにこの世界の事を知るためにもいずれ旅に出ようとは思っていたけど。

 僕は不安気に父さんの方を見る。


「そんな顔するな、良いぞ行ってこい」


 父さんがそう答えてくれると僕はパァと笑顔になり、アデラの方を向く。


「行く!僕もアデラと一緒に旅に出る」

「よし決まりだな」


 アデラはニヤリと笑い、そう答える。


「ハハハッ、旅に出るならばそれまで修行三昧だぞアデラ」


 国王は笑いながらアデラにそう言う。

 僕も強くなるために頑張らなければ。


「それじゃ俺達はそろそろ出るよ」


 父さんは国王にそう伝える。


「じゃあ十六歳になったらこの国に来てくれよトラン!」

「あぁ約束なアデラ!」


 そうして僕達は約束のハイタッチをする。

 十六歳になるまで二人は強くなるために修行を積み、またソルム王国に集うことになった。

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