プロローグ第1話が、本作の奥行きを一気に示している。
2011年、マレーシアで偶然望遠鏡を覗いたベーカー博士と、日本の山梨で同じ天体を発見したアマチュア天文家・広田和夫。二人の名前を冠した「ヒロタ・ベーカー彗星」が世界を揺るがす中で、この第1話は彗星の発見という壮大な出来事ではなく、広田という一人の孤独な老人の内面を丁寧に切り取る。
「自分の名前が付いた彗星を、生きているうちに見届けたい」
仕事に没頭するあまり家族を失い、娘の結婚式にも出なかった。それでも娘は孫の写真を送り続ける——「まるで曠野の合間から顔をのぞかせる流れ星のようだ」という比喩が、広田の孤独に小さな温もりを灯している。
宇宙のスケールで描かれる世界の危機と、一人の老人の小さな願いが同じ重さで語られるこの構成が巧みで、物語の核心である「誰でもない男の幸福」という主題を予感させる重厚なプロローグだ。