第3話 大きすぎる脅威 side:ヒーロー

「おい、その話は信憑性があるんだろうな? 騙されてねえのか?」


 情報を持ってきた新人ヒーローに対して、野生味のある巨漢のヒーロー、ガンケン頑拳が彼に対して真偽を問う。


「はい、俺たちが考察している力と類似しているので、全部嘘っていうわけではないと思われます」


 ソラから伝えられた情報はヒーロー間で共有され、パラライズの居場所も突き止められていた。彼らが動けないのはただ一つ、情報が確かなら突入しても勝てないから。

 敵にアロー・ボーの封印能力に電気の力が合わさっている。そんな化け物は誰も相手にしたくない。能力の麻痺が彼らの突撃する意思を削いでいた。もし、アロー・ボーと同じならば、パラライズ死後も力が麻痺したままでヒーローとして戦えなくなってしまうかも知れない。


 アロー・ボー殉職後に力を取り戻した悪人による治安の乱れが起こらなかったことで判明した封印能力の永続性。パラライズの攻撃を受けることがヒーロー人生の終わりへと繋がってしまう。


「パラライズのやつ無敵かよ。ゴムで電気を遮断しようとしたヒーローも意味がなかったのに」


 ガンケンはしみじみとこの場に集まるヒーローの思いを代弁するように嘆いた。そのヒーロー、ゴムマンのおかげで彼女が麻痺という能力があることを知れたのだが、そのことは何の気休めにもならない。


「でも、それって“かも知れない”レベルの話だろ?」

「じゃあ、お前。それが外れてるかもしれない方に、賭けられるか?」


 上位ヒーローの中でも若い正義感の強いヒーローが躊躇するヒーローを見て楽観的な意見を述べる。しかし、ガンケンにその勇気があるのか聞かれて黙ってしまう。上位ヒーローたちの話し合いは一週間近く続いた。

 誰でもいいから討伐に行ってくれ、そういう空気で一致したその時を狙ったように一人のヒーローがパラライズ討伐を宣言した。


「私がパラライズを討ってみせましょう」


 宣言したのは俊足のヒーロー、クイック。誰もが彼女を見て理解した。負けそうになったら、こいつ逃げるなと。ただ、誰もそのことを指摘するヒーローはいなかった。


 クイックの言葉で終わった会議を終えて、私は訓練場へと足を運ぶ。ナリアの1m以内に近づくのは危険だ。なら、簡単。近づかなければいい。私は新人ヒーローたちがナリアの相手をしている隙をついて彼女にナイフを投げれば、私の勝ち。


「凶悪な怪人パラライズの弱点から潜伏場所まで丸裸にした。私とともに栄誉を得ようとするものはついて来い」


 会議に参加している上位ヒーローも常に参加しているわけではない。怪人との戦闘やパトロールで抜けることはある。せっかく、会議に怪人との戦いで硬派なヒーローが参加できない時に名乗りをあげたんだ。止められる前に早く行かないと。


 参加するヒーローは簡単に集まった。その中からヒーローを厳選する。私が勝てる場面を有効的に作ってもらわないと。粘液のヒーロー、ネバー。頑丈さが売りのヒーロー、タングスト。集団隠密をかけるヒーロー、ハイド。そして、遠くから一気にネバーに動きを止められたところを仕留める私だ。

 タングストは正直、役に立たないと思う。でも、彼の巨体は新人のネバーの心に余裕を持たせてくれると思う。この作戦の要はネバー、君だよ。


「俺にそんな重要な役割って大丈夫ですかね?」

「大丈夫、大丈夫。捕獲任務についたことがあるんでしょ。今回は一時的に動きを封じてくれるだけでいいから」

「俺もお前のことを守ってやるよ」


 うんうん。流石、タングスト。君は彼の精神を強く持たせてやるだけでいいからね。まあ、失敗しても上位ヒーローの私とハイドは逃げるけどね。上位ヒーロー死亡なんて記事は世間的によろしくないし。


 住んでいる場所が変わったことが諜報員から知らされた。でも、問題なし。大きい木が近くにある場所になったおかげで逆にやりやすいかも。襲撃のタイミングはソラという情報提供者が買い物から戻るタイミング。ソラを迎え入れた瞬間を討つ。


 数秒で向かえる500m先から私はシノブたちのことを双眼鏡で見守る。扉が開き、ナリアが姿を現した瞬間、ゴム防具を身に纏ったネバーが粘液弾を命中させる姿が見える。そのまま、タングストがゴムの槌で頭を叩こうとする。


「よくやった。ネバー」


 これが、失敗しようと関係ない。1m以上先から私がナイフでトドメを刺せば――


 次の瞬間、世界が白く染まった。白い閃光のあと、世界は音も動きも失った誰かの絶叫が聞こえた気がしたが、その声が自分のものであったのかさえ分からなかった。体が動かない。何もできない。私は血まみれで血に伏せていた。


「嘘だ、嘘つけ。射程1mなんて嘘じゃないか」


 どうして近づいていたとはいえ、50mもまだ距離のある私が麻痺しているの? 急に動かなくなった体は地面に衝突してボロボロ。ハイドも木から落ちて、首がおかしな方に曲がっていた。彼女は失念していた。射程1mは金属を持って近づいた時の無意識による能力行使であると。

 彼女は以前から街の大半の人々を麻痺させることが可能ということを忘れていた。射程が1mのはずがなかった。


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