最終章:プロローグ

最初に、箱があった。

それは神々が人間に与えた、「触れてはならぬもの」。

 

災厄が詰め込まれていたという。

病、争い、老い、死、

裏切り、孤独、貧しさ、憎しみ。

 

そして、それらすべてが解き放たれたとき――

たったひとつ、箱の底に残されたものがあった。

 

それを人は「希望」と呼んだ。

“すべてを乗り越える力”

“終わりの中にある、はじまりの光”

 

だが、ある者はこうも言った。

「それは、最後の災厄だったのではないか」と。

 

 

時は流れ、

星は巡り、

神々は沈黙し、

人は神話を忘れた。

 

それでも箱は、どこかにあった。

深い地の底か、記憶の奥底か、あるいは――未来そのものの中に。

 

 

そして、はるか未来。

人類は滅びを目前にし、こう叫んだ。

 

「まだ、あの箱に“希望”が残されている!」

 

 

彼らは再び箱に手を伸ばした。

最後の願いを込めて。

終わりを変えられると信じて。

 

 

だが誰も知らなかった。

箱の底に残っていた“それ”が、

ほんとうに“救い”だったのかどうかを。

 

 

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