12 ジャスパー:永遠の夢
脅迫文を聞いた美夜に緊張が走る。美夜は考えていた。
(じゃあ、今までの結婚式で璃沙さん達がいなかった理由って…その指定された場所に向かっていたから…?)
抜かりない相手の手口に美夜は背筋が凍る。美夜は難しい表情を浮かべた。
「指定された場所には、誰かいたの?」
美夜の質問に対して広也は答えた。
「いた とは言っても 警察に見つかって連行されたけどな」
「名前は…!?」
美夜が聞くと、広也は眉を潜める。
「…『ヒカリ』って女だ 話を聞く限り 綺瑠の元カノで間違いないな」
美夜は血の気が引いた。犯人が一人ではない事は知っていたが、まだまだいるのではないかという不安に駆られている。美夜は一歩後退してしまうと、真後ろにいるヒナツが支えてくれた。
「大丈夫?白原さん。」
しかし、美夜はその声が耳に届いていなかった。
(三人目…。やっぱり、複数人でこの計画を実行しているんだわ…!じゃあ、あと何人いるの…!?)
美夜は急に、悪意の視線が自分に向いているような気がしてくる。次はどこから襲って来るのかとキョロキョロし始めると、進也は心配した様子に。
「美夜、しっかりするっすよ!」
更に美夜は嫌な予感がするのか、階下が燃え上がる式場を見上げた。その式場には、まだ綺瑠がいる。
「綺瑠さん…!」
美夜は顔を真っ青にしながらもそう呟くと、我を忘れて走って式場へ向かった。それを呼び止めたのは広也。
「待て!!」
それでも足を止めないので腕を掴むが、美夜はそれを振り払った。
「ダメ…綺瑠さんが殺されちゃう!!いやッ!」
「落ち着け美夜ォッ!!」
広也が張った大きな声を出すので、美夜は我に返ったのか大人しくなる。それを見るなり広也は冷静な様子に戻った。
「こんな燃えやすい服着て綺瑠を探すだァ? 笑わせんな 自殺行為だな」
美夜は反省した顔をすると、進也も美夜の方へやってきて来る。進也は美夜が安心できるように、美夜の手を握って目を見つめた。
「美夜が危険な目に遭うってだけで、綺瑠は悲しくなるっす。璃沙と綺瑠を信じて、戻ってくるのを待つっすよ。」
「え…ええ。」
俯いて美夜はそう呟いたが、必死に自分を落ち着けようと頑張っている二人を見て静かに深呼吸。それらを見ていたヒナツは言った。
「そうよ、落ち着いて白原さん。綺瑠の事ですもの、白原さんと結婚したくてしたくて死に損なっても戻ってくるわ。」
そう言ってヒナツがニッコリ笑うと、美夜はヒナツの方を見て無理に微笑んだ。するとそこに、ヒナツの弟であるリョウキが走ってやってきた。リョウキは美夜を心配している様子。
「美夜さん!大丈夫か!?」
「リョウキくん…、結婚式に来ないんじゃなかったっけ…?」
美夜が言うと、ヒナツは苦笑。
「白原さんと綺瑠の結婚式には出ないって言っておきながら、しっかりついてきて車でスタンバイしてたわよ。白原さんをひと目見たかったんじゃないかしら。」
「なるほど…」
美夜が言うと、リョウキは美夜をお姫様抱っこ。突然の事に美夜だけでなく、広也や進也も驚いた顔。リョウキは言った。
「大丈夫、今すぐ俺が安全な場所まで連れて行く!」
そしてリョウキは美夜を連れて走り去る。それに慌てたのは広也と進也。
「おい! 待てデカブツ! 誘拐かアァン!?」
「待って欲しいっすよ~!」
こうして、二人は連れられる美夜を追いかけていた。
五時間経った後の事。外は雨模様だった。
美夜は近くの披露宴にて参列者と共に避難していた。打ち付ける雨を降らせる厚い雲は空模様だけでなく、披露宴にいる人々の心までも覆い隠した。美夜の表情は優れていない。進也も退屈そうにしておりテーブルに寝そべっている。
「帰ってこないっすね、綺瑠も璃沙も。」
「それを言うなっ」
と言ったのは広也。すると、美夜の表情は更に暗く。二人はそれに罪悪感を感じていると、リョウキは美夜の花嫁衣裳を気に入っているのか嬉しそうに言った。
「美夜さん、本当に綺麗ですね花嫁衣裳。」
「ありがとう…リョウキくん…」
美夜は無理に微笑む。するとリョウキはドスンと美夜の隣に座った。それが許せないのか、払うように威嚇したのは広也。
「退け! そこは綺瑠の席だ!」
「フン、今はいないだろ。」
リョウキは広也に対して冷たく答えるのであった。広也は怒りを覚えた顔をしており、進也はそれをなだめていた。
そこで、披露宴の会場の扉が開く。美夜は真っ先に扉を見た。綺瑠が来ていると期待したからだ。しかし、そこにいたのは数人の刑事。美夜の期待は見事に砕けた。
ちなみに刑事と共に、ヒナツも入ってくる。刑事達は、美夜の方へやってきた。美夜は顔を上げて刑事達を見ると、刑事の一人が言った。
「先程、式場の火が全て消し止められました。」
それを聞くと、美夜は思わず席を立つ。
「じゃあ綺瑠さんは!?」
そう聞かれると刑事達は神妙な面持ちで顔を見合わせた。その表情に、美夜は嫌な予感がする。刑事は言った。
「焼け跡から、三人の遺体が発見されました。二人の男性の遺体と、一人は損傷が酷く性別の確認はまだできていませんが…。
こちらの本郷さんに確認を取ったところ、その一人の男性の遺体が奈江島綺瑠さんのものとわかりました。」
美夜はそれを聞き、愕然とした。再び美夜は夢に生きている様な感覚を覚える。広也は俯いて悔しそうに口を噤んで、進也は信じられないのか呆然としていた。ちなみにリョウキは平気そうな顔。
ヒナツは美夜の近くに来ると、気の毒そうな表情のまま言った。
「綺瑠の遺体…結構綺麗だったから、綺瑠で間違いないと思う。あと、綺瑠の傍に人型のマネキンがあったって…。もしかしたら璃沙さんだと思うの…。」
美夜は愕然としたまま、やがて大粒の涙を零す。そして塞ぎ込んで泣き出した。
「なんで…!なんで綺瑠さんと璃沙さんが…!こんな目に…!!」
すると進也も泣き出し、大声で言う。
「綺瑠ぅ!璃沙ぁ!死んじゃ嫌っすよぉ!!」
広也は冷静なままで、席を離れて刑事の前に立った。
「遺体と顔合わせできないのか? そのマネキンも 俺達の大事な家族だから回収しといてくれねぇか?」
「え、ええ。遺体は、死亡原因の解明の後でも…よろしいですか?」
中学生の子供が大人の様な対応をするものなので、刑事は不思議そうに目を丸くして答えた。広也はそれに対して頷いた。
「そうしてくれ」
悲しみに暮れる美夜と進也を傍に、刑事からの尋問はほぼ全て広也が受け持っていた。広也は淡々と話をしてはいたが、始終拳を握り締めて悔しそうにしていた。
数日後。
美夜と広也と進也は、夕食の時間を過ごしていた。三人の空気は重苦しく話し声もない、ただただ食器の音が鳴り響くだけの時間だ。
テーブルには三人分の食事と、家族写真が立てられていた。その家族写真には、この白原家に住んでいた六人の家族が写っている。五人ではなく、六人である。
璃沙と綺瑠のいない夕御飯は、数日経っても慣れる事はなかった。進也は不安そうに言う。
「美夜は、綺瑠と璃沙の死因がわかったらまた過去へ戻るんすよね…?」
進也の言葉に、美夜は俯いて頷いた。
「うん…。でも、いいのかしら…広也くんや進也くんを残して…」
「気にすんな」
と真っ先に言ったのは広也。美夜は顔を上げて広也の方を見たが、広也は視線を合わせず。
「確かにオレ達は中学生だが オレがいればどうにかなる オレ様は天才だからな」
「それはないっす!」
と言ったのは進也。すると広也はいつものように怒り顔を浮かべた。そんな二人に、思わず美夜はクスッと笑ってしまった。美夜の笑顔を見ると、広也は安心した顔。二人を見て、進也も落ち着いた様子を取り戻す。
すると美夜は視線を逸らし、やがて言った。
「ねえ…綺瑠さんの元カノさん達が何人か固まって、綺瑠さんの命を狙っている事…どう思う?」
そう聞かれると広也は冷静な様子になって頬杖をついた。
「そうだな 急にみんなが結託するようには見えねぇから 行動の主犯がいるんだろうな結婚式の情報を掴んでる辺りも怪しい… きっと身近な人間の誰かから情報を掴んでるはずだ」
一筋縄ではいかない事件に、美夜は難しい顔を見せる。
「綺瑠さんの元カノさんを、殺しに仕向けている主犯がいるって事…?」
「計画性は一応あるみたいだからな そう考えるのが自然だ」
それを進也はつまらなそうに聞いていた。
その時、家のインターホンが鳴る。一番暇を持て余している進也が真っ先に席を立って玄関へと向かった。
「はーい!」
二人はそれを見送ると、暫く静かな時間が続いた。不自然なくらい玄関で話し声が聞こえる為、広也と美夜は何事かと思って首をかしげている。
玄関扉が閉まる音。そして、ゆっくり一歩一歩こちらへ歩いてくる音が聞こえた。異様な雰囲気。それを感じた二人は、警戒した様子になる。
そうして部屋に入ってきたのは、進也。進也は背に、袋に詰められた人型の何かを運んできた。進也の表情には活気が消えていた。
広也は悟ったのか言う。
「まさかそれ…璃沙か?」
進也はそれを聞くと、目から涙を流した。
「そうっす…!璃沙が帰ってきたっす…!」
そう言って進也は辛さと悲しさのあまり崩れて泣いてしまう。二人は急いで駆け寄ると、広也はまず進也が背負う璃沙を退かした。
「中に本当に璃沙が入ってたっすよォ…!!綺瑠も璃沙も…本当に死んじゃったんすよぉ…!!」
美夜もそう言われると虚しくなるのか、息が詰まる思いをする。広也も辛さを抱いて俯いていたが、切り替えて璃沙の入った袋を開き始めた。その突然の行動に、二人は広也を見つめてしまう。広也は璃沙を引きずり出すと、部屋を出て行った。璃沙は不思議な事に、正座している状態で袋から出てきた。
そして広也は工具を持ってきて、璃沙の身体を開いていった。美夜は一瞬、破壊しているのかと焦る。
「広也くん一体何を…!」
広也は開けるのに夢中になりながら言った。
「璃沙のメモリーだ璃沙のメモリーが損傷していなければ あの日に何が起こっていたかわかるはず!」
二人は目を丸くすると、広也はメモリーを見つけたのか取り出した。広也はメモリーを見つめると呟く。
「無事そうだな」
そして広也はそのメモリーを胸に当てた。
「璃沙…見させてもらうからな」
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