記憶のないおれは目覚めたい

@zakuzaku13

第1話 始まりはいつだってありがちなもの

空は晴天。それを遠く感じさせる、周りを取り囲む白と灰色と空を反射する眩しいガラスが特徴の建築物の群れ。地面は黒いアスファルトと白い線。そこを行き交う人の群れと信号に行儀よく従っている列を成した自動車。


当たり前の日常が広がる中、おれは目を覚ました。


いや、目を覚ましたような気がした。


何故こんな風に思ったか。

ーー何故ならここで寝た覚えは無いからだ。何より、気がついたらここに立っていたって方が感覚は近い。ならばこれは夢なのだろうか?


夢だと思う理由。

ーー体が軽く、そして自分に影がないように見えるから。まるで幽霊になった気分だが、そんな覚えは無いので生きているはずだ。



「…どうやったら起きれっかなぁ。」


声に出してみたが、何も思い浮かばない。頭の中にモヤがかかっているみたいでぼんやりとしている。夢なら独り言を言っていても迷惑はかけないだろう。遠慮なく喋っていても恥ずかしく無いはず。



なんとなしにポケットを探った。スマホなんか入ってたら何かアイデアが浮かぶかもしれない。しかし、見当たらない。


「あー、マジかー。」

非常に落胆した。スマホが無いなんてガッカリどころでは無い。何もできないではないか。しかしポケットを探って気がついた事だが、スマホどころか鍵も鞄も持ち合わせてはいなかった。いつも着ている紺色ポロシャツ、灰色の伸縮性のあるスラックス、黒の革靴と紺色の安い靴下。出歩く時に欠かせない雨にも強いちょっとお高めの腕時計。現時刻10時20分なり。


「はあ?!遅刻どころの話じゃねぇわ!」


何もかも頭から吹っ飛んで大慌てで荷物を取りに家まで走る。せめて財布と電車のパスケース、部屋の鍵とスマホが無ければここからじゃ出勤出来やしない。



そう感じて走り出した所で、ふとすぐに足を止めてしまった。

「おれ、どこに住んでたっけ?」

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