第29話「記憶の花は、咲いている」

それは、ただの花だった。


世界の中心――旧神律中枢の跡地に、名前のない花が咲いた。

その花は、誰も植えた覚えがないのに、毎日少しずつ数を増やしていた。


アーヴは花を見つめながら、ポツリとつぶやく。


アーヴ「……白い花、か。なんか見覚えあるな」


でも――思い出せない。



誰も覚えていないはずの名前


キルカも、セレスも、他の仲間たちも――

「レガリア」という名前を口にしようとすると、頭に霞がかかったように思い出せない。


セレス「なぜか……涙が出るの。どうして?」


キルカ「知らねぇ。でも俺も……ここに来ると、胸が痛くなるんだ」


花の群れの中心に、一本だけ違う色の花が咲いていた。

それは、紅い“彼岸花”に似た形の花。



アーヴの夢


その夜、アーヴは夢を見る。


真っ白な空間に、彼女――レガリアが、静かに立っていた。


レガリア「ねえ、アーヴ。世界は、平和?」


アーヴ「……お前、本当にいたんだな」


レガリア「うん。でもね、私のことを覚えてるのは、もうあなただけでいいの」


アーヴ「……でも、誰かが花を見て“泣いた”んだ。

誰も“お前の名前”は知らなくても、想いは残ってるんだよ」


レガリアは静かに笑い、ひとこと――


レガリア「……それなら、私、ちゃんと生きてたんだね」



朝、再び


アーヴが目を覚ますと、彼の手に一輪の白い花が握られていた。


花の中心に、小さく光る“文字”があった。


それは――


「R E G A L I A」


アーヴはそれを見て、笑う。


アーヴ「やっぱお前、“ぶっ壊す”んじゃなくて、“残した”んだな、この世界に」



ラスト直前・予告


断律剣の抜けた地面に、一筋の光が走る。

レガリアが消えてなお、何かが――“次”を示していた。

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