第15話「黒衣の審問官・ノワール! 記憶の奥に潜む罪」

神律領域・断絶空間


──神の庭は、凍りついていた。


セラフィムの剣が砕け落ち、

空から“黒衣の者”が降り立つ。


その名は――ノワール。


「ごきげんよう、レガリアさん。はじめまして。

 でも、本当は“二度目”なんですよね」


「……あなたは誰? どうしてセラフィムを止めたの?」


ノワールの唇が、にやりと吊り上がる。


「私は“記憶の審問官”。

 あなたの中にある、“開かれていない扉”を叩く者です」


「なにそれ……!」


「言い換えましょうか。

 あなたが“忘れたふりをしている罪”――私が、それを思い出させてあげます」


ノワールが手を翳す。


ズギュゥゥン!!


空間が、捻じれる。


「《神律・内界強制開示(レヴィナス・メモリア)》!」


レガリアの視界が、暗転した。



精神世界──《内なる記憶の檻》


気づくと、彼女は見知らぬ部屋にいた。


小さなベッド。

崩れかけたカレンダー。

机の上には、折りたたまれた手紙。


そして――


ベッドに横たわる“自分自身”。


「……え……? 私……?」


少女はレガリアではない。


黒髪の、制服を着た、ごく普通の“日本の女子高生”。


(……私が……転生前……!?)


ノワールの声が、脳裏に響く。


「そう、それが“本当のあなた”。

 世界に絶望して、心を閉ざして、誰の声も聞かなくなった少女」


「やめて……!」


「その手紙に書いてあった最後の言葉――

 “もう、生きる意味がありません”」



記憶:転生直前の夜


ガタガタのアパート。

一人ぼっち。

家族も、友達もいなかった。


「なんで……なんで見せるのよ、こんな記憶……!」


ノワールの声が凍るように響く。


「あなたが“異世界に転生したい”と願ったのは、

 この世界から“逃げるため”だった」


「…………!」


「誰かを助けたい? 世界を変えたい?

 それは全部、“逃げた先で意味を持たせたくて言ってるだけ”。

 本当は、ただ自分の居場所が欲しかっただけでしょ?」


レガリアの手が震える。


「それでも……それでも私は……!」



一筋の光


「誰かに笑ってほしいって、思ってた……!

 “もう一人の私”みたいに、苦しんでる誰かに、居場所をあげたいって……!」


精神世界が砕ける。


ノワールの目が見開かれる。


「――拒絶した!? 私の《審問》を……!」


レガリアが、記憶の檻を“自ら破った”のだ。


「私は……“あのときの私”を、否定なんてしない。

 私がここにいるのは、あの弱くて、逃げたがりで、孤独だった私がいたから!!」


ギャァァァアアアアアアアア!!!


精神世界が破壊され、現実世界に引き戻される!



現実世界──再び、神律領域


黒衣のノワールが、息を呑む。


「おかしい……“記憶の檻”を自力で破るなんて……」


レガリアの瞳が、燃えていた。


「私の力の根源は、“罪”じゃない。

 “痛み”と“祈り”と、そして“諦めなかった私”の全部だ!」


ノワールが後退る。


「これ以上は……想定外……撤退します」


空間が再び裂け、ノワールは去る。


だがその背中に、レガリアは告げた。


「逃げてもいい。でも、次は私が“あなた”を救うから!」

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