第9話「奪われた空! キルカ、風を裂く!」

王都・ファル=メルシュ、上空1000メートル。

光の矢が空を埋め尽くし、街に恐怖が走っていた。


「制空権は、我々処刑者部隊第六空団が掌握した」

銀翼の鎧をまとった少女が、無感情に呟く。


その名は――アルシェ=クローデル。

《神空域術》の使い手にして、対空制圧のスペシャリスト。

空中に巨大魔法陣を展開し、王都の空を“封鎖”していた。


「“風”も、“魔力”も、ここでは私のもの。反逆者は――墜ちろ」


その瞬間、空から無数の光槍がレガリアたちに降り注ぐ。


「くっ……アーヴィン、あれは?」


「魔法航路を封じられています。空間転移、飛行魔法、いずれも封殺されました!」


「だったら飛べるやつが行くしかねぇだろ――私の出番だ!」


声を上げたのは、元盗賊にして風魔術の使い手――キルカ=フェルネア。


「任せとけ、レガリア!

 空の取り合いは、盗賊出身の“風使い”にとっちゃ――ホームみたいなもんだ!」



回想:キルカの過去


かつてキルカは、空賊団フェルネア・ホークスの一員だった。

貧民街出身で、奪わなければ飢えるしかない人生。

だが、彼女には一つだけ譲れない想いがあった。


「空はさ、誰のものでもないでしょ? 私はそれが好きだったんだ」


自由に飛ぶ鳥のように。誰の命令にも従わず、ただ風に乗って走る――

それが、彼女にとっての“生きる理由”だった。


しかし、国家軍の“空封術式”によって仲間は壊滅。

彼女だけが生き残り、レガリアの元に流れ着いた。


(……だったら今、ここで取り返す!

 私の空を! 仲間の空を――全部、取り返す!!)



「《風精術・昇陣舞踏(ウィンド・ランページ)》ッ!!」


キルカの身体が風と一体化し、空を切り裂くように上昇する。


「バカな……風の抗力を無視して空間外に抜けた……!?

 《天域制圧陣》を破っただと!?」


アルシェの目が見開かれる。


だがキルカは止まらない。


「これが私の――空だッッ!!」


風を刃に変え、彼女は空中で回転しながら一閃!


「《絶式・風刃軌道“鷹翼斬(タルン・ウィング)》!!」


ガアアアァァァン!!


空中に刻まれた魔法陣が一気に断ち切られる!


「天域陣、破壊!? ――そんなこと、あり得ない……!」


アルシェは驚愕しながら落下していく。


だがその時――


「落ちてろ、秩序の亡霊! 二度と空を語るなッ!」


風が一閃、キルカの蹴りが炸裂!


ズシャァァァン!!


アルシェは地面へと叩きつけられ、制空権は完全に奪還された。



地上、歓声が上がる。

レガリアがにやりと笑った。


「……やるじゃん、キルカ」


「へっ、見た? 空ってのはな、誰にも所有できねぇ自由の象徴なんだよ!」


アーヴィンが呟く。


「空の支配権が戻った……これで、全軍展開が可能です」


戦況が、大きく傾いた。

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