十六夜の追憶〜久我琴音の英雄譚〜

小野千葉

不凋なる銀狼

開幕


「これより、日輪国特務隊の御前試合、最終試合を開始する! 両者前へ!」



高らかに審判者が宣言する。


審判者の前には刀を構えた二人の男女が立っていた。


彼らの周りには大勢の着飾った貴族達が見物しており、一等良い席には日輪国にちりんこくの皇帝が鎮座している。


ーー特務隊が主催した御前試合の最終試合だった。


審判者が男性を指し示す。



「特務隊少尉! 五十嵐景いがらしけい!」



片方の男性は穏やかに笑みを浮かべている。彼の髪はところどころ灰色と白の羽が生えており、まるで翼のようになっていた。


彼の髪は人よりも隼に近い姿だった。


審判者が女性を指し示す。



「特務隊大尉! 久我琴音くがことね!」



片方の女性は、あどけない容姿の少女だった。


大きな新緑の瞳を大きく開き、白雪の白髪を風に揺らしている。彼女が髪を結い上げている紐は鮮やかな真紅だった。


少女は好戦的に微笑んだ。


まるで緊張していない、戦いを楽しむ笑みだった。



「始め!」



審判者の号令がかかる。


男性が動き、剣先をわずかに動かした。それだけで男性の刀の周りに小さな旋風が巻き起こる。


男性は風を纏ったまま刀を少女へと振り上げた。


少女は体を屈めて刀を避けるとすぐさま身を翻して男性の背後に回った。そして、刀の剣先から雷を迸らせて男性の首に軽く当てた。


次の瞬間、男性が呻き声を上げた。


男性は体を捻ると、風の切先を琴音に向ける。


少女の頬が軽く裂ける。



(ーーああ、楽しい)



少女は刀にもう一度雷を纏わせると今度は男性の胴に当てた。


その瞬間、男性は目を見開いてーー倒れた。



「勝負あり! 勝者! 特務隊ーー久我琴音くがことね!」



審判者の号令に歓声と拍手が巻き起こる。



「流石、初春の久我だ」

「本当に一瞬でしたわね」

「元平民風情にしてはよくやりますな」

「久我伯爵も複雑な胸中でしょう」

「いやはや、人ならざる者を招き入れるのは、先祖に申しわけも立たぬでしょうに」



ざわざわと観客席で会話が繰り広げられる。


少女は刀を納めると皇帝へ一礼する。そして、周りの貴族にも礼をした。


彼女の白髪が舞い、その美しい所作に感嘆の声が上がる。そして、琴音は膝をつき深々と皇帝へ向かって首を垂れる。



「特務隊所属、久我琴音。私めは勝利を陛下に捧げます」



彼女の新緑の瞳が朝露を受けたように輝いた。

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