第43話 絶対王者、国名館

「神戸サンライズが、負けた……」

「意外だったなぁ。でもこれで3回戦が楽になったかな?」

「にしても良かったじゃんか成瀬なるなる、あのマ〇イの戦士と戦いたかったんだろ?」


 神戸サンライズ学園vs国分寺国際の一戦を見届けてそうこぼすのは、この後で2回戦を戦う東京、国名館の選手たちだ。全員が筋肉たくましい大型選手で、居並んで腕組みをしたまま3回戦に思いを馳せる――


 ドコ・ドコ・ガコ・ガンッ!


 そんな彼らの後頭部を、スポチャン武器の柄の部分でどついていく少女が一人。


「痛ってー、なにすんだよマネージャー!」

「柄でシバくなよ、痛いんだから」

 さすがに不意打ちで後頭部を殴られては、いかに強靭そうな彼らもさすがに頭を押さえて抗議する。


「2回戦がまだでしょうが! 何もう勝った気になってんの? 目の前の相手に集中しなさいっての!」


 そう正論で言い放ったのは、彼らの胸辺りまでしか身長の無い、それでいて強気そうな釣り目にツインテールの少女、国名館マネージャーの雪村 由紀子ゆきむら ゆきこだ。


「そうだな、ゆきゆきの言う通りだ」


 後頭部のズキズキとした痛みに耐えながら、主将の成瀬 鳴動なるせ めいどうがウム! と同意する。

 どんな競技の世界でも、自分たちの強さにうぬぼれて先を見すぎ、目の前の相手を甘く見て痛い目にあった優勝候補など腐るほどいる。

 彼自身かつての遠征で、相手を侮るという事の愚かさを嫌と言うほど味わったのだから。


「だが俺はどうしても3回戦に行って、あのムンダに借りを返したい。頼むぞお前ら!」


 腕組みを解いてマジ顔でそう言い放つ成瀬。答えてメンバーたちはそろって笑顔で頷いて返す。


「まかせとけ」と。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 Dブロック2回戦。私たちの次の対戦相手会を決める試合。

 ”会津おっさん白虎隊びゃっこたい vs 東京国名館高校” の一戦を見て、誰もがその実力に息を飲んでいた。


「あれが……絶対王者の実力か」

「おっさん白虎隊も十分に強いのに、どうしてああもあっさりと?」

「すっぴんの戦いでもなさそうね。白虎隊のおじさま達、研究されてるわ」


 岡吉先生の言葉通り、国名館の選手は相手の動きやクセ、得意戦法からウィークポイントにいたるまで全て知っているかのように対応していた。白虎隊側が必至なのに比べて国名館側はどこか淡々と、やるべき仕事をこなしているかのようなク-ルさがあった。


『胴一本! 西、福田選手の勝ち』


 これで4ー0。ハイレベル同士にもかかわらず試合はワンサイドゲームだ。ギリギリのところで一歩上を行く国名館の選手の技量に、白虎隊のおじさんたちは無念の表情で礼をして試合場を降りて……舞台袖で切腹のリアクションをしている。

 それを見てステラが目をキラキラさせて感激してるんだけど、うん、まぁほっとこう。


『大将戦! 東、宇部。西、成瀬』


 両チームの大将が試合場に上がる。と、同時に隣にいたムンダ君がヌッ、と立ち上がり、成瀬選手にその意思を向けるが……。


「やめとけムンダ、奴は今お前なんか目に入っちゃいねぇよ」

 黒田君に制止され、仕方なく座りなおすムンダ君。確かに、成瀬選手は今、相手の宇部選手に視線も姿勢も、そして精神も全集中させている感アリアリだ。


 試合は一方的だった。今までの国名館の戦い方とは違い、成瀬選手が攻めまくって相手の剣をあっさりと吹き飛ばしてしまった。

 一刀一刀が非常に重くかつ途切れない連撃が、達人を思わせる宇部選手の柔らかな受けをも力ずくで粉砕して見せたのだった。


「3回戦の相手、アレかよ……」

 紫炎の言葉に改めて息を飲む。先鋒から大将まで誰一人スキが無い、明らかに格上の強さを見せつけられた。黒田君やムンダ君でも敵うかどうか分からないほどに……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



「よ、予想通り国名館の試合見てしょげてやがるな」

 一度武道館から出た私達に、先の2回戦で戦ったサンライズ学園の面々が声をかけてくる。


「べ、別にしょげてなんかいないわよ!」

 さすがにここで弱気に出るわけにはいかない。こっちにもポイントゲッターはいるんだし、勝ち残り方式の団体戦ならまだ勝ち目がないわけじゃないんだから。

 他のみんなもそーだそーだと空元気を見せるが、向こうの神崎さんがそれをあっさりと否定する。


「知られてたんじゃ無理ね。見たでしょ? 国名館は相手の戦術を徹底的に調べ上げて対策を打つスタイルよ。そしてそれを可能にする優秀なマネージャーがいる」

 その言葉にうっ、と言葉を詰まらせる。確かにさっきの一戦は、相手のおじさん白虎隊たちの戦術を知り尽くした上での完勝だった。


「俺らも調べられてるって? ウチの部は今年出来たばっかだぜ」

「でも、もう2回戦まで行った。2度も見られてりゃ十分でしょ」

 紫炎の反論もぴしゃりと抑えられる。確かに私達は1,2回戦で持てる力のほぼすべてを出し切っていたと言っていい。それをつぶさに見られて研究されたら……


「あいつら全員がスポチャンマニアだからなぁ……ウチサンライズの戦い方が少々変則的なのも、奴らに研究されない為、ってのもあったんだよ」

 占部君がそう解説を入れる。まぁ確かにサンライズ学園のスタイルは個性的で、正統派のスポチャン選手は少々難儀するんだろうなぁ……まぁウチも似たようなもんだけど。


「で、ここに私たちが入手した、国名館のデータがあるんだけどねぇ~」

 小冊子みたいなものを抱えている金磯要カナカナさんが、相変わらずの暗い目でそう語りかけて来る。

 思わず「え、マジで?」と身を乗り出す私達。が、黒田君が「それはフェアじゃなか!」と手で制する。うーんもう真面目男め。


「あ、これ国名館の入部パンフレットよ、普通に一般配布してるやつだから」

 その神崎さんの言葉に全員があーあーあー、とずっこける。えらくオープンな連中なのね。

 それならまあいいかと全員が改めてその冊子に目を通すんだけど……読んでみると、国名館高校のスポチャンに対する真剣度がひしひしと伝わって来る。学校の理事長からしてスポチャン協会の役員だし、部の設備も豪華で後援会なんかもしっかりバックアップしている。

 ったく、東京とかいの強豪ってヤツはこれだから!


 で、今年の主力選手のデータなんかもしっかりと載っていた。やはり一番にピックアップされているのは、春にウチにも来た主将の成瀬選手だ。

「去年も一昨年も、個人戦の長剣両手の覇者かよ……3連覇も確実なんて書いてあるし」

「レギュラーは全員男子ね、おまけに大型選手ばっかり」

「うっわ、剣先の速度、角度測定器なんか使ってる……ウチにもほしい!」

「入レ込ミ方ガハンパジャナイデスネェ」


 これから私達、この学校と戦うのか、うーんしんどそうだなぁ……惨敗する未来しか見えないんですけど。


「ねぇ王さんルルーさん、演舞の2回目はまだなのよね」

「あ、はい」

「お昼ごろに2次審査アルよ」

 岡吉先生がその返事を聞いて、腕時計を見つつ「ふむふむ」と何か考えを巡らせている……あ、これって。


「じゃあ3回戦、二人に出てもらうわ。交代するのは……そうね、村崎君とステラさん、出番を譲ってあげて」

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