第4話 不吉な予感

修学旅行の最終日が近づくにつれ、生徒たちの間には浮かれ気分が漂っていた。

しかし、私の中では、不穏な予感が次第に現実味を帯びてきていた。

その中心にいたのは、やはり佐々木将吾だった。


将吾のSNS投稿は、日に日にエスカレートしていた。

ブラム城を去ってからも、彼はルーマニアの歴史や吸血鬼伝説に関する奇妙な詩や、抽象的な警告のような文章を立て続けにアップロードしていた。

それは、まるで彼自身が何らかの変貌を遂げているかのようだった。


「『夜の帳が降りる時、無垢な魂は闇に呼ばれん』だって。将吾くん、本当にポエマーだね」


遥がまた、将吾の最新の投稿を面白がって、私の横で笑った。

彼女は将吾のSNSをまるで娯楽のように消費し、その内容を友人たちと共有しては、さらに嘲笑するようなコメントを重ねていた。


「ねぇ、これ見てよ、美羽。『汝の血は、やがて我が飢えを満たすだろう』だって!将吾くん、怖すぎ!まじ卍!」


遥は将吾の投稿を引用し、「#闇堕ち将吾 #マジ卍」といったタグをつけてアップロードした。そのハッシュタグは、将吾の言動をさらに滑稽なものとして晒し上げているように見えた。

将吾がこれを見たら、どんな反応をするだろうか。

私の胸に、ずしりと重い石が乗ったような感覚がした。


夜、ホテルに戻ってから、私は拓海とイアナを呼び出した。


「将吾くんの投稿、最近ちょっと異常じゃない?」


私がスマホを差し出すと、拓海は眉間にしわを寄せた。


「ああ。彼の投稿を時系列で追ってみたけど、異常な高揚感が見て取れる。特に、遥さんの投稿に対しては、感情的な反応が顕著だ」


拓海は、将吾と遥のSNSでのやり取りをグラフ化した画面を見せた。

そこには、遥が将吾を揶揄するたびに、将吾の投稿の不穏さが増しているのが一目で分かった。

まるで、遥の挑発が将吾の闇を増幅させているかのようだった。


イアナは、将吾の投稿を読みながら、どこか不安げな表情を浮かべていた。


「これは…ルーマニアの古い言い伝えに似ています。心に闇を抱えた者が、邪悪な存在に魅入られていく過程の…」


イアナの言葉に、私はゾッとした。彼女の言う「邪悪な存在」が、単なる伝説上の吸血鬼を指しているだけではないような気がしたのだ。


「特に、あの『汝の血は、やがて我が飢えを満たすだろう』という言葉は…とても危険な兆候です。これは、単なる詩ではありません」


イアナは、将吾が語るドラキュラ伝説と、彼女が知るルーマニアの真の伝承には大きな隔たりがあることを強調した。

将吾の言葉は、まるで何かに取り憑かれているかのように、彼の深層心理から湧き出ているようにも見えた。


美羽は、漠然とした不安が、具体的な「予感」へと変わっていくのを感じていた。

この修学旅行で、何か恐ろしいことが起こるのではないか。

そして、その引き金となるのは、将吾の異常なまでの執着と、遥の無邪気なまでの嘲笑なのではないか。

ホテルの窓から見える、ブラショフの夜景が、普段よりもずっと暗く、不気味に見えた。

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