花火が上がったら、家に帰ること。

汐原瑞希

プロローグ

ep.1:あの日見た火の花を、君はまだ知らない。

「花火が上がったら、外には出ないでくださいね」


 奇妙なことを言われた。


「『花火』って、何?」


 初めて見る地球。ひいひいおじいちゃんたちは、地球で生まれたらしいけど、私は違う。宇宙で生まれた。厳密には宇宙船。

 そして今日、地球時間で午前10時52分。私たちは、初めて地球に降り立った。

 地球は水の星と聞いていたけど、まだ『海』を見れていない。近いうちに見に行くつもり。


「__とにかく、夜になったら出歩かないでくださいね」


 昼と夜とがあると聞いていた。それぞれの様子を見るのを楽しみにしていたのに、夜には出歩いてはいけないらしい。

 理由を聞いたが、要領を得ない答えしか返ってこなかった。


「私の親も、そうして生きてきたのです」


 そうとしか、返ってこなかった。


_____


「じゃーねー! また明日!」


 夕方。交差点でそれぞれの家の方へと別れていく、いつもの光景。

 ランドセルに夕陽を鈍く反射しながら、足早に家へと駆けていく。

 それはもちろん__


『このあと僕のサーバーで集合ね!』

『わかってるよ!』


 そう、オンラインでゲームをするためである。

 メッセージでやりとりしながら、ゲームの起動を待つ。この世で一番ワクワクする瞬間。まあ個人差はある。

 ゲームが起動。そしてオンラインサーバーの読み込みが完了。


「よーし、今日はね__」


 作戦会議の最中、外から閃光と轟音が鳴り響いた。


「『花火』、上がったね」


 何度か光って、その度に大地を揺らすような轟音が響き渡る。

 机が少しカタカタと鳴る。今日は少し音が大きい気がする。


「今日は音、大きいかも」

「マジで?」


 通話でそんなやりとりをしていると、一階にいる母親の声が聞こえてきた。

 マイクを外して返答モードに入る。


「もう外に出ちゃダメよ~」

「分かってるよお母さん!」

「お父さん、今日は間に合わないから会社に泊まるって」

「そっか、残念!」


 一階にも聞こえるように大声で返す。

 ゲームを置いて母親に返答する。世界で一番もどかしい瞬間だ。個人差はある。


「ねえねえ、ミュート忘れてるよ」

「はあ!? 早く教えてよ!」


 通話先から笑い声が響いてくる。

 夜はまだ、始まったばかりだ。

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