第7話 無礼講の食事会

 部屋の中は、先生の言った通り礼拝堂のような作りで、入口から赤い絨毯が敷かれていた。左右の椅子には十人ずつが座っていて、前方の段差の上には五つの椅子が置かれている。

 先頭の五人が緊張した面持ちで歩き出す。それに続いてぞろぞろと生徒達が入場する。左右に座る男達が値踏みするような視線を向けて来る。


 前方の段差の5m手前で先頭の五人は立ち止まり、片膝を付き顔を伏せる。生徒達が全員膝を付くと、左右に座る男達は立ち上がり、右手を胸に当てる。

 コツコツと足音が響く。恐らく王族達が入場したのだろう。


「面を上げよ」


 威厳溢れる声が響く。顔を上げると、正面の最も豪華な椅子に初老の男性が腰掛けていた。金糸を編んだような金髪。逞しい体つき。威厳に満ちた態度は正に王の風格だった。


 向かって左には、黒髪の美しい女性が座っている。優しい笑みを浮かべる女性の隣には、黒髪を短く切り揃えた青年が座る。


 国王の右には先生が座っている。豪華なドレスに身を包む先生は紛うことなき王女だった。


 そして、先生の隣に座るのは僕達と同じくらいの年の少女だ。腰辺りまで伸びる美しい金髪に整った顔立ち。透き通るような白い肌。何より目を引くのは、左右で色の違う瞳だろう。金の左目に青の右目。

 美しいその瞳に見入っていると、一瞬目が合う。が、直ぐに視線は外れる。


「異界の者達よ、よくぞ来てくれた。諸君を歓迎する」



 それから三十分程話が続いた。所々聞き取れなかったが、要約すると人族の為に戦ってくれ、みたいな話だった。現在の戦況も説明されたが、固有名詞が多く全く頭に入らなかった。

 国王の話が終わり、王族達が退出し続いて生徒達も謁見の間を退出する。部屋の外で待っていたエクレアが変わらない表情のままお辞儀する。


「お疲れ様でした。食事会場にご案内します」


 エクレアが先導し食事会場へ向かう。緊張から解放された生徒達は、列を離れそれぞれ仲の良いグループで固まる。


「あー、緊張したー」


 伸びをする暁に轟源輝とどろきげんきが肩を組む。二人とも野球部で、髪型は坊主だ。


「お疲れ幸平。それより見たかよ。カトレアちゃん」

「見たに決まってるだろ。ドレス着ただけであんなに雰囲気変わるんだな」

「ばっか、おっぱいだよ、おっぱい。あれはE、いやFはあるな」


 真剣な表情で頷く轟に暁は呆れた表情をしている。


「さいてー」


 近くにいた八神咲希やがみさきがボソッと呟く。八神は野球部のマネージャーで、教室で二人と話している所をよく見かけた。


「一番左に居た人って王子様かな?」

「めっちゃかっこよかったよね」


 楪紬ゆずりはつむぎ夢咲志乃ゆめさきしのが興奮気味に語り合っている。夢咲が動く度に揺れる大きな胸に、男子の視線が釘付けになる。それに気付いた楪が夢咲を鎮める。


「カトレアちゃんもでかいけど、夢咲も相当だよな」


 ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる轟を楪がキッと睨む。


「お前、マジでいい加減にしとけ」


 暁が真剣な表情で注意する。

 周りの会話をぼーっと聞きながら歩いていると、エクレアが立ち止まる。


「国王陛下は既に中でお待ちです」


 その言葉に生徒達の間に緊張が走る。それに構わずエクレアは扉を開けた。

 部屋の中は長机が四つ並べられており、左の机に国王、その隣の机に王妃、更にその隣の机に黒髪の青年、右端の机に先生と金銀妖瞳ヘテロクロミアの少女が座っている。


 部屋に入ると先生が立ち上がる。


「皆さん、好きな所に座って下さい」


 と言われるが生徒達は困惑する。勝手に席を決められていた方が楽だった。

 誰も動かない中、榊が真っ先に国王の座る机に向かう。


「失礼します」


 そう言って榊は、上座に座る国王の正面に座る。それに続いて大和がその隣に座った。その後に一ノ瀬が王妃の正面に座る。そこからは、各グループに分かれて続々と席に付いて行く。僕は最後に余った先生達の座るテーブルの端に座る。


 全員が座ったのを確認すると国王が立ち上がる。


「皆さんよくぞ来てくれた。先程は名乗りもせず申し訳ない。私はアステアナ王国国王コンラート・アステアナ」


 続いて王妃が立ち上がる。


「王妃のメアリー・アステアナです。宜しくお願い致します」


 黒髪を揺らし王妃がお辞儀する。


「第一王子、ゲイル・アステアナと申します。どうぞ宜しく」


 細身の体から確かな存在感を放っている。国王の逞しい体つきとは違うが、細身ながら力強さを感じる。精悍な顔つきや凛とした声は、頼りがいのある印象を受ける。


 続いて先生が立ち上がる。


「第一王女、カトレア・アステアナです。皆さん宜しくお願いします」


 優しく微笑む先生は王家の威厳を纏っていた。


 最後に先生の隣に座る少女が立ち上がる。


「第二王女、フィアナ・アステアナと申します」


 フィアナ王女は凛とした表情でお辞儀する。王妃達が座ると再び国王が口を開く。


「この場では立場は気にせず、親睦を深めてもらいたい」

「だったら言わせてもらいますけど」


 突然榊が立ち上がる。部屋にいる全員に緊張が走った。

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