和風ホラーゲームの生贄少女になってしまいましたが、全力で生きのびます
みちしお
プロローグ
ニューゲーム!
まず目に飛び込んできたのは、顔だ。
顔、顔、顔。たぶん十個くらい。
顔たちが私をのぞき込んでいる。
どいつもこいつも
顔の向こうには、枝葉に切り取られた夜空が見える。満月の夜だ。
夜空が見えるということは、どうやら私は仰向けの格好で寝ているようだった。
しかも、外で。
「ヤバガミ様ノ
顔たちは、さっきから異口同音にぶつぶつと何かを呟き続けている。
その声の隙間に、シャリン……シャリン……と鈴のような音が混じる。
寝起き特有のだるさを覚えつつも、私はひとまず上体を起こした。
すると、私の周囲には想像以上の人間がいることが分かった。
ぱちぱちと燃える松明を持っている者もいて、別の者が持つ
「ミコ様! なにを!」
一人の老婆が血相を変えて私を押さえつけ、あお向けの状態へと戻してくる。
え? え……?
老婆以外の面々にも動揺が走り、呪文のような呟きが一瞬途絶えた。
でもすぐに気を取り直したようで、呪文のような言葉が再び紡がれ始める。
これは夢か?
いや、それにしては妙に感覚がリアルだ。
私はどうも石でできた台座の上に寝かされているようで、その冷たさが背中からしみ込んでくる。
呪文じみた詠唱と、神楽鈴の音がぴたりと止まった。
ややあって、視界の端にきらりときらめくものを
それは、短剣だった。
純白の祭服を身にまとった男が、短剣を両手で逆手に持ち、私の上に振り上げているのだ。
「ヤバガミサマ。生贄のはらわたを捧げ
言下、男は短剣の切っ先を私のお腹めがけて振り下ろす――。
捧げ奉る、じゃねー!
私はとっさに身をよじり、横にぐるんと回転した。
直後、キンッと短剣の切っ先が石を叩く音が舞い散った。
私は1メートルほどの高さの台座から転げ落ちた。
痛みと衝撃で、やっぱりこれは夢じゃないと再確認する。
状況は全く理解できないけど、とにかく命が危ないことだけは分かった。
私はあわあわと立ち上がると、周囲を素早く見回した。
ここは森の中の広場のようだった。
そこに人が集まり、私をとり囲んでいるわけである。
「ミコ様!」
さっきの老婆がまた掴みかかってくる。
「なんということをされたのですか!」
それはこっちのセリフだ! よくも殺そうとしたなこんチクショー!
そう叫ぼうとしたのだが、声が詰まって言葉が出てこない。
最初の「そ」の発音が、「すぉ……すぉ……」と、か弱い言葉のでき損ないとなって口からこぼれ落ちる。
寝起きは声が出しづらいものだけど、そんなものではない。
まるで、自分の声帯じゃないような感じがする。
「儀式が、台無しではありませぬか!」
老婆がまた叫んだ。
儀式?
いったい何を言っているんだ?
とりあえず後ずさって老婆から離れると、背中が何かにぶつかった。
慌てて振り返ると、そこには、さっき私を殺しかけた祭服姿の男が立っていた。
また襲いかかってくるかもしれない。
私は素早く視線を走らせ、武器になりそうなものを探した。
幸い、足元に手ごろな木の棒が落ちていたのでそれを拾い、両手で構えた。
「ミコ様。落ち着いてください」
祭服姿の男が、子供をあやすような声で言った。
「すぉ……すぉ……」
それはこっちのセリフだ。
そう言おうとして、また声が詰まる。
「儀式を続けさせてください、ミコ様。ヤバガミ様のお怒りに触れる前に……」
ていうか、さっきから私のことを「ミコ様」って呼ぶのはなんなんだろう?
たしかに私の名前は
でも、様付けで呼ばれるような
じりじりと、周りを囲んでいる人々が距離を詰めてくる。
早くしないと、また取り押さえられてしまう。
やるしかない。
私は木の棒を振りかぶり、踏み込んだ――。
私は高校で剣道部に所属している。
渾身の
メェェェェェェェン!!
そう叫んだつもりが、やはり声帯の問題で「みゃーん……」と子猫みたいな声になってしまう。
まあいい。これは試合ではない。かけ声なしでも相手はダウンし、一本扱いになるはずだ。
私の渾身の面は、男の前頭部に見事に直撃した。
ぽんっ、と。
ぽんっ……?
ふつう、木の棒で殴られたら、ごんっ、とか、ぐしゃっ、とか、そういうエグい音が出るはずだ。
なのに、ぽんっ……?
その軽すぎる音にふさわしいダメージが、男には通っていた。
つまりノーダメだった。
男は、顔をしかめるどころか、憐れむような顔になっている。
この男、不死身か?
気を取り直し、私はもう一発、面を叩きこんでやった。「みゃーん……」と。
ぽんっ……。
やっぱり軽い音が転がって、男は平然としている。
この男、不死身だ。
「……ん?」
今さらだけど、私は自分が白装束を身にまとっていることに気づく。
そして、その袖からのぞく自分の腕を視界にとらえ、愕然とする。
ほっそ……!
腕が細いのだ。
べつに私はもともと太っているわけではないけれど、剣道部での鍛錬と日常的な筋トレで、しっかりと筋肉がついていたはずだ。
それが、なんということでしょう、今は棒切れのような仕上がりに!
こんな細腕では、そりゃあ大したダメージは通らない。
ひとつの気づきは、連鎖的に別の気づきを運んでくる。
妙に視線が低いことに気づいたのだ。
私は男子と比べても遜色ないくらい背が高い。
……はずなのだが、あの見慣れた高い視線が、今はぐっと下がってしまっている。
最初は、周りの人々の背が高いだけかとも思ったけど、違う。
地面と目線の距離を目算するに、どうも私の視線そのものが低いのが真実のようなのである。
「……」
身体が縮んでしまった!?
すると、こいつらは、あの組織? いや、その割には白すぎる。
「まだ間に合う! 儀式を再開しましょう!」
言うと、祭服姿の男が私の腕をつかんで、台座へ連れ戻そうとする。
私はめちゃくちゃに体をよじって「みゃーんみゃーん!」と叫んだ(癖になっちゃった!)。
そのとき、誰かが「誰だ!?」と鋭く叫んだ。
途端、一同の視線が遠くへ向けられる。
私の視線も例外ではなく、そちらへ向かう。
視線の
女性は、一瞬
突然の
私の腕をつかむ力が、にわかに弱まった。
このチャンスを逃さず、私は腕を振りほどき、駆けだした。
背後で「待て!」と叫び声があがったけど、とうぜん待つわけがない。
人々のあいだを縫うように駆け抜け、私は女性の腕をつかむ。放っておくことはできなかった。
「走って!」
「う、うん!」
私は女性と連れたって、全力で走った。
しかし、十数秒走っただけで、息があがってきた。
この体、とんでもなくスタミナが乏しい!
それでも体にムチ打って走っていると、ぽつぽつと民家が見えてきた。
「こっち!」
女性が私の腕を引っ張る。
されるがまま、私は一軒の平屋の中に押し込まれた。
女性も後に続いて入ってくる。
屋内は電気が消えていて、窓から差し込む月明かりだけが頼りだった。
入るとすぐ居間で、女性はそこのテーブルの下に潜り込んで、私にも早く隠れるようにと言った。
私は言われたとおりにして、テーブルの下で息をひそめた。
実際には、息切れぎれで、ひそめることはなかなかできなかったけど。
間を置かず、窓の外を人工的な光が次々と通り過ぎていくのが見えた。
あの連中が、懐中電灯片手に私たちを探し回っているのだ。
やがて、家屋のドアが外からぎぃと開かれた。
そして懐中電灯の丸い明かりが、床や壁を這いまわる。
私は両手で口を塞いで、努めて呼吸を気取られないようにする。
追跡者は、テーブルの下どころか他の部屋すら調べずに、家屋を出て行った。
なんというガバガバ探索。おかげで助かった。
私は口から手を外し、むさぼるように空気を肺に送り込んだ。
「なんとか、
隣にしゃがむ女性がほっと胸をなで下ろして言った。
「はい、ありがとうございます、助けてくれて」
私は礼を言う。
それから私たちは、ひとまず自己紹介をした。
女性は、
その名前に、私は強烈な既視感を覚えた。
私は、霧島奏さんを知っている……。
「あ!」
思い出した。
私は、奏さんの顔を正面から、今一度まじまじと見つめた。
そうだ、間違いない!
すると、うそ……この世界って……。
私はテーブルの下を飛び出し、家じゅうを探し回り、寝室に姿見を発見した。
姿見に、自分の全身を映してみる。
そこには、私、
映っていたのは、白装束を身にまとった、小柄な少女だった。
そして私は、この小柄な少女のことも知っている。
全身から力が抜けて、私は床にぺたんとへたり込んでしまう。
記憶が、脳裏に蘇ってくる――。
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