第2話 異世界行ってまた異世界


「てめえええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「ぜってええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「許さねええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 力の限り叫んだ。

 マジで本気で叫んだ。

 叫んで叫んで叫びまくった。


 気づいたら異世界。

 日本じゃない。


 だってでっけえ惑星が二つ宙に浮かんでる。

 すぐ気づいちまったぜ。慣れてるんだ俺、異世界に。慣れたくなかった。ほんとにな。神様とかの説明いらねぇんだよ。泣けてくる。


 この生意気そうなクソガキ魔王の娘のせいで転移魔法の時空歪んだ。

 術式壊れるの見えたから。

 魔王の娘は「そんなに怒んなくてもいいじゃん。馬鹿。あほ」と拗ねたように口を尖らせて地面の石を蹴っている。全力で拗ねていた。


「……うるさいなぁ。異世界の魔獣達みんな怖がって逃げてるよ」

「殺すぞ小娘」

「首、掴まないでよ。苦しいし怖いからやめて」


「うううううううううううううううううううううううううううううううううううう」

「急に泣くのやめて」


「てめええええええええええええええええええええええええええええええええええ! ぜってえええええええええええええええええええええええええええええええええ! 許さねえええええええええええええええええええええええええええええええええ! よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うるさいなぁ……」


「うううううううううううううううううううううううううううううううううううう」

「怒って泣く無限ループやめて」


 くそ! くそぉ!! くそおぉ!!!


「地面にクレーターできてるから、地面殴るのやめて。ちょっとぉ、地面から水出てきちゃってるじゃない、水脈引き当てるとか……ってなんだ。あんたの涙か」

「くそが。俺が何をしたって言うんだ。神も仏もいやしない」


 7年間だぞ。俺が勇者として守った童貞の年月。


 守ろうとしてなかったのによぉ! ノーガード! 何なら誘ってたのに! 誰も俺の童貞奪ってくれねぇんだわ! 奪われに行っても断られるんだわぁ! なんで自尊心だけ奪っていくんだ! 頼んでねぇよ!

 このまま一生守り続けろっていうのかよ、神様ぁ!


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 暗転。勇者パーティーの魔法使いに振られた時のことがフラッシュバック。本気で好きだったから一発KO、俺勇者改めサンドバッグ。


 せめて日本に帰れていればっ。

 今なら血の涙を流せる気がした。悔し過ぎて悲し過ぎて、あの時この小娘を蹴り飛ばしていればと後悔が襲う。

 くそ! なぜあの時、俺はぁっ!


「くそぉ! 言ってみろよおおお! 俺が! 何を! したって! 言うんだあ!」


「お父さん殺した」


 ……。

 …………。

 ……………………ごくりんこ。

 生唾飲み込んだ。


「……それはその、ごめん。謝って許される話じゃ、ないよな。その、すみません。どうか、許してください。あ、いや。ごめんなさい。許さなくてもいいです。僕に何ができますか? どうしたら償えますか?」


 確かにそうだ。こいつにとって俺は仇。俺が苦しむことは何でもしたいと思うのが普通だ。だからって、時空を歪めて別の異世界に送り込むなんて。しかも捨て身で。なんという恨み。俺に一番効果のある復讐。その鬼才っぷりに俺は震えた。


 顔面美少女。生意気そうな顔。赤い髪に角。サキュバスみたいな尻尾。

 八重歯くっそかわいい。背は小さめ。

 もはや全身兵器☆童貞狩り。


 痛々しい身体。血だらけあざだらけ。目には涙。


 罪悪感が俺を襲う。

 超絶かわいい美少女が泣いている。


 手をかざす。全身回復させた。

 

「すごいね。回復もできるとか。おかげで痛くなくなった。ありがとう」


 美少女から涙が消えて、はにかんだ。

 笑ったら更に数倍美少女。俺の心臓がぴょんぴょんしている。不謹慎でごめん。殺人鬼の俺をぶん殴ってくれ。


 しかも親の仇にお礼言えるとか心まで美少女。完全無敵の無欠の美少女。俺、守る相手間違えた? 次は魔王軍の味方しよう。後悔先に立たず。


「いや……そんなことはないよ。俺はただの殺人鬼だ。ごめん」


「べつにいいよ。許してあげる」

「まじかよ。あんた菩薩ぼさつか?」


 俺なんて数分前に菩薩ぼさつ名乗ったのに、今は叫んで怒って泣いて地面殴ってるっていうのに。魔王の小娘まじすげぇ。心広すぎんだろ。どんな教育受けてやがる。


 俺、反省。


 彼女見習って、今から菩薩ぼさつになるわ。


「ん? 私転生者。元日本人。父親が魔王とか言われても、人殺し過ぎてきめぇ奴としか思ってなかったの」


「てめええええええええええええええええええええええええええええええええええ! ぜってえええええええええええええええええええええええええええええええええ! 許さねえええええええええええええええええええええええええええええええええ! よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 こいつぅ。同郷かよぉ。日本帰る邪魔しやがって……。


「うるさいなぁ……」

「うううううううううううううううううううううううううううううううううううう」


「怒って泣く無限ループやめて。感情の振れ幅すごくて怖いよ」


 仕方がないだろ。


 目の前にいつも超高級松坂牛があって食べてもいいよすごくおいしいよだから頑張ってねって散々煽られて口に含んだら、口の中でそれがうんこに変わったの想像してみろよ。気が狂うぞ。食べてる途中に牛肉がうんこに変わる苦しみわかるか? 俺は初めて知った。脳みそ飛んじまうんだぜ。日本だと思ったら異世界とかマジクソ。


「ほら。泣くのやめてよ。日本なんて帰ったっていいことないよ。毎日満員電車に揺られて。ずっと働いて節約して税金納めて。最近の若者はって優先席座るおじぃちゃんに説教されて、よくわかんないけどすみませんって謝ってさ」


「それでも! うんこを噛み締めるよりはさぁ! うんこはもう嫌だよぉ!」

「一体何の話……?」


 俺は泣いた。異世界にいるより日本の方が希望がある気がする。隣の芝生は青い。


「だってよぉ! 日本にはアニメも漫画も小説もあるじゃねぇか!」

「ま、そうだけど。でもさ異世界だったらお金稼げるよ、強いし。きっとモテモテだね。異世界人、かわいい子多いよ。何股するつもり? 一夫多妻もできるかもね。きっと楽しいよ。わくわくだね」


「殺すぞ小娘」


 こいつは何も分かってねぇ。俺のモテなさを。

 強くても金があってもモテない奴はモテない。異世界転生アニメは幻想だ。日本のモブ男の俺がモテるわけがない。分かりきっている。


「怖いから急に殺害予告するのやめて。さっきまでうんこの話、してたじゃない。何でそんな殺伐としてんの? めちゃくちゃ優しい勇者で有名だったよ。みんな勇者はすごい人格者だって言ってたよー。沢山の人をしあわせにしたんだね。すごくすごーく、えらいねー」


「ううう」

「え、ちょっと。静かに泣くのやめてよ。ガチ感出されるの困るんだけど。あーほらやめなよ。ほら立って。膝をついて天を仰ぐのやめてー。ヒロイン失った主人公の泣き方じゃない。始まったばかりなのにバッドエンドムーブやーめーてー。よしよし。何があったか教えて。ね」


 俺は魔王の娘に異世界の辛さ、全てを話した。

 モテないことを隠して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る