第34話
風呂から上がり脱衣所に出ると、乾燥運転を開始した洗濯機をじっと眺める瑠琉ちゃんがいた。
私に気付いて、胸元を無言でじっと見つめてくる。
何も言ってこないのが余計恥ずかしくて、すぐにバスタオルで隠すと瑠琉ちゃんは結局何も言葉を発さないまま出て行ってしまう。
火照った身体はいつも以上に煩悩を活発にさせるから、早いうちに出て行ってくれて良かったと思う。でも惜しい気持ちもあり、早くみんなと寛ぎたくて髪を完全には乾かさず急いで部屋へと戻った。
ベッドでは七子ちゃんがいつも通り春咲きの続きを読み耽り、なぜか開いてるクローゼットに足を掛けて寝転がる雪ちゃんがいる。
ソファを見ると三夕ちゃんは沙李奈ちゃんを抱いていて、一緒にドラマを見ているのが分かる。反対の端には涼葉ちゃんが座っていて、瑠琉ちゃんが頭を三夕ちゃん、脚を涼葉ちゃんに乗せ、半ば強引に寝そべっていた。
戻って来るときに持ってきた缶ビールと袋の開いたスルメイカの珍味をローテーブルに置き、視界が遮られ見づらそうにする瑠琉ちゃんの頭を軽く撫でてからお腹を摩る。
「瑠琉ちゃん、そこ退いてもらえる?」
素直にむくっと起き上がり、一度降りてくれた隙に三夕ちゃんと涼葉ちゃんの間に腰掛けると、瑠琉ちゃんを抱き寄せて脚の間に収めた。
左腕でお腹からぎゅーっと抱き寄せながら右手で缶ビールを持ち、火照った身体にそのしゅわしゅわを流し込む。
……これぞ、至福。
七子ちゃんがいないのが寂しいけれど、寝る時に私が寝付くまでぎゅーってさせてくれるから我慢はできる。
可愛いみんなに気を取られドラマに集中出来ず、ふと右隣を見てみると二人は真剣にドラマを見ているかと思いきや、三夕ちゃんが沙李奈ちゃんの頭に鼻を押し付けて息を吸っていた。
なんて微笑ましいんだろう。
三夕ちゃんは基本的には瑠琉ちゃんを抱くことが多い。でもそれは瑠琉ちゃんから無理やりで、三夕ちゃんは嫌がりはせずとも嗅ぐという行為は見たことが無い。
だからきっと、三夕ちゃんは沙李奈ちゃんのことが好きなんだ。
次に左隣を見ると涼葉ちゃんがドラマではなく瑠琉ちゃんの横顔を見つめていて、涼葉ちゃんの未だ叶わない恋を心の中で応援してあげた。
最後に私も瑠琉ちゃんの頭に鼻を触れさせ、大きく息を吸う。
さっき食べたサバの塩焼きと瑠琉ちゃんの微かに甘い香りが鼻孔を満たし、若干酔いが回っているからか調子に乗って耳の後ろを嗅いでみた。するとより甘い香りが強くなった気がして、湧き上がる欲望に正直な右手がおへそ辺りに移動する。
ぺったんこのお腹を軽く揉みほぐすように触ってみたけれど、丼ぶりいっぱいに食べたご飯は一体どこへ消えたのだろうか。
そんな疑問を心の中の言い訳にして、さりげなくブラウスの裾から右手を侵入させ直接そのお腹に触れてみる。
ドラマに集中しているのか全く反応がないのをいいことに、お腹にある手を上に移動させてみた。
微かな膨らみを手で包むと、瑠琉ちゃんにその手を引き出されてしまう。
「椎菜、ドラマ」
「ごめんね」
さすがに怒らせたのか低めの声で言った瑠琉ちゃんに一言謝罪しつつ、ぎゅっと抱きしめてからテレビ画面に視線を移す。でもなかなか集中できず、手に残った感触の余韻を思い出して楽しむことにした。
私の身体が火照っているからかじんわりと温かさを感じた気がしたが、きっとあれは緊張で手に汗をかいていたせい。
手汗で瑠琉ちゃんのそれに触れてしまった罪悪感よりも、恥ずかしさの方が上回って顔も熱い。
それを誤魔化すように、頭に鼻を押し当てて大きく息を吸ってみた。
……何かがおかしい。
何がおかしいのか分からないけれど、何かが引っ掛かる。
試しに涼葉ちゃんの腕を触ってみると、ちゃんと冷たくて柔らかい。
三夕ちゃんと沙李奈ちゃんの腕も触ってみるが、火照った私の身体とは正反対に冷えていて、ずっと触っていたくなる。
じゃあ、瑠琉ちゃんは?
両手の甲を握ってから、撫でるように二の腕まで触ってみるが、冷たくはない。が、温かくもない。毎日のように触れているから違いが分からないし、元々このくらいだった気もしてくる。
気のせいかな。
そう思うようにして、今度はちゃんとドラマに集中することに決め、テーブルに置いた缶ビールを取った。
ドラマが終わってしばらくすると、沙李奈ちゃんがいつの間にかクローゼットに戻っていて、涼葉ちゃんが干し忘れていた洗濯物をせっせと部屋に干してくれていた。
家事は魔王様に任せてしまおうと思い、腕の中で眠っていた瑠琉ちゃんから慎重に離れ、座ったまま眠っていた三夕ちゃんの膝の上にそっと寝かせてからベッドへと向かう。
いつも以上に酔いが回っているせいかベッドの手前で豪快に躓いてしまい、転びかけた勢いのままベッドにダイブする。そしてふと躓いた辺りを見てみると、呆れた顔で私を見てくる雪ちゃんがいた。
「椎菜姉さんよお、ちょっと呑みすぎじゃない?」
「ん~?1本しか飲んでないよ~」
「酒弱いの?」
「いつもはこんなに酔わないよ~」
「仕事から帰って来て早々泣くほどだし、相当ストレス溜まってるんだね。お疲れ様、ゆっくりおやすみ」
「ありがと雪ちゃん」
この子の言葉は疲れ切った精神を包み込んでくれるように暖かくて、私はうつ伏せの体勢のまま自然と目が閉じそのまま眠りについた。
ハッと目を開けると部屋は薄暗く、真っ暗では無いから日が昇っていることが分かる。
泥酔していたわけではないから寝る直前の記憶ははっきりとしていて、布団を掛けずに寝たのにちゃんと枕に頭を乗せ肩まで布団が掛かっていた。
右手を動かすとひんやりした何かに当たり、その正体を無意識的に求め布団をそっと捲ると、枕を使わず私の方を向いて気持ちよさそうに眠る七子ちゃんがいた。
起こさないようにと思いながらも欲望に任せ抱きつく。
するとやはり起きてしまった美少女幽霊ちゃんは、眠そうに目を開けて、「おはようございます多摩川さん」と挨拶をしてにこりと微笑む。
もう本当に七子ちゃんは、幽霊じゃなくて天使なんじゃないか。
抱きついても嫌がる顔をするどころか笑って受け入れてくれるから、私の七子ちゃんへの想いも割と本気の恋心へと変わっていた。
顔を近付けて、「おはよう七子ちゃん」と返してから、じっと目を見つめ合う。
「なんですか多摩川さん」
「可愛いなぁって」
「瑠琉の方が可愛いですよ」
「そうかな?たしかに瑠琉ちゃんも可愛いけど、私は七子ちゃんが好きだから」
「私も多摩川さんが好きです」
……!?
「でも、私は瑠琉の方が好きです」
やっぱり瑠琉ちゃんと七子ちゃんは両想いだったんだ。
微笑ましいけど、なんか嫉妬してしまう。
「そっかぁ」
「はい。でも、もう瑠琉の嘘にはこりごりです」
「あの子はいたずらを隠そうとするからね」
「いえ、そうじゃないです。……もうそろそろ起きた方が良いですよ」
七子ちゃんが私の後ろを見て、話しを切り上げてしまう。
瑠琉ちゃんについて、七子ちゃんは何かを知っているようだけど、たしかにそろそろ来る気配のある空腹幽霊ちゃんたちにごはんを用意せねば。
起き上がって七子ちゃんを撫でてから、テーブルの方を向くとちょうどの起こしに来ようとしていた瑠琉ちゃんと鉢合わせする。
「椎菜、ごはん!」
「はーい」
いつもと同じやりとりのはずなのに、どこかいつもと違う気がした。
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