第3話 異次元な存在
扉の先には神殿のような場所が広がる。ただ僕は進む、ただただ進む。部屋の奥には埃の被る分厚い本が置いてあるが、奴隷の僕には必要のないものだ。
「なんだよ...これ」
鬱憤が言葉となって積もる。
「こんなに歩いたのに..」
その後は怒りが込み上がり、頭を抱える。
「フェルス...も死んだのに...」
既に僕の体力は限界だった。元々奴隷の肉体労働でズタズタな身体、魔物から逃げるために必死になって走ってことで貯まった足の疲労。そして、少しでも叩けば一瞬で砕け散りそうな精神。もう疲れた、本の前でうずくまる。
お腹もすいた、もう諦めたかった。
諦めればフェルスに会える。ここよりよっぽどマシだ。ただの置き石のように動かず、ただ時間が過ぎていく。
閉めたはずの扉から音がした。魔物だろうか、もういいや、ここで殺して
「君、大丈夫か?」
肩に感触を覚えて、とっさに振り向く。そこにはしなやかな紅い髪をした女性がいた。服装をみるに位の高い人だろう。
「うん? その首輪、奴隷かな?」
「...! これはその...」
「あぁ安心して、飼い主に報告なんてしないよ。私奴隷制度嫌いだから!」
この人はどこか温かさを感じた。ボロボロな僕にとって女神のように見える。
「とりあえず座ろっか」と言われて、僕らは倒れた石柱に腰を掛ける。
「君名前は?」
「...レグです」
「レグ君ね、どうして"ここ"にいるのかな?」
「たまたまダンジョンの入り口を見つけて...」
「それにしては頑張りすぎだね、ここはダンジョンの最深部だよ」
彼女の質問に淡々と答える。僕を気にかけて簡単な問いかけもしてくれた。
「私はリリアナ・ガリフォード、リリアナって呼んで」
「リリアナさん...ここって何の部屋なんですか...」
「ここは賢者の書類が保管された場所、要は賢者の自室さ」
僕はあの台の上にある埃っぽい本を見つめる。
「アレかい、あれが賢者の魔術書【ヴィクトル】。私はアレを回収するために来たんだ。ヴィクトルを探せって上がうるさくてね」
僕の眼先には石の床しかない。俗にいう放心状態である。
「君、何かあっただろ? 感じるよ、君からあふれ出てる『悲しみ』を」
彼女の言葉で思い出す。自分の罪を、何度も何度も。繰り返し思い出す。
僕のせいでフェルスが死んで
だから僕は罪を償わなきゃいけない
だから、だから、だから
「泣いていいよ。我慢しないで」
彼女の腕が優しく包み込む。生まれて初めての心地良さ、温かみが僕を覆う。
ダメだ、涙が溢れてくる、止まらない、止めれない。
「僕のせいで...フェルスが...フェルスが死んで...もう苦しくて...辛くて...どうすればいいかなんて...僕には...わからなくて...ゔぅぅぅぅぅぅ...」
「怖かったね、もう大丈夫だよ。私がいるから」
「ゔぅぅぅ...フェルズぅフェルズぅぅぅぅ...」
部屋に響くその泣き声は、折れた心を少しずつ癒し始めた。
「もう大丈夫かい?」
「はい...ありがとうございます」
彼女は立ち上がり、ヴィクトルなる物を手に入れて僕の方に振り返る。
「とりあえず外出ようか。ここジメジメしてるしさ」
「あ、はい。そうですね」
「じゃあ日の光でも浴びようか」
え? という間に彼女の腕が肩に軽く乗っかる。
気づいたら外にいた。部屋の外ではない。地下から出たのだ。さっきまで地下の奥深くに、彼女もいうようにダンジョンの最深部にいたのに。
あれが太陽だろうか、きっとそうに違いない。でなければ、ここまで心は動かされないだろう。
「ようこそレグ君、地上へ」
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