俺は東京でも異世界でもデュエルする

たく

プロローグ 勇者召喚、失敗。

 かつてこの世界には魔王がいた。

 長い間、王国の兵士たちは魔王の軍勢と戦い続けた。

 長い年月をかけて兵士たちは消耗し、王国は貧しくなっていった。


 少し前の話だ。

 この状況を打開すべく、王様は当時の王国で一番の魔法使い、ガング・ペンダントに勇者召喚を依頼した。


 招かれた勇者は異世界から持ち込んだカードを使い、〈デュエル〉と称してドラゴンを召喚し、魔王を打ち滅ぼした。


 そして世界に安寧が訪れた。

 しかし、年月が流れるとまた新たな問題が現れる。

 その問題を解決するため、王様はまた新たな勇者を招こうと考えた。


 * * *


「これでよし、と」


 月が明るい静かな夜、少女は塔の最上階で魔方陣を書きあげた。

 完成した魔方陣を見渡し、少女は気持ちを奮い立たせる。


「王様直々の頼みだもの。勇者召喚、絶対成功させるんだから!」


 出来上がった魔方陣を何度も見返し、間違いがないか確かめる。

 どこも間違っているようには見えなかった。


「完璧ね!」


 一晩で異世界召喚の魔方陣を発明するなんて、私って天才かも。

 そんなことを思いながら魔法陣の真ん中に立って杖を振るい、魔法を詠唱し始めた。


「……マホウジン イセッカーイ イセッカーイ ツナイデ ユウシャ コイコーイ」


 辺りの空気が魔力で満ち、魔方陣が光を帯びる。


「セカイ ツナイデ ナンデモカンデモ ヘンゲンジザーイ!」


 大きな魔力が流れ、魔方陣が強烈に光った。

 いや、魔方陣だけではない。塔全体が、街中が光に包まれた。


 あまりのまぶしさに少女は目をつぶる。

 次の瞬間、どこからか引っ張られるような感覚に襲われた。


「きゃあ!」


 強く吸い寄せられるような、引っ張られるような感覚が続く。

 そしてなんだか強い風を感じた。


 不安に思いながらおそるおそる目を開けると、そこは空の上だった。


 遠くで浮かび上がる宮殿が見える。宮殿だけではない、家や木々、地面、街全体が空に吸い寄せられていた。


「え?」


 どこかに吸い込まれていく少女は、同じく吸い込まれていく街を見て悟る。

 もしかして、


「――召喚失敗~⁉」

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