第13話 女神様との邂逅
その代わり、私とアレクシス様の二人だけだ。
女神様から祝福を受けると、手前の間に置かれた水晶も輝くのだという。
水晶の台座の手前に、決められた文言をメモしたカードが置かれている。
誓いの言葉を促してくれる人が同席していないから、自分たちで誓いの言葉をいう必要があるのだ。
呼吸を揃えて喋る言葉の速度を調整しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
大きい水晶の上に二人で手を重ねている。
その手から体温と少し汗ばんだ湿気を感じ取っていた。
「「……誓います!」」
声を揃えて最後の誓いの言葉で締め括った。シーンとした静寂が辺りを包んだ、
薄暗い儀式の間。
光らない水晶。
「……え……」
まさか、そんなはずは……。
一瞬目の前が真っ暗になった。
女神様に祝福してもらえない?
婚約したのに、婚約をしても貧乏なのに?
恐る恐る隣に立っているアレクシス様の顔を見た。
アレクシス様は、じっと目の前の女神像に目を向けていた。
『困るのよ!』
『え?』
突然周囲が真っ暗になり、声が聞こえてきた。聞き返そうとしたが声が出なかった。
『物語が変わってしまうじゃない』
その言葉を聞いて私はハッとした。
『もしかして花降る丘のこと?』
『そう言うことよ!』
私が頭の中で考えたこと対して、苛立ったような返事が返ってきた。ゴーっと風が私とアレクシス様の周りを
吹き荒れ始めた。
『王子と婚約しない…は、まだ許容するわ。でも、国を出ちゃったら全くのシナリオブレーカーじゃない』
『女神様、女神アストリアーナ様。どうかお願いします。
私はお母様に健康でいていただきたいんです。断罪もされたくないのです』
『……それだと、私の物語が壊れてしまうわ』
『幸せに生きたいと願うことはいけないことなのでしょうか』
『……それは良いけれど……。私の作った物語が壊れてしまうの。シナリオ通りにいかないのよ』
私は隣のアレクシス様の様子を伺うように意識を向けた。意識は向けるけど顔は動かない。目も動かない。
『アリア、君にも、僕にも幸せになる権利はあると思う』
アレクシス様の声が聞こえてきた。女神様と話していた内容を理解してくれているとは思い難いけれど私に寄り添おうとしてくれている気がした。
『ヒエラクス王国にお住まいの女神アストリアーナ様。近隣の国であるマグノリアノ王国から来ました、アレクシス・イグレットと申します。
そしてここにいる、アリア・アルバトロス伯爵令嬢の婚約者です。
『はい、よろしく』
アレクシス様が女神アストリアーナ様に自己紹介を始めたのは驚いたけれど、女神様から意外なほど普通の反応が返ってきた。
『女神様は、この国を物語としてお造りになられたのでしょうか』
『そうね、シナリオがあってその通りに進んでいくの。それなのにアリア・アルバトロスが勝手なことをすると設定が狂ってきてしまうのよ」
姿は見えないけれど、ムゥと頬を膨らませる姿が想像できた。
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