第6話 対策

「……そのお話は……、あまりしない方が良いの」

「え?」


お母様は穏やかな口調でキッパリと言った。私が聞き返すとお母様は静かに説明をしてくれた。


「『瘴気の時代』はとても恐れられているから。怖がって大騒ぎしてしまう人が出てきてしまうかもしれないの」

「でも……。もし、そうだったとしたら……。早くなんとかしないと……」

「ええ……。そうなのだけれどね……。アリアが教会へ連れて行かれてしまうかもしれないわ」

「え?」


周期的にこの国を「瘴気」が襲う時期。間隔が空いていて前の「瘴気の時代」を過ごした人はいなくても先祖から伝え聞いている人も多い。

正気が蔓延り始めて、聖女が現れて浄化を始めるまで暗黒の時期が続くという。

「瘴気」への恐怖心が強くなると、必然的に光魔法の使い手への期待が強くなる。


そうなれば、現在光属性の素養を持つ者に対応させようとするだろう。


「私は……、お母様を助けられるなら教会に連れて行かれても良いです!」


少しだけ考えて私は口を開いた。お母様がびっくりしたように目を見開いた。


「ダメだよ!」


背後からお兄様の声が聞こえた。

振り向くと、きゅっと唇を引き結んで睨むように私を見ていた。


「お兄様……」

「ダメだ。教会に連れて行かれたら、多分母上を優先することはできないよ」

「え?」

「加護の儀のときだって、奥の間に案内してもらえなかったじゃないか。マグノリアノの人だからって!」


加護の儀の時は、教会に名前を告げるから、アルバトロス伯爵家の者が加護の儀を受けるということは教会に知られている。

教会の人が、アルバトロス伯爵夫人がこの国の加護を持っていない人だと知っていたからお母様の加護の儀を受ける教会の奥の間への立ち入りを拒否したのだ。


もしも、教会が光属性の素養を持つものをサポートして浄化を推進した場合、

この国の女神の加護を受けていない者への浄化を反対するかもしれない。


「教会に行ったら光魔法のノウハウがあるかもしれないけど、お母様を助けられないの?」

「わたくしの咳が、瘴気によるものとは限らないわよ」

「そうだけど……!」


目の奥が熱くなった。涙が出そうになる。何それ。詰んでる。


「アリア……」


ふわりと、お母様が私の肩を抱いた。花のような良い匂いがする。


「わたくしの咳がどうのということよりも、まだ幼いアリアが国の為に連れて行かれてしまうことが怖いの。……身勝手な事なのでしょうけれど……」

「お母様は身勝手じゃありません!」


ポロポロと涙が出てきた。お母様の胸に顔を埋める。

お兄様も近くまで来ていた。私のすぐ背後で声が聞こえた。


「母上だけ、マグノリアノ王国に帰ってはどうですか?」

「あ……」


お母様は、この国の女神の加護を受けていないから国を出ることは可能なのだ。

私は国を出られなくても、お母様一人なら。それに今の段階で国を出れば

瘴気の影響も少なくて済むだろう。


「そうです!お母様だけなら国を出られるじゃないですか」

「わたくしは……、貴方達を置いてはいけないわ」

「お母様!」

「母上!」


私とお兄様で訴えかけるようにお母様を見つめた。

お母様は、静かな面持ちで少し考えた後で口を開いた。


「……そうね……。出来ることをしましょう」

「出来ること?」

「このまま、もしも瘴気が強くなっていったら、わたくしだけでなく貴方達も病に倒れてしまうかもしれないもの」

「……私、光魔法で浄化できるようになります!」

「ええ、それも少し方法を考えるわ」


お母様には何か考えがあるようだった。

その時には教えてくれなかったけれど、翌週の朝食の時に考えを教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る