第5話 魔法の訓練

お兄様は水魔法と風魔法の素養があるそうで、まずは水魔法を家庭教師に習うときに同席させてもらうことになった。


魔法の家庭教師の相談をしている最中にもお母様が何度か咳をした。その度にドキドキするし気持ちが焦る。

お医者様に診ていただいているというし、今の咳は瘴気とは関係がない咳かもしれない。

それでも、ジリジリと何かが迫ってきているような気持ちの焦りを感じる。


お兄様の家庭教師による授業は週に二回あった。最初は、本当に授業に同席させてもらうだけだった。

屋敷の裏手にある練習場で、邪魔にならない位置に椅子を置いて、見学するだけだ。

お兄様の魔力は多い方らしく、水の球を出すと言いながら、凄い水量の水を放っていた。

これは確かに、勝手に魔法を使ったらダメって言われるだろうと納得した。


「はい、息を吸って。深く吐いて。おヘソの下の辺りに魔力が集まってくることを意識します」


家庭教師のシモン先生がよく通る声で話している。お兄様に指導をしているわけだけど、私も真似をして息を吸い、吐いたりしてみた。

おへその下の魔力は最初はよくわからなかったけど、なんとなく力が集まるような感覚がわかってきた。


「お嬢様は学ぶ姿勢がおありですね」


お兄様の授業が終わった後に、シモン先生に言われた。

どうやら、ちゃんと大人しく見学ができるか、少しでも学ぼうという姿勢が見られるか様子を見られていたらしい。

加護の儀を終えた後には、家庭教師の依頼が殺到する。でも、親だけが教育熱心で子供はやる気がない場合や、魔法に対する憧れが強すぎて直ぐにでも強力な魔法を教えてくれとせがむ場合などきちんと教えられなさそうなケースも多いらしいのだ。


一応私は良い子にしていたから、教えたことを受け入れられそうだと判断されたようだ。


次の授業から魔法を教えてもらえることになった。ちょっとワクワクする。

お兄様の持っている教本を読んでも良いけど、一人でいるときに魔法を発動させようとするなと念を押されてしまった。

まだ、私はお兄様は、火属性じゃないから大惨事にはならないだろうけど、と呟いていた。


火属性の素養がある子供が夜中に自室で魔法を発動させて屋敷を燃やしたなんて事件は、

珍しくないらしい。恐ろしい。


シモン先生曰く、魔力を体内で集めて制御するところはどの属性でも同じなのだそうだ。

だから水魔法の練習も光魔法に役立つはずだと言われた。

早く光魔法で浄化ができるようにならないとと焦る気持ちもあるけど、できることから始めるべきだと自分に言い聞かせた。


シモン先生に習い始めて一ヶ月。水魔法を発動させてコップに水を注ぐことができるようになった。

お兄様は最初は、水の勢いが強すぎてコップごと押し流してしまったなんて話を聞いた。

私はポタポタと水を注いでいくタイプ。魔力制御力とかではなく性格の差だろうって言われた。


「コホッ、コホッ」


庭園を散歩していたお母様が咳をするのが聞こえてきた。

お母様の咳は良くなっている様子がない。むしろ、咳をする頻度が少しずつ上がっているような気がした。


庭園の散歩から戻ってきたお母様に、思い切って言ってみることにした。


「……お母様の咳は、……瘴気によるものの可能性はないのでしょうか」


ドキドキして口の中が乾く。乾きすぎて咳が出そうになった。


お母様は少し目を見開いた。私の言葉を聞いて驚いた様子はなかった。何となく瘴気が原因の可能性を考えていたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る