10年ぶりのサトシくんへ。
ケン・ヤマザキ
第1話 10年越しの、日本行きのチケット
「リリー、シートベルトしっかり締めて」
「うん、まま……。ねえ、ほんとに行くの? に・ほ・ん?」
私は頷いた。
「うん、本当に行くよ。ママの、昔の“たいせつな人”に、会いにね」
ロンドン・ヒースロー空港。
窓の外には、小雨と灰色の空。
でも私の胸の奥は、なぜかざわついていた。
10年ぶりに日本へ向かう。
それは単なる観光でも、親子旅行でもない。
私には、心に残り続けている「誰か」がいる。
その人の名前は――サトシくん。
「ママ、その人って、今も日本にいるの?」
「うん……いる、と思う。たぶん」
「好きだったの?」
「……うん。だいすきだったよ」
エミリー・ロバーツ、30歳。
日本好き、アニメ好き、そして今は、シングルマザー。
大学時代に日本へ1年間留学した私は、あの国で人生初めての本気の恋をした。
彼の名前は、サトシ。控えめで、静かで、でも優しさに満ちた人だった。
イギリスへ帰った後、私たちは遠距離恋愛を始めようとした。
でも、時差、言葉、未来への不安――
すべてが私たちを静かに引き離していった。
何も終わらせられないまま、私たちは「自然に」別れた。
10年の月日が流れて、私は結婚し、子どもを産み、そして離婚した。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「そのサトシくんって、アニメキャラよりカッコいいの?」
「ふふ、うん。たぶん、世界でいちばんカッコよかったよ」
そんな彼に、もう一度会えたら――。
それだけの理由で、私は片道12時間のフライトに乗った。
もしかしたらもう、彼には家族がいるかもしれない。
もしかしたらもう、私のことなんて忘れているかもしれない。
それでも。
たった一度でいいから、あのとき言えなかった言葉を伝えたかった。
「あの夏、本当は、もっと一緒にいたかったよ――サトシくん」
飛行機が日本の空港に着陸するとき、
私の胸は、10年前のあの夏に、静かに戻っていく。
そして――
再会は、意外なかたちで訪れる。
✨次回予告風
次回、「偶然なんか、信じてなかったのに」
駅のホーム、10年ぶりのまなざし――それは、私の心にまだ、残っていた。
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