第2話 駅のホーム、10年ぶりの視線


東京、JR山手線。

エミリーは人混みに流されながらも、

どこか懐かしい気配を感じていた。


「10年って……長いはずなのに」

「この風景も、音も、あの頃のままだ……」


リリーの手を握りしめながら、

「原宿」のホームで電車を降りる。


ふと、目の前に立っていた人影が動いた――

それは、どこか懐かしい後ろ姿だった。


黒髪に白シャツ、リュックを背負った細身の青年。

立ち止まって、イヤホンを外し、駅の案内板を見上げている。


「……まさか、ね」


心臓が、鼓動をひとつ飛ばした。


でも、間違えるわけがない。

あの後ろ姿、あの肩幅、あの立ち方――


エミリーはゆっくり近づいた。


「……サトシくん?」


彼は振り向いた。

その一瞬だけ、駅の喧騒が遠ざかる。


驚いたように目を見開き、

そして、少し照れたように微笑んだ。


「……エミリー?」

「……ほんとに、エミリー?」


エミリーは笑って、でも少し泣きそうになって、頷いた。


「うん。10年ぶり、だね」


ふたりの間に、10年分の沈黙が流れた。

だけど、それは決して重苦しいものではなかった。


むしろ、ようやく時が動き出したような感覚。


「……ごめん、突然。会えるなんて思ってなかった」

「いや、俺も。……すごく、驚いてる」


リリーが後ろから顔を出す。


「ママ、この人……?」


エミリーは小さく頷いて、娘の頭を撫でた。


「ママの、大学時代の……すてきなお友だち、だよ」


サトシは一瞬戸惑ってから、

穏やかな微笑みでリリーに頭を下げた。


「はじめまして。サトシです」


そして、その瞬間、エミリーは気づいた。


「あぁ……サトシくんは、あの頃と変わらない」


派手な言葉も、強引な態度もない。

でも、心の奥に静かに届いてくる――そんな人。


10年ぶりの再会は、

東京の雑踏の中で、まるで奇跡のように訪れた。


💌次回予告:

第3話「10年前に言えなかったこと」

カフェのテーブル越しに、ふたりは過去をたどりはじめる。

だけど、そこに小さな誤解と、ひとつの“秘密”が……。


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