第42話 国王の関心
ラインベルク領やルークウェル領より北にしばらく進んだところにあるのが、ここイオリンデ王国の中心地、王都である。
国内でももっとも発展し、もっとも多くの人が集うその都の中央に聳え立つのが、国王の座す王城だった。
そこへ届けられた一枚の書状を、国王ローランドはゆっくりと目を通す。
「ふむ……なるほど、大悪魔が出現して、町一つで済んだか。ラインベルク伯爵は上手くやったようだな」
「はい。出現した悪魔の力を考えれば、快挙と言っていいでしょう」
ローランドの呟きに同意するのは、宰相のネルスだ。
二人の発言は非情にも聞こえるが、悪魔はたとえ一体でも出現すれば周辺地域に甚大な被害をもたらし、大悪魔ともなれば国一つ地図から消えてもおかしくない存在。
それを、これほどまでに少ない被害で抑えたのだ、公然と口にするような発言ではないかもしれないが、賞賛に値する働きであることは事実である。
だからこそ、そこに書かれている名に注目が集まった。
「そして、今回もその少年が悪魔討伐に貢献した、と……ルークウェル家で出現したものと合わせて、二度目だな」
ロロン・ハートナー。
ルークウェル公爵家の家臣、ハートナー家の嫡男であり、今は公爵令嬢ミュリアの専属護衛らしい。
"義理の妹"と共にラインベルク領を訪れた際に悪魔の騒動に巻き込まれ、そのまま討伐作戦に参加したという。
「あのリベラが、ルークウェル家の縁者に対して"王家が抱え込むに値する存在だ"と推薦してくるとはな。存外、本人が貴族位を望んでいるのか?」
「どうされますか、陛下?」
可笑しくてたまらないとばかりに笑うローランドに、ネルスは問いかける。
実際のところ、ロロンの昇爵を望んでいるのはロロンではなくミュリアなのだが、そこまではローランド達には分からない。
「武力だけで昇爵というのは、流石に他の貴族達が認めんだろう。悪魔討伐の功は絶大だが、どちらも被害が少ない……納得する者も少なかろうな」
国が滅びかねない脅威を排除した、というだけなら、間違いなく英雄だろう。
しかし、それを未然に防いだとなると、途端に話が難しくなる。
なぜなら、本当にそれは国を滅ぼすほどの脅威だったのかと問われた時、反証が難しいからだ。
国が滅ぶほどの被害が出てから討伐した者より、それほどの被害が出るより先に討伐した者の方が間違いなく素晴らしい活躍なのだが、より賞賛されるのは前者である。
ままならないものだ。
「それに、武功を挙げたのが当主ではなく息子の方だというのも、少し面倒だ。本人に与えるならまだしも、何もしていない当主に褒美を取らせるというのも、あまり誠実な対応とは言えんだろう」
ハートナー家当主であるナード・ハートナーは、悪魔討伐において特に功を挙げたという報告はない。
事実、ベルゼブブ出現の際は早々に体を乗っ取られて気絶していたし、今回も……一応はベルフェゴール討伐作戦に参加したのだが、本命とは別の支部襲撃のメンバーに組み込まれていたので、武功という意味では微妙だった。
本人なりに頑張ってはいたのだが、息子が挙げた戦果が大きすぎて完全に霞んでしまっている。
「加えて……そのロロンという者はまだ年端もいかない少年というではないか。為人も分からない者に、そう容易く爵位は与えられん」
「では、どういたしましょう? 突っぱねますか?」
「仮にも大悪魔討伐だ、何もしないというわけにもいくまい」
伯爵位を授けるには、乗り越えなければならない障害が多すぎる。
しかし、何もなしというには挙げた武功が多すぎて、それこそ王家の度量が疑われてしまう。
「王家からも、勲章を授与しよう。それを口実に、この王城へ呼び出し……そこで、為人を見極めようではないか」
「承知しました。では、そのように手配いたします」
意見は口にするが、決定に異を唱えるつもりはないとばかりに退室しようとするネルスに、ローランドは苦笑する。
相変わらず、よく出来た男だ、と。
「さて、そちらの手配はネルスに任せるとして……こちらはこちらで、話を通しておくか」
為人を見極めるためには、ただ対話するだけでは足りないだろう。
実際に、戦っている様を見たいと思うのは、ローランドのみならず全ての貴族の共通する思いだろうから。
「あのバカ息子に、話してみるか。きっと興味を持つだろう」
そう呟きながら、ローランドもまた自身の仕事に戻っていくのだった。
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