第41話 激闘の報酬
大悪魔ベルフェゴール……ルイスの体を乗っ取られていた時は本気で焦ったけど、その分こっちのことを完全に格下だと侮ってくれたのは助かった。
最初から本気で潰しに来ていたら、ノーチャンスのまま全滅していたと思う。
そうでなくとも……ルイスが、体を乗っ取られる前に後を戦う俺達のために仕込みをしてくれていなければ、やっぱり負けていたはずだ。
自分の記憶を、家族との大切な思い出まで悪魔に差し出してでも、完全な憑依を防ぎ止めたことで、俺の切り札だった《神閃》の情報を隠し通してくれたのもそうだし……あの髪飾りだって。
ベルフェゴールと対峙した直後、特に脈絡なく髪飾りに触れた左手。
あれがあったから、ルイスが髪飾りに形勢逆転の切り札を仕込んでいたことも、ルイスの意識が完全に乗っ取られたわけじゃないことにも気付くことが出来た。
誰が何と言おうと、ベルフェゴールを倒せたのはルイスがいたお陰なんだ。
だから……。
「もう休めよ、ルイス。丸一日働きっぱなしだろ、お前」
ベルフェゴールとの戦いの後……壊滅した町の後処理を、飯も食わずに不眠不休で手伝い続けるルイスに、俺はそう声をかけた。
それに対して、ルイスは力のない笑みを返して来る。
「あはは……ごめん、心配かけて。でも……これは、ボクがやらなきゃいけないんだ」
「…………」
ルイスは、一度目の人生で悪魔に国を滅ぼされて、人々が死んでいくのをその目で見ている。
アニメ越しのフィクションとしてしかその光景を目にしていない俺と、その光景を二度と作らないと決意して今ここにいるルイスとでは、受けるショックなんて比較にもならない。
まして……ルイスは、自分が悪魔にしてやられたせいでこの悲劇を引き起こしたと思ってるんだ、どれだけ心が傷付いたことか。
「なら……私も、手伝う……!」
「ミュリア……?」
そんなルイスの隣へ、ミュリアが駆け寄って行った。
ルイスの手を両手で握り、その瞳に涙を浮かべながら……それでもミュリアは、ハッキリとその意思を言葉にする。
「ルイスの気持ち、全部は分からない、けど……辛い時、一人でいたら、もっと辛いのは……私、誰よりも知ってる、から……だから! ……ルイスが、辛くなくなるまで……一緒に、手伝う」
「……ありがとう、ミュリア。嬉しいよ」
ミュリアに釣られるように、ルイスもまた涙を溢す。
……俺に手を引かれるばかりじゃなくて、もう自分の手で誰かを支えられるようになっていたなんて。
成長したな、ミュリア。
泣きながら、それでも前へ進むために作業を続ける二人を見守りながら、俺も二人と一緒に作業を進めるのだった。
数日が経ち、後処理が終わる頃には、ルイスもある程度落ち着いたみたいだった。
そのタイミングで、俺達は個別にリベラ伯爵に呼び出されることに。
「さて……ロロン・ハートナー。改めて、この地を代表するラインベルク家の当主として、礼を言わせてくれ。君の働きがなければ、この地は向こう百年立ち直れないほどの被害を受けていただろう。本当に、感謝する。その証として……我がラインベルク家は、君に白剣十字勲章を授与する」
そう言ってリベラ伯爵が差し出したのは、ラインベルクの家紋に白い剣を添えたようなデザインの勲章だった。
俗に“白剣”と呼ばれるそれは、領地の危機に際して多大な功績を挙げた者に対して、“貴族”から贈られるもの。
その特徴から、主に寄親から寄子の準貴族へ授与されることの多い勲章なんだけど、まさか俺にくれるなんてな。
でも……。
「大変光栄ですが、俺の力だけで勝てたわけじゃありません。それに……あの町は結局、救えなかったわけですし」
俺にとっては、思い入れも何も無い町だ。
到着した時には既に壊滅していたし、今思い返して何が出来たかと言われても、やっぱり何も出来なかったと思う。
それでも……大勢の人が亡くなった戦いで、自分だけ賞賛を受けるというのも、なんだか据わりが悪い。
「自惚れるな。神ならぬ人の身に、全ての者を救えるはずがないだろう」
「それは、そうですが……」
「それに、だ。勲章は、何も戦功を称えるためだけにある物ではない。戦いによって失われた命を、その苦い経験を忘れることなく胸に刻み続けるために存在するのだ。自らの無力を感じているのであれば、尚更受け取るといい」
「……ありがとうございます」
そこまで言われてしまったら、受け取らないわけにもいくまい。
ちなみに、ミュリアとルイスにも同じ勲章を授与するつもりなんだとか。
「さて、勲章はもちろんだが、他にも何か欲しい褒美があればなんでも言ってくれ。可能な限り聞こう」
「あ、それなら一ついいでしょうか? 伯爵様には、ルイスの後見人になって頂きたいのですが」
「……何?」
よっぽど予想外だったのか、リベラ伯爵は目を丸くしている。
でも、俺にとってはすごく重要なことなんだ。
俺の知る限り、ルイスが成長するためには、ラインベルク家の支援や学園での経験がとても重要な意味を持つ。
うっかりしてると、ルイスが学園に通わず国ごと滅亡するルートが存在すると分かった今、今後は俺の知る未来と今ある現実との“ズレ”を可能な限り修正しないといけない。
これは、その一環だ。
「ルイスの力は、今後間違いなく更に伸びていきます。ラインベルク家の発展、そして……あの町の復興にも、大いに役に立つでしょう。どうかお願い出来ませんか?」
そしてもう一つ、ルイスがベルフェゴールに負わされた心の傷を癒すには、あの町の復興に力を貸す必要があると思うんだ。
ラインベルク家の家臣になっておけば、ルイスが手を貸し続ける口実としては申し分ない。
「……お前達は揃いも揃って、他人のことばかりだな」
「え?」
「いや、一人そうとも言いきれん者はいたな、忘れてくれ」
揃いも揃って、って多分ルイスやミュリアのことか?
ルイスは間違いなく、自分に褒美なんていらないからあの町の復興を、とかそんなお願いしただろうし……ミュリアは、何をお願いしたんだ?
分からん。ちょっと気になるな。
「ともあれ、我らラインベルク家は、お前達から受けた恩を決して忘れない。ルークウェルの奴は気に入らんが、お前の要請があれば必ず力になろう。……何なら、正式に我が家の家臣にならないか?」
「ありがたい申し出ですが、すみません。俺は、ルークウェル家でやらなければならないことがありますので」
厄介な大悪魔は、まだ何体もいる。
そうでなくとも、俺はルークウェル家を……ミュリアの傍を離れるつもりは、微塵もない。
何があっても。
「そうか。残念だ」
本当に、心から残念そうに口にした伯爵のその言葉を最後に、俺は部屋を後にする。
こうして、いくつもの予想外の事態を経験しながらも、ラインベルク領の旅は無事終わりの時を迎えるのだった。
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