第3話 娘は渡さないわよ?
目の前のコスプレ宗教集団と自称王子は、渋々頭を下げてお願いしてきた。
「……どうか我々に力を貸して下さい」
そう言われてもなぁ
「そもそも、転移とか魔法とか言うけど、そんな物、全く信じられないんだけど?」
アニメの見過ぎか、ゲーム脳かしら……
——違うわね
"現実との区別が付かない人"かもしれない
「分かりました。室内なので危険が少ない水魔法にしましょうか?」
ローブの疲れちゃった人は、魔法を見せてくれるらしい。
さっきから、この人しか働いて無いわね?
疲れちゃった人は、自分の手の上に水球を浮かべて見せてくれた。
——何これ、どんな仕掛けのマジックよ
「どうやってるの?随分と手品が上手ね……
仕掛けはなんなの?」
疲れちゃった人の出した水球を、ツンツンしながら尋ねてみたら
「魔法に仕掛けは無いですよ?皆が出来るレベルの魔法です。自分でやれば信じられますか?」
え、出来るの?
本当に魔法があるならやってみたいわね
「どうやるの?」
自分で出来るなら、確かに信じられる
自分の手を見る。
——出来るのかしら?
本当ならちょっとワクワクするが……
その時、ハッと気付いた
——隣にいた筈の、瑠璃がいない事に
私は、慌てて周りを見回したら、それに気付いた疲れちゃった人が、
「聖女様なら鑑定室に向かわれた筈ですよ?」
と教えてくれたので、
「疲れちゃった人、案内して頂戴!」
と、彼のフードを掴み、引きずりながら廊下に出たら、
「私はシュラーフです!何ですか、疲れた人って!……案内しますこちらですよ」
疲れ……シュラーフ君はさっさと案内をしてくれた。
何故、娘は黙って着いて行ったのだろう。
部屋の中に居る娘を見たら、口が動いているのに、声が聞こえて来ない?
「シュラーフ君、なんで娘の声がしないの?」
だから私気付かなかったの?
——誘拐じゃない。
段々と娘を取り巻く奴等にイライラしてきた。
「防音の魔法ですね、お母様に何も言わずに行くのはどうかと思います。申し訳ありません」
シュラーフ君は、ちゃんと謝る事が出来る常識人の様だ。
話がわかる人ならありがたい。彼は集団に近づき、魔法を解除した。
すると、会話が聞こえるようになった。
「おお!聖魔法!やはり聖女だ!」
「さすがです!」
「これで安心だ!」
「……」
集団が、娘を囲み騒いでる。
深夜の通販番組の様に、取り巻きは大袈裟に騒いでいる。
シュラーフ君だけは無言だった
「……貴方達、家の娘を勝手に連れ出すとか、誘拐よ?わかってるの?」
——私は静かに怒っていた
だって私を見る娘の顔が、明らかに助けを求めていたから。
「さっきから貴様は僕の神聖な仕事の邪魔ばかりして、何様だ!」
コスプレ王子が、こちらに向かって怒鳴ってきた。
——この、クソガキが
「はぁ?何が神聖だ!!お前らがやってる事は拉致に誘拐じゃないの?!犯罪よ!そんな事もわからんのか!」
この、コスプレバカ王子が!
「しかも、年長者に向かって何様だぁ?私は、あんたらが聖女だと言っている娘の、お母様だよ!テメェこそ何様だ!ケツの青いガキが!」
口が悪くなったって
遠慮なんてしてやるもんか!
——娘返せバカヤロー!
「イディオート様、さっきから、こちらに非があります。無理な召喚です。
お願いですから、転移者の気分を害する言動はお控え下さい」
シュラーフ君が、バカ王子を嗜めている。
ザマァみろ
その隙に、娘を自分の側に回収して、少しだけホッとした。
「おい、聖女を、こちらに渡せ。お前にも部屋を与える」
あー、コイツ、イライラするわ
「断ります。何処の馬の骨だか知らないけど、こんな常識はずれな奴らがいる場所に、娘をひとりにするわけないじゃ無い」
本当に頭悪いわね?
「私は"絶対"に、娘から離れるつもりは無いわ!」
特にバカ王子は……
危険な感じがビンビンくるわ!
「なんだと?!」
バカ王子が憤り
私達を"暴力で強制的に"思い通りにしようと、王子が拳を振り上げた瞬間
ドサリ
王子は、膝から崩れ落ちた。
——え、死んだ?
良く見たら、白目をむいて、だらしない顔で、寝ているだけだった。
「申し訳ありません、聖女様、お母様。
お二人を別々にする事は致しませんので、ご安心ください」
——そんなの、当たり前よ
「度重なる失礼をお許しください。おい、今すぐ王子を部屋にいれたら帰宅しろ。お疲れ様」
シュラーフは、ローブの二人に王子の始末を依頼して、私達に謝って来た。
王子は、足を持たれ、
顔面が、床に引き摺られたまま連行された
——あれは、完全に嫌がらせだと思う。
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