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昼下がりのキャンパス。
次の講義まで少しだけ時間が空いていた。
李玖を見つけたのは、
ちょうど中庭のベンチに座っていたとき。
手に持っていたスマホをいじっていて、
こっちにはまだ気づいてない。
「……李玖」
声をかけた瞬間、彼が顔を上げる。
目が合って、ふっと表情がやわらいだ。
「茉耶」
呼ばれる声が昨日よりもずっと軽くて、
思わず笑みがこぼれる。
「今日、何時に終わる?」
李玖は一瞬考えてから、
スマホの画面を軽くスクロールして確認する。
「最後の講義、16時半まで。そっちは?」
「同じ。……じゃあさ、
帰りにちょっと寄り道しない?」
「寄り道?」
「この前さ、ひとりで入ったカフェ、
雰囲気よかったんだよね。
……よかったら、一緒にどう?」
李玖の眉が少しだけ上がる。
それはたぶん、驚きじゃなくて、嬉しいほう
「……いいね。茉耶のおすすめなら、
行ってみたい」
「うん。じゃあ、16時半、正門前で」
「了解」
そう返した李玖の横顔はどこか照れたようで、
でもどこか安心してるようで。
茉耶もそれ以上何も言わずに、
軽く手を振ってその場を離れた。
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