第20話 フキハラ無き職場
6月30日をもって、ふき子はTKSを去っていった。
半月も無い間の引き継ぎだったが、全く問題は無かった。まだ入社して半年のため、持っている担当業務がそもそも少なかった事もあるが、洋子が業務のほとんどを把握している事が大きいだろう。
『職場は変わりますが、同じOLDという会社の社員である事には変わりないので、またどこかでご一緒できればと思います』
ふき子から洋子と真実に、こんな言葉が贈られたものの、2人は返す事ができなかった。
「ちょっともう、お腹いっぱいかなって思う」と洋子。
「私も、二度とゴメンです」と真実。
ふき子のいなくなったTKSで、顔を見合わせて笑う。
「なんか、穏やかな空気が流れてるね~」
と、TKSの社員から声をかけられ、洋子と真実は肩を竦めて笑った。
ふき子の機嫌を見ながら過ごしていた時間が、洋子と真実の心をいかに縮こまらせていたかが良く分かる。
伸び伸びと仕事ができるようになった環境に、それぞれに業務量は増えてしまったものの、洋子と真実はようやく平和が訪れたと、安堵の笑みを交わし合う。
洋子は、ここ数か月の間ずっと胃痛や頭痛を繰り返し、都度薬を服用していたが、ふき子が去った後、気づけば胃痛も頭痛も無くなっていることに気付いた。
真実は、体調が上向き、適応障害により心療内科で処方されている薬の服薬回数が減ってきた。おまけに、気づけば止まってしまっていた生理が、ふき子が去ってから間もなく再開した。
フキハラ。
『あの人機嫌悪いから仕方ないよね』で済まされる問題ではない。
その不機嫌全開な態度は、周りの人間を不快にし、時に精神的に大ダメージを与える。
職場であれば、業務に多大な影響を与える事もある。
いいことなど、ただのひとつも無いのだから。
いい大人なら、自分の機嫌くらい、自分でとるべきもの。周りを巻き込むものではない。
洋子も真実も、心に深く刻んだ。
もし、どうしようもなく自分の機嫌が悪い時があったとしても、絶対に、吹原ふき子みたいにはならないようにしよう、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます