せっかく異界に転生出来たので、何とか足跡を残そうと考えてみた

しろめしめじ

第1話 始まり。

 ホームルームが終わりを担任が告げると、俺はそそくさと教室を後にした。

 期末テストが終了し、多くのクラスメート達は、重圧に満ちた緊張の日々

からの解放感に笑みを浮かべながら、友人同士で会話を楽しんでいる。

 俺には、そんな会話を楽しめるような友達はいない。

 別に嫌われ者って訳でも、いじめられてるって訳じゃない。

 どちらかと言うと、人畜無害の存在。

 自分の方から、あえて接触しない様にしているのだ。

 自分の時間を他人に浸食されるのが嫌だから。

 この世に生を受けた以上、自分の時間は自分だけに使いたい。

 決して揺らぐ事の無い価値観が俺の根底にあり、絶対に譲れないのだ。

 通い慣れた帰り道を足早に歩みを進めていく。

 俺には、いつも立ち寄る場所がある。

 何処にでもある、チェーン店の古本屋。

 そこで本を物色して帰るのが、俺のルーティンになっている。

 試験中は流石に我慢したので、今日は久々の解放日だった。

 店舗の前にかかる。

 平日の午前中という事も合って、広い駐車場には一台も車が停まっていない。

 客が少ない方が俺的にも落ち着いて物色出来るので好都合だ。

 店の扉を開ける。

 途端に、鼻孔に飛び込んで来る無機質な紙の匂い。

 ?

 俺は歩みを止めた。

 店の雰囲気がいつもと違うのだ。

 セピアカラーの照明に

 建ち並ぶ本棚。

 店内のレイアウトはよく似ているのだけど、証明はこんなに暗くなかったはず。

 それに、一番入り口の平台に並べられた本の背表紙には今までに見た事の無いような文字が書かれている。

 神代文字だ・・・。

 不思議なんだけど、俺にはその文字がなんであるか分かったし、普通に判読も出来た。

 古文書フェアでもやっているのだろうか。

「いらっしゃあああい」

 店の奥から、ポニーテールを揺らしながら快活な雰囲気の女性店員が現れた。

 モスグリーンのカットソーに、デニムのパンツ。その上から黒いエプロンをつけている。

 俺よりも明らかに年上っぽい。大学生のアルバイト?

「ごめんなさい。まだ開店前なんですけどお・・・まあいいか」

 彼女は、上目遣いに人差し指を顎に沿えて思案したものの、すぐに笑顔で俺を見つめた。

「あ、すみません。いいんですか」

「いいですよ。どうぞごゆっくりぃ」

 彼女はそう言い残すと、再び店の奥に消えた。

 その数秒後、店内に照明が灯る。

 彼女が照明の電源を入れてくれたのだ。

「何だこれは・・・」

 俺は愕然とした。

 店内に陳列されている全ての本の背表紙が、神代文字で書かれていたのだ。

 変だ。

 やっぱり、ここ、変・・・。

「また来まあああす」

 店の奥に向かって声を掛けると、俺は足早に店の外に出た。

 俺は眼を見開いた。

 目の前には、決して広いとは言えない一車線の道路。

 その道沿いには、個人商店がひしめき合っている。

 何処だここは・・・。

 見慣れただだっ広い駐車所は痕跡すらない。

 俺は、恐る恐る振り向いた。

 そこには、見た事が無い古めかしい店構えの店舗が、静かなたたずまいを見せていた。

 古本屋――だ。でも、違う。

 俺が知ってる店とは全然違う。


 戻らなきゃ。


 本能的に、そう思った。 

 何故そう思ったのかは分からない。

 ただ、急いで店に戻らなきゃ――そう思ったのだ。

 慌てて店舗に飛び込むと、店のお姉さんと鉢合わせになる。

「いらっしゃい! あれ? 」

 お姉さんが首を傾げて俺を見た。

 俺はお姉さんをガン見すると、凍てついた喉を震わせた。

「ここ、何処なんです? 」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る