カリスマブラッドかぐら

彩月野生

第1話始まりは雨の中

 雨の降りしきる夜。

 山奥にサイレンが響きわたり、ボロボロになった男が地面を転がって行く。

 佐原冬渡さはらふゆとは、危険因子を抹殺する為の組織に属するエージェントである。

 そのランクは最下位であり、今回の任務は決して失敗してはならない。

 価値をなくしたエージェントは悲惨な末路をたどる。

「う、うぅ」

 うめき声を上げて両腕に力を入れようともがくが、全身が痺れており身動きが取れない。

 先ほど何者かに背中を撃たれたのが原因だろう。

 穴が開いたコートから血があふれ出ている。

 ーーこのまま、だと、失血死、か。

 脳裏には今までの任務の光景や、出会った人の顔、かつて共に暮らしていた家族の顔などが走馬燈のように広がっていく。

 口端をつり上げたつもりだが、笑えていない。

 冬渡の耳に複数の足音が届いた。

 冬渡を返り討ちにした宗教団体の戦闘員達である。

 その連中をまとめている麗しい女が、虫の息の男を見下ろして冷たい声音を放つ。

「まだ生きているわ。頑丈ねえ」

 その声は大人びているようだが、実際には冬渡よりも年下の筈だ。

 かろうじて視線だけ向ける事ができた。

 信者達の持つライトが女を包んでいる。

 赤いドレスを纏う、黒髪長髪の少女。

 ーー千野桜苺せんのさい

 宗教団体--血花教団を立ち上げ、信者達に何かの実験を繰り返しており、死人がでているという噂も聞く。

 この容赦ない制裁を考えれば、理解できた。

 酷薄な笑みを浮かべ、少女はやはり氷のような声を吐き出す。

「とどめよ」

 銃撃音が轟いた。

 冬渡の意識が暗闇に沈んでいく。

 ーーこんな……はずじゃ……。

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