3-1 ●○………△

私は──

あの記憶のない、一杯のラーメンが思い出せず、ずっと悩んでいた。


レシートには、時間も店名もはっきりと記載されている。

でも、自分には食事をしたその記憶がない。


……もしかして認知症?


自宅でいろいろ考えたが、答えは出なかった。


それからも、記憶が抜け落ちるようになった。

しかも──食事をした場所の記憶だけが。


牛丼、カツ丼、親子丼、そして海鮮丼……

どのレシートも“丼物”を食べていた。


まるで、満たされた心をその手で『壊す』ように…


身に覚えのない食事の記憶に、私は不安になり、脳神経外科へ駆け込む。


「念のため、脳の検査をしましょう」と医師は言った。


CT、MRI、血液検査……全部、異常なし。


一安心をして帰る。

だが食事をした記憶を失っていく。


不安が拭えず何軒か病院に通う私に、医者はついにこう言った。


「もしかしたら精神的なものが関係しているかもしれません。紹介状を書きますので、そちらで診てもらってください」


──翌日、私は精神科に駆け込んだ。


得体の知れない何かから逃げられるなら、それでいい。

少なくとも認知症じゃないとわかっただけでも、少しは安心できた。


精神科での診断は、**DID(解離性同一性障害の疑い)**だった。


──私の中に、もう一人の私がいるかもしれない。


そう言われた。


私は、1週間ほどの入院をすることにした。


私は逃げ切れた!と心の中で安心していた。


だが、普通の病棟とは違う空気感と、非日常の光景、昼夜問わず聞こえる叫び声や笑い声に耐えきれず、ストレスから幻影を見るようになった。


過去に見たカラスが作る■▲●□△○の光景が頭から離れない。

私の心が音を立てて崩れ始めた。

ゆっくり…でも確実に。

翌日窓の外を見る。

鉄格子の隙間から見える信号機が●▲■を形作っている。

食事すらその形に見えてきた。

私は、頭を支配するその形を、空間に指を使い形作る。

ゆっくりと…慎重に………

出来上がったのは△。

私の不安定さを象徴するような、傾いた形………。

私は頭から離れない図形を引き剥がすかのように、延々と描き続けた。


***


バカなやつだ……

自ら、檻の中に入るとはな。


上から見下ろすミキは、まるで小動物のようだ。

怯えて、心がすり減って、壊れかけている。


彼女の目を見る。

そこにあるのは、光をほとんど失いかけた瞳。


……ああ。お前もついに心が『死んだか…』


彼女の指が、空中に何かの図形を描き始める。


ゆっくりと、慎重に。


出来上がったのは──△。


彼女の“不安定さ”を象徴するような、傾いた形。


虚ろな目をした彼女は、

延々と、何かに取り憑かれたように描き続けていた。


■ ● ▲ □ ○ △


■ ● ▲ □ ○ △


■ ● ▲ □ ○ △……

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