石剣の虹霓魔術 〜最強の神殺しを果たした少年は、深夜アニメ世界に転生する〜

一畳一間

一章『転生した青年は今度こそやり直したい』

炎系能力者である赤髪美少女の風呂を覗いてしまって決闘することになった

第1話「ラッキースケベ」

 さて、整理しよう。大問題だ。


 オレはクロノエイトとしてここにいる。それはオーケー。問題ない。ちゃんと理解している。


──まず、ここはどこでしょう。


 ここは魔力マギアを扱う若者の集う『テラメーリタ学園』。その浴場。さらに付け加えるなら、大浴場である。あぁ、さすが天下の学園様。昔、家族旅行で泊まったホテルの露天風呂といい勝負だ。


──次に、目の前には何がある?


 女の子。それも美が三つくらい重なるようなとくるような美少女。燃えるような赤髪は彼女の優美さを映えさせ、その紅の眼はあどけなさを残しながらも意思の強さを感じさせる。


──何が問題なのか?


 ここが浴場で、ということ。いや、そりゃ風呂に入ろうとしてる時に服を着ている人はいないだろうけど。


 今、まさにあがろうという態勢のまま彼女は固まっていた。浴槽に浸かっていた彼女に気づかなかったオレが悪いのか、学園長に挨拶行く前にシャワーくらい浴びていくかと思いついたオレが悪いのか。


 とにかく生まれたままの姿。すっぽんぽん。湯にあたりほのかに朱色のさした、艶かしい肢体を晒している。


 その曲線は少女というにはあまりにも大きすぎた。大きく、柔らかそうで、そして、ご立派すぎた。それは正におっぱいだった。


 うん、どんな言い換えをしても無理だな。


 あぁオレにはわかる。何度も見た。アニメなんかでよくある展開だ。


 デジャブのように、もしくはよく訓練された深夜アニメ視聴者石鹸愛好家のようにこの先が読める。


 きっと『なにまじまじと見てるのよ! ヘンタイ!』と叫ばれながら、極大の炎で消し炭にされるんだ。


 あーめちゃくちゃ思考が回るなー。今なら宇宙の真理とか運命の行く末が理解できる。生まれてからの数十年がこの数瞬で再生されている。


 あ、これって走馬灯ってヤツか? 随分と早いエンディングだったな……。


 そう自分の人生を振り返っていると──


 ぴちょん。水滴が落ちた。


 その瞬間、止まっていた時計の針が動き出すように、時間が流れ始めた。


「なにまじまじと見てるのよ! ヘンタイ!」

「まっ、待ってください! これは、そう! 誤解です!」


 激昂する彼女がオレの言葉に耳を傾けるわけもなく、むしろ火に油。更にヒートアップしているのがわかる。


──熱い。これは男子の夢的シチュエーションラッキースケベによるものでなく、実際に物理的──いや物理とはかけ離れた理屈で熱くなっている。


 一糸纏わぬ姿であった少女は、既に燃え盛るドレスのような憑彩衣ストラの装いに変わっている。憑彩衣こそ術師が戦闘時に纏う神秘である。


 しかし、目を奪われるほど鮮やかな紅だ。こんな可愛らしい見た目でも、その鮮烈な色合いから彼女が高位の術師であることがわかる。


「って待って! こんなとこで炎なんて使ったら──!」


 言うが早いか、爆ぜた。


 閃光、衝撃、激痛。


 その順でやってきた。知覚できたものがそれだけだった、というだけの話かもしれないが。


「──ッ、あー、あー痛い……」


 早々に死ぬかと思った。お約束とはいえ、数々の先人ラノベ主人公たちは何ていう難関イベントをこなしているんだ。


 大の字のまま体を確かめると、キチンと腕も脚もあった。吹き飛んでない。あー、空が青いなぁ。白は雲だなぁ。


 手には煤けたタオル。何か掴もうと手を伸ばした先にあったのだろう。


 撒きあげられた土埃と、背中をくすぐる芝生でようやく、先の爆発により校庭にまで飛ばされたことがわかった。


 先ほど、彼女が憑彩衣を顕現させると同時のことだった。あの場の水という水が瞬時に蒸発し、大規模な水蒸気爆発を起こした。


 その勢いで、あわれ素っ裸のままのオレは学生寮を突き抜けて校庭にまで飛ばされたみたいだ。


「しっかし、凄いな。一瞬で蒸発するとか、どういう熱量なんだろう……」


 空想の科学的な本で考察したらトンデモないことになりそうだ。まぁ魔力を計測することなんてないだろうし、何度みたいに測れないけど。


「あら。無傷なの? まぁ学園に侵入するくらいなんだから、結構すばしっこい覗き魔みたいね」


 上空からの声。


 弾かれたように見上げると、校舎よりも高い上空に彼女がいた。揺らめく赤いドレスを纏い、その手には、華奢な体に似つかわしくない大剣が握られていた。


 あんな大きな剣を片手で軽く持っているあたり、やはり彼女も常識の外にいるみたいだ。


 ……とりあえず、タオルで股間だけでも隠しておく。ここめちゃくちゃ外だし、恥ずかしいし。


 別にオレのが恥ずかしいモノってことではない。本当に。嘘じゃない。


「あなた、逃げないの? みっともなく背を向けたところで、もちろん逃さないけど」


 彼我の間に圧倒的な実力差があるとわかっているからこその強気だろう。オレおとこが憑彩衣を使えるわけもない。そんな当たり前からくる油断だろう。


 ……まぁ、使えないんだけどね!


 けど、少しだけ。すこーしだけ腹が立った。


 だって『好きに使っていいですからねー。お風呂はあっちですよー』って言われてたんだぞ。踏み躙られた乙女の心はちょっとくらいわかるけど、けど話を聞いてくれてもいいじゃないか。そもそも油断してたら死ぬとこだったわけだし。


 思い切り息を吸う。


「あのー! 下から見えちゃってますよー!」

「ちょっ──⁉︎ なに見てんのよ!」


 赤面と同時に振られる大剣。ほぼ反射的な大振りであったこと。下から丸見えだったドレスの中身を隠そうと、屈み込んだ態勢であったことが幸いした。


 そんな太刀筋は読みやすい。合わせた横っ飛びで軽く躱せた。


 さて、同じく無駄撃ちで消耗させるか、騒ぎを聞きつけて誰かしらの助けを待つか──


「ってアッツ! えっ何? これ溶岩⁉︎」


 周りの地面がぐずぐずに溶けていた。まるで水を含ませた泥のようだが、泥はこんなに赤く輝いていない。


 真横にマグマがあるというのに体温が急激に下がるのを感じる。命の危機によって背筋から寒くなってしまった。


「《紅蓮スカーレット》の名を舐めないでくれる? これでもアタシ、学年トップなんだから!」


 、その言葉に少しホッとした。こんなレベルの子が何人もいたら命がいくつあっても足りない。


 彼女はその立派な胸を張る。いや、本当に、とってもご立派で……。


 頭をブンブンと振って邪念を追い払う。今はそれどころじゃないだろ!


「待って! いや待ってください! オレ、ここの生徒で、あの部屋使っていいって言われてたんです!」


「……はぁ? マシな嘘つきなさいよ。男が学園に入れるわけないじゃない」


 口ではそう言いつつも彼女は剣を下ろし、頬杖の要領で顎を載せた。彼女の気勢を削げただけ、言った価値はあったらしい。


「わからないようだから、学年トップのアタシが教えてあげるけどね。このテラメーリタ学園はね、優れた術師マギじゃないと入学できないの。そして術師は乙女でなければならないのよ」


 彼女の言う通りだ。術師以外、つまり男には憑彩衣が使えない。神様ってのはずいぶんと女好きだ。オレも好きだけどさ。


「つまりアンタみたいな覗き魔とは無縁ってわけよ。なんなら不法侵入者だから切り捨て御免ってヤツね!」


 ビシィッ! と音が出そうな勢いでこちらを指差す。


 いやいや、犯人じゃないんだから……。


「あ、覗き魔容疑者ではあるか」


 不慮の事故とはいえ、じっくりとまじまじと見てしまったのは揺るぎない事実だしな。


「だとしても始末しようとすんのやめません⁉︎ ほら、本当に侵入者だったら、キチンと然るべきとこに突き出さないとだし!」


 不法侵入として即死刑にされてしまうなら、せめて変態犯罪者のほうがマシだ。冤罪なのだから、きっと疑いも晴れる。……言うほどこれは冤罪かな?


 がっつりしっかりと目に焼きつけてしまっているだけに胸を張れない。胸……ホントすごかったな……。


「むー……。一理あるわね」


 頭にのぼっていた血が下がったのか、はるか頭上で滞空していた彼女がゆっくりと降下し、目の前に降り立つ。


「……アタシはフラムよ。フラム・ロッソ・シャルラッハロート。別にアンタの話は信用してないから。勘違いしないように」


 言い終わるなりフラムはフン、とそっぽを向いてしまう。当然だが、嫌われちゃったなぁ。命の一つや二つでも救わなければ挽回は難しそうだ。


 これからの学園生活に立ちこめる暗雲に、早くもお先が真っ暗闇になった。端から見てた時には滑稽だったりしたんだが、我が身に起こるとこうも苦しいとは。重たい思考を振り払うように、かぶりをふる。


「オレはクロノ。転入生です。……あの、熱いから収めてくれないかな?」


 あの膨大な量の水が秒で沸騰するようなエネルギー。でこの距離はかなり堪える。


「フン、このくらいで情けないわね。まぁいいわ。アタシ、優しいから」


「あっ、そこで解除すると──」


 数バイトのメッセージではないんだ、口から出た言葉は簡単に取り消せない。


 今度は至近距離で。眼前に出現した。


 先刻も目撃してしまったばかりの、彼女のあられもない姿。


 その、まぁ、でっかいが。おっぱいが。


 その童顔に似合わず豊かな膨らみ。キュッとしまったくびれは彼女の訓練の賜物だろう。スラリと伸びた脚なんて、目が釘付けにされてしまうほど悩ましげな色気がある。


「こ、この! ヘンタイがー!」


 今度こそ終わった。どうせなら、その豊かな双丘が勢いのまま弾み、実に柔らかそうで、また朱色にそまった頬とのコントラストが……とか詩的表現した方がよかったかな。薄れゆく意識の中でオレはそんなことを思った。

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