擬態の怪物とエンジニアの目

陽光石の採集も終わり、僕は洞窟から出て、本来の目的である紋様ヤモリの探索へと移った。

僕は岩場を注意深く見渡す。だが、ヤモリの姿はどこにも見えない。ジゼルさんの言った通り、岩に擬態していて、簡単には見つけられないようだ。


(これでは、手当たり次第に探すのは非効率だ。……だが、今度は違う)


僕は、先ほど手に入れたばかりのSCANコマンドの拡張機能を試すことにした。

ヤモリの生態は、「驚くと体の模様が変化する」。その瞬間、擬態に使われている魔力に、何らかの「ゆらぎ」が生じるはずだ。


僕はまず、近くの岩を槌で力いっぱい叩き、大きな音を立てた。

そして、即座に改良した索敵プログラムを実行する。


10 REM -- BIO-SIGNATURE SCANNER v2.0 --

20 SCAN AREA FOR "MANA_FLUCTUATION" WITH "RELATIVE_COORDINATES"

30 IF RESULT = TRUE THEN

40 PRINT "TARGET DETECTED. " + RESULT

50 END IF


擬態の際に発生する、ごく微弱な魔力のゆらぎを探知し、その発生源の相対座標を表示させる。


プログラムを実行すると、タブレットから放たれた淡い光が、レーダーのように周囲を静かになぞっていく。

そして、十数秒後。


タブレットの画面に、スキャン結果が文字列として表示された。


TARGET DETECTED. FORWARD:32, RIGHT:15


(――見つけた!)


前方32メートル、右に15メートル。

僕は表示された座標へと視線を向ける。そこには、ただの大きな岩肌しか見えない。だが、僕のシステムは、あそこにヤモリがいると告げている。


僕は音を立てないように、慎重にその岩へと近づいていった。

そして、ついにその姿を捉える。岩と全く同じ色、同じ質感をした、体長一メートルほどのヤモリ。僕が近づいたことに気づき、威嚇するようにシュー、と音を立てている。


(勝負は、一撃で決める)


僕はショートソードを抜き、最後のプログラムを組み上げる。

擬態を見破られたヤモリは、素早く動いて的を絞らせないはずだ。ならば、僕がやるべきことは一つ。


10 ACTION "LEAP_AND_STRIKE"


跳躍からの、脳天への一撃。十歳の子供の身体能力では不可能な、最短距離を最高速度で移動し、体重の全てを乗せた一撃を叩き込む。


僕はヤモリの動きに集中し、それがわずかに身をかがめた瞬間を狙って、プログラムを実行した。

僕の体が、地面を爆発的に蹴る。まるで砲弾のようにヤモリの頭上へと跳躍し、落下しながら剣を振り下ろす。

それは、回避不可能な一撃だった。


確かな手応えと共に、ヤモリは動きを止めた。


「……ふぅ」


僕は短く息を吐き、ヤモリの胸が淡く光っているのを確認する。

その中央から、僕は慎重に魔石をえぐり出した。ゴブリンのものとは違う、岩のようなざらついた手触りの、確かな重みを持つ石。


これが、僕を次のステージへと導く、鍵になるはずだ。

僕は目的の魔石をしっかりと握りしめ、帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る