事実は小説より奇なりだけどフィクション0%

@iichiko

友人とのエピソード

 何でも筋肉で解決したがる友人がいるんですよ。


 そいつの家に遊びに行った時、「散らかってるけど適当に座って~」って言われたけど床にはネジとか歯車みたいなものが散らばっていて。

 何か工作でもしてたのかなと思ったらさ、縦に潰れた目覚まし時計。ジリリリリって結構やかましいベルのついたやつがあって。ほんとに縦に半分くらいになってるの。文字盤もクシャってなってるから見た瞬間時計って認識できなかった位。


「これ、どうしたの?」

ってきいたらさ。

「朝、うるさかったから」

って。包帯巻いた手を見せて照れてたよ。短針か長針かわからないけど刺さったらしい。


 他にも、高校生の頃にね、体育の授業で体育館に移動する事があって。

 その学校の体育館は道路を挟んで反対側だったんで、いったん靴に履き替える必要があったんですよ。でも靴箱の鍵を体操着に着替えた時に持ってくるの忘れて、上履きで走って行ったり、友人に靴を片方借りてケンケンで移動したりって事がよくあるんですけどね。

 ある時、その友人が、鍵忘れたから靴を貸してくれって俺に言ったんです。

 で、俺がいいよ~なんていうと。

 両方とも履きやがるの。右も、左も。俺の靴を。


「おい、おい! おーれーのー!」

「いや、この方が楽だし」


って。楽かもしれんが俺が体育館に行けないだろって思ったら。俺の腹に肩を当ててそのまま担いで。コメ袋みたいに持ち上げて運ばれましたよ。階段もあったのにさ、速度緩めねぇの。俺ずっと悲鳴。

 体育の授業終わった後、俺の靴履いて先に待ってたよ、そいつ。足のサイズ同じだったからって。帰りも悲鳴よ。なにせ下り階段だったから。


 まぁ、そんな友人にもですよ。使い道があるわけです。


 その頃、同じ敷地内に住んでいた曾祖父が亡くなってて、遺品とかは片付けられてたんだけどさ。家具とか家電とか、嵩張るものが結構残ってて。

 祖父がね、言うんですよ。


「これを三十センチ以内にしたら粗大ごみじゃ無くなるんだよな」って。


 孫へのお小遣いなのか。それともケチなだけなのか。一個粉砕すると千円もらえたのよ。高校生がですよ? でもバイトしてなかったので、ありがたく頂きましたよ。テレビとか、石油ストーブとか、タンスとか。

 ドライバーでネジ外したりもするけど、まぁ、だいたいはハンマーと斧です。ハンマー最強。だいたいの物はペシャンコになる。楽しい。楽しくてお小遣いも貰える。

 冷静に考えるとね、壊さない方が良かったものもあったんですよ。高く売れそうなものとか。割と貴重なんじゃ? みたいな物とか。もう、壊す快感に酔ってたんで何でもドカーン!してましたね。桐の箪笥ってすっげぇ丈夫なのね。


 で、この破壊祭りのクライマックスが納屋です。曾祖父が使ってた農機具とかが入ってる車庫くらいの大きさの納屋がありまして。リアカーとかも入ってたから結構な大きさ。


「これ、何日かにわけてやらなきゃだな。壊しきったら一万あげる」

「おー!やったー!」


 俺、大喜び。今までの溜めたお小遣いでモデルガン買おう、そうしようって思ってたので、一気にお買い物ゲージ上昇。

 でもね、流石にデカい。ハンマーじゃ無理。曾祖父がね、台風にも耐えるようにってトタンとか後付けて沢山打ち付けてるから。増加装甲が凄いんです、この納屋。俺が生れる前からあった納屋。継ぎ足し継ぎたしの、秘伝のタレみたいな事になってる。フランケンシュタインのアレみたいな継ぎ接ぎの魔界建築物。

 これはね、流石に一人でやるのは辛い。屋根の釘を外してバールとかで解体しなきゃだろうし、重そうだし。

 で、爺さんに聞いてみたわけですよ。


「友人雇っても良い?」

「いいよ。そいつにも払うよ」


 この頃の俺はね、純粋ですから。友人に五千円やるから納屋を粉々にしないか電話したわけです。


「ストⅡのボーナスステージやらないか。時間制限なしで納屋。車じゃなくて小屋を」

「やる!」


 十五分後にはうちに来てましたね。そいつの家、電車で数駅あるんだけど、凄い速さで。もうカウントダウン始まってると思ったみたいで。まだ始まってねぇよお前のボーナスステージは。

 破壊したい対象を見せて、あらかじめ中の物は全部運び終えていて。斧は一個しかないけど、デカいバールとか、木のハンマーと鉄のハンマーと。あと小さいバールもいくつか。準備してあるのを見せてね。こう言ったわけです。


「で、獲物はどれにする?」って。


 そいつ、キョトンとした顔して、何言ってんの? みたいな顔で。


「お前のしてる軍手、それ貸して?」だってさ。


 最初に気を溜め始めたよ。龍虎の拳のタイプで。覇王翔吼拳うちます!って感じの。嬉々として飛び込んでいって、まず壁を殴る。馬鹿かよ。


 ドカーン!ボカーン!ガンガンガンガン!ドカーン!「あのさー!」ガガガンガガガン!「パズルみたいにー」ガン!ガン!ガン!「まず屋根どかさないと」ボゴン!

「だからー!」「きこえなああああああああい!」ガンガンガン!


 もう、夢中。ねこまっしぐら。両手広げてグルグル回ってる男初めて見たよ。AボタンとBボタン同時押しみたいなやつ。壁にドロップキックもしてた。


 あんまりヒャッハーしてるから祖父さんと父親も出てきて見物してたけどさ。

「バーサーカーがいる」

とか言ってんの。

 バーサーカーって日曜の午後の父親の口から出てくる単語かな?


 とうとう壁ぶち抜いてさ。で、当たり前なんだけど壁破壊したら屋根が落ちてくるんだよね。もうもうと舞う砂ぼこり。うわああああって声が聞こえた。

 崩れ落ちる屋根。ドリフのセットみたいに綺麗にはつぶれてくれない。ドサドサドサと半分くらい崩落して、端っこの方は残ってた。

 中には高校生男子一人。

 さすがに父親が慌ててた。息子の友人死んだんじゃないかって。


 でね? これが嘘みたいな本当の話なんだけどさ。そいつ、昇竜拳で出て来た。マジで。


 頭の上から屋根が崩落して潰れて、俺と父親が救助しようとデカめの壁パーツをどけようとバール引っ掛けて引っ張ろうとしたらさ。ドカンドカンドカン!って。積み重なった木製の板とか、波打ってるトタンとかが爆発したみたいに下から跳ね上がって。片足上げ、上、大アッパー。


 釘とかもあるんだから気をつけなさい!って怒られたけど、ぜんぜん止まらないまま、下パンチとか上に踏みつけたりとか。

 俺は危ないから離れてみてたんだけど、この辺りから三十センチ未満の破片を拾って袋に入れ始めたよ。

 支柱とかの棒という棒は友人が掴んで膝で折るから、まだ長いなと思ったら投げ返して。粉々に砕かれたものをドンドン回収。


 ホントはね、斧とかのこぎりとかで小さくして縛る気だったから。メジャーとかビニール紐も用意してあったんだよ。

 使わなかった。

 箒とゴミ袋。破片だから。


 最後、納屋のあったところに手首よりちょい細いくらいの木が生えてて。これも抜いてって言われたから、小さいシャベルで根っこを露出させて、細いスコップみたいな奴で根っこを切ってたのよ。一本ずつ。ドカーンドカーンって音をBGMにね。


「何してんだ」

「この木も抜くんだよ」


 自分だけに破壊させて何サボってんだって意味かと思ったら違うのね。それも俺にやらせろって事で。


「まって!まって!根っこ切らないと木は抜けないから!」

「んんんんんん!がぁぁぁぁっ!」

「無ー理ー!」

「うあおあおあおあおあおあっ!」


 ブチン!って音がして二メートルくらい吹っ飛んでた。抜いた木と一緒に。

 その木は俺がのこぎりで切ったよ。生木だったからね、折れなかったんだ。試してたけど。


一時に電話して、三時過ぎには納屋が無くなってたんで、爺さん少し多めにお小遣いくれたよ。俺と友人に手渡しで。その足でモデルガン買いに行った。

 俺がMP3で友人がAK47。マチェットとかも売ってたけど、流石にもういいやと思ったわ。


 この時のマチェットを後日こいつが買ってしまってひと騒動おこすのだけど、それはまた別の話。







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