告白の返事




「あー……朝丘君の方かー……そう言われれば確かに、白雪と同じ相手に向かって行ったね」


「何でここでアンタなのよ、変に期待させないでよね」


「あはは、駄目よリノアちゃん。白雪は朝丘君の事も心配してたんだからね?」


 近付いて来る朝丘を他所に、三人は各々で何かを呟いていた。一瞬だけ高鳴った胸は今は落ち着き、元気そうな姿を見て安心する。




「あ、朝丘っ!? 医者からは意識が戻ったって聞いていたが、何処も後遺症とかは無いのか……?」


「後ろの彼女達の様子を見れば、君が本当に大日向 白雪なんだな……今まで報道でしか知らなかったが、改めて実物を見れば驚きだ」


 少し前に出て、朝丘の対応をしながら姿を確認する。大きく見えるようになったその姿は、堂々とした雰囲気もそのままだが、不思議そうな顔でこちらを見つめている。


「随分と背が縮んでしまったな。しかし、ルミナスの後継者として狙われていたのが君だったとは……」


「あ、ああ……えっと、その、黙っていてごめん……覚醒すればどうなるのか全くわからなかったから、誰にも言えなかったんだ」


「いや、悪いのは俺の方だ。事情を知らず勝手に落ちこぼれと罵ったのに、二回も助けられた。君の優しさには感謝と謝罪の気持ちしかない、今まで悪かった」


 校門には大勢の生徒達が見ているにも関わらず、朝丘が大きく頭を下げて謝罪する。周囲は彼の行動に驚き、色々な感想が飛んで来る。




「お、おいっ! 頭を上げてくれ! 今まで覚醒自体出来るかどうかもわからなかったんだから、朝丘が謝る必要は無いんだ!」


「だが、俺は……! 今まで目標としていたルミナスの後継者相手に、上から目線で失礼な対応ばかりしていた……!」


「そ、それも良いんだよっ! 俺の能力は戦いには向いていないから、皆の協力が必要なのも何も変わらない訳で」


 怪魔の反応を見つけ、人々を守り怪我を治す事には長けてはいるが、直接怪魔を攻撃する手段は持ち合わせていない。慌てて朝丘の頭を上げさせると、意外そうな反応を見せた。


「それは本当なのか? だが、結局七終天の二人を追い返したのは君がやったんだろう?」


「タイキョクは変身した姿を見た途端に、戦意を無くして、カレンの方は攻撃を跳ね返して自爆したみたいな物だから」


「そ、そうか……唯一使えた身体強化の魔法は、魔力量が増えてもその身体では大幅にリーチが短くなっているだろうしな」


「そうなんだよ、身長は五〇センチも縮んで、体重はそれ以上減っているからな。今はもう、女子小学生と同じと言えばわかりやすいか?」


 多分、姉達と腕相撲をやってみたら、誰にも勝てない位だろう。鍛えるとしたらまた一からのやり直しとなるが、覚醒前にあれだけ鍛えても大して強くは無かったのだから、意味は殆ど無いとは思う。




 妙にこちらに従う対応になった朝丘を見て、どうしたのだろうかと不思議に思っていると、背筋を伸ばして姿勢を正し始める。


「で、では、これからは! 怪魔の討伐を行うにあたって、共に戦う魔法使いが必要になると……!」


「まあ、そうなるな。俺の使っていたデバイスは、タイキョクと戦ってボロボロに壊されたし、その辺りを含めて一度管理局に行く必要が……」


 そう話しつつ、デバイスを腕に装着する為の固定具も改めて新調して貰わなければと、ふとすっかり細くなった左腕を顔の前に伸ばして眺める。


 腕から抜け落ちた後はきちんと本隊に回収されたらしく、未だに手元には返ってきていない。あれが無いと、調査活動を再開する訳にもいかず、その辺りはどうするのだろうかと気になっていた。




 そんな事をぼんやりと考えていると、不意に朝丘が俺の左手を両手で掴みだした。突然の行動に驚き、こちらが反応する前に朝丘が喋り出す。


「頼みがあるっ! ルミナスホワイト! い、いや……し、白雪さん! 俺を共に戦う仲間に入れて欲しい!」


「へぇえっ!? と、突然どうしたんだいきなり!? 朝丘の実力は知っているが、それは俺が決められる事なのか?」


 怪魔討伐における朝丘の貢献度は勿論良く知っている。今後協力関係を築けるのならこれ以上無い位なのだが、Aランクの魔法使いを自由に扱える権限なんて持っていない。


「ルミナスの後継者と共に戦う事は、憧れだったんだ! 七終天とだって、今度は君の前で無様は晒さないと誓う!」


 そう話す朝丘の顔は真剣そのもので、頬も若干赤くなっている気がした。話を聞いていた周囲も驚きの声を上げ始め、中には自分達も俺と一緒に戦いたいと名乗りを上げる生徒もいた。




「ずるいぞ朝丘! お前だけ抜け駆けするな!」


「そうだ! 幾ら実力者だからって、特権みたいに振りかざすんじゃねえ!」


「私も白雪ちゃんと仲良くしたーい! 前に出るよりも、サポート班と一緒になるべきよ!」


 今まで人に合わせられる程の能力を持っていなかった為、晶以外から必要とされる事は無かった。素直に求められる嬉しさと、上手く言葉に出来ないモヤモヤとした感情が同時に押し寄せて、複雑な気持ちになっていく。


「あ、遊びじゃないんだぞ!? 俺は本気なんだ! これから本気で白雪さんを守る存在になるって決めたんだ!」


 掴んだ手を放し、背後にいる生徒達に反論し始める朝丘。俺だって遊びで身体を変えた訳では無いし、権限だって確認出来ていないというのに。どうしてこうなるのかと困り果ててしまうと、誰かが優しく肩に手を触れて来た。




「君達、白雪が困ってしまっているよ? 僕だって白雪の力になりたいとは思っているけど、早まるのは良くないさ」


「あっ……! 晶ぁ!? いいい、一体どうやって後ろからぁ!?」


「正門は見ての通りだから、裏門から回って来たんだ。こんな騒ぎになったのに遅れてごめん」


 手の主は晶であり、俺に声を掛けるとすぐに手を引いてそのまま前に出た。見上げたその顔は、数日ぶりに見るからだろうか、何処か凛々しさが増したような気がして、どういう訳か胸の高鳴りが再び訪れる。


 魔法科の白い制服に身を包んだ晶は、朝丘がやって来た時よりも、黄色い声と動揺した声は強まった気がして、二人が対面し始める。




「星影……! お前も白雪さんを守る立場を狙っているな……」


「ずっと昔から、そうありたいと思っているけどね。だけど、無理強いは良くないって、告白したあの日におじさんに釘を刺されたから」


「それって、白雪の病室に家族全員で初めて行った時の事? うっひゃぁー、お父さんもしっかりとやってくれてたんだぁー」


 近くに寄って来た姉が楽しそうに話しだす。告白の件を持ち出されて、顔が熱くなればそれを見ている周りも反応していき、その事を知らなかった朝丘は驚いてしまう。




「こ、告白ぅ!? ど、どういう事だ星影っ! お前、彼女に何をしたんだ!」


「どういう事も何も、アンタと違って星影君は初めて白雪に会った日から一目惚れしてて、ずっと好きだったみたいよ?」


「ルミナスに覚醒して変身した後に、泣きじゃくる白雪を宥めようと晶も勇気を出して、自分の気持ちを正直に伝えたって訳よ」


 ここぞとばかりに、加藤と京がありのままに起きた事を全部伝えていく。何も言えなくなってしまった俺を見て、姉達三人はやたらと優しい表情をし始めた。


 姉達、朝丘、そして晶と、誰を見ていれば良いのかわからず、視点が定まらなくなっていくが、話はどんどん進んで行く。




「初めて会った時は、白雪の事を女の子と勘違いしてた。けど、間違いに気が付いた後も僕の思いは変わらなかった」


「お、俺だって、幼少期の頃を予め知っていれば、対応は変わっていたさ……! 幼馴染だから出来た事だろ!」


「それは、そうかも知れないね。だからどうしたいのかは、白雪が決めるべきだと僕は思う」


 そして、いきなりこちらへ振り向いた晶に返事を求められる。驚きのあまり変な声を出して返事をしてしまい、後ろから姉達の笑いを堪える声が聞こえた。


 熱くなる顔を冷まそうと、首を左右に振り深く呼吸をする。それでも何も変わらず全然だったが、ここで応えてあげないと二人は納得しなさそうだった。




 上手く伝えられるだろうか。今の思いを正直に打ち明けるべく、どうにかして声を出す。


「あ、晶が俺をずっと好きだって聞かされて、知らなかったのは俺だけだってお姉ちゃんから教えられて、どうするべきかずっと考えてた……」


 俯きそうになる視線をグッと堪え、勇気を振り絞って晶に顔を向けて見つめる。


「正直に言うと、タイキョクの攻撃を受けた後、身体がボロボロになった時に思い浮かんだのは、晶の事だった……」


 つい視線を逸らしてしまいそうになるが、晶の顔を見て話していけば、向こうも驚いた表情を見せていた。


「自分の身体がボロボロになれば、より強く晶がこうなって欲しくないと思ったんだ……そうしたら、どういう訳か身体の中から魔力が湧いて来て……」


 こんな事を話していかなければいけないのは、とても恥ずかしく感じるが、伝えるべき相手に伝えるのは今が良いのだと思うのだった。


「つ、つまりは……! そういう事なんだ! 好きとかどうしたいのかは、具体的には言えないけど、とっ、とにかく今は! 出来るだけ側にいて欲しい!」


 限界が来て、つい目を瞑りながらギリギリ言える範囲で告白の答えを返していく。何をどうすれば良いのかまるでわからず、答えになっていないような所もあるが、それでも、精一杯思いを伝えると、柔らかい感触に抱きしめられる。




 驚いて目を開ければ、笑顔の姉に抱きしめられていて、良く出来たと褒められ歓声も聴こえて来る。


「よく頑張ったね白雪~。昔と変わらず、恥ずかしがりやなのはそのままだけど、晶君ならこれでわかったでしょ?」


「はいっ……! ありがとう、白雪。勿論君の思いに応えられるように頑張るよ」


「それじゃあ、私達は教室が違うから後の事は任せるね。後、リノアちゃんは姉妹みたいに思ってるから構わないけど、いきなり名前で呼び始めるのはちょっとね~」


 姉が頭を撫でながら、個人的な感想を述べていく。色んな生徒に絡まれて馬鹿にされていた事自体は、俺にとっては正論な部分もあったと感じていたが、姉からして見れば思う所があるようだった。




 笑顔で背中を軽く押して、晶に俺を託すような素振りの姉ではあるが、その顔を見た周囲の男子達は何処か威圧されている。


「可愛い弟が今まで馬鹿にされてきて、怒らないお姉ちゃんはいないのよ~? これからは男子との距離感は改めようね、白雪?」


「勿論、晶も十分気を付けなさいよね。白雪が望んでるから強くは出ないけど、実質小学生の女の子に手荒な真似なんかしたら、縁を切るからね!」


 京もやって来て晶に注意を促している。圧が増した二人に、ただ頷くだけしか出来ず。恐る恐る晶の側に寄る。




「二人に失望されないように頑張らなきゃだね。それじゃあ、教室に行こうか白雪」


「ま、待てっ! 魔法科の校舎だぞ! なんで星影が送ろうとする!」


「僕も白雪と同じ、F組に編入するからだよ。細かい場所は良く知らないけど、教室までなら大丈夫さ」


「えぇっ!? そ、そうなのか……晶……? まあ、これから細かく能力を調べるなら、同じ教室なのは当たり前か」


 姉に威圧されたにも関わらず、朝丘は尚も食らいつこうとして来た。晶はすかさず自分が間に入る形でそれの相手をしながら、俺と一緒に校内に入っていく。


「あっ、待ちなさいよ朝丘君! 白雪達の邪魔をしちゃ駄目でしょー! リノアも側で監視しますから、二人の事はお任せ下さいお姉さま! 京も!」


 そして、後から加藤も追いかけて来て、強引に朝丘を離れさせようとし始めた。




 これからの事を考えると、きちんと落ち着く時間は欲しかったが、なぜか一人の時よりも心地良い気分でもある。


 先程感じた胸のモヤモヤも、晶が側にいれば自然と消えていく。そんな不思議な感覚のまま魔法科の校舎へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女 ルミナスホワイト ~落ちこぼれ魔法使い君は、実は魔法少女の後継者です~ りすてな @Ristena

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ