第22話

 馬を走らせ、最寄りの野営地を目指す。

 サナエが俺を待つなら、恐らくそこだろうから。

 さて……とりあえずサナエにこの契約書を持たせて、国王に直接手渡してもらおうかね。

 俺の存在を伏せて貰って。




 それから少しして、簡単な木の柵で囲われただけの野営地に到着する。

 相変わらず管理をしている組織もいなければ、特別整備されているわけでもない場所。

 そこに、上等な毛並みの馬が止まっており、すぐ近くにサナエ達のテントも設営されていた。


 どうやら、他に利用客はいないようだな。まぁまだ日も高い、夕方頃にここに到着するようなペースで移動している人間もいるだろうな。

 この世界、まだ主要な移動手段が馬しかないのだから。


 俺は野営地に入り、二人がいるであろうテントに近づき声をかける。

 すると、すぐに中から二人が現れた。

 ふん、どうやら何か問題が起きた様子はなさそうだな。

 じゃあ……馬を返して、軽い報告だけして契約書を渡すとするか。


「おーいサナエ、今戻った」


 なんだか、昔に戻ったみたいな挨拶をしちまった。

 そういやいつも、俺がマンションに帰るとこいつが出迎えてくれたっけな。

 …………そうか、今の状況、似てるんだな、あの頃に。

 仕事を終わらせて帰ると、律義に出迎えるんだよ、いつも――


「おかえりなさい! おじ――ヘリオス君」


 そう、いい歳してわざわざ廊下に出てくるんだよ『おかえりなさい』なんて言って。


「まだ名前に慣れねぇのか……今戻ったぞ」


 土産になるようなものなんてないが、話をしてやろう。

 あんまりおもしろいものは期待すんじゃねぇぞ――






「以上が事の顛末だ。で、これがその契約書。俺から渡すわけにも行かねぇからな、サナエから国王かそれに近しい人間に渡してくれ。無論、俺の存在は仄めかさないようにな」


「えー……まぁ善意の協力者がいたとだけ言っておきます」


「それでいい。『街だけじゃない、その周辺に住む人間の相談に乗ってこその勇者』とでも言っておけば、お前の株も上がるだろうさ。ついでに貴重な資源を新たに国主導で採掘できるんだ、こりゃ相当な謝礼が出ると見たね」


「アンタ裏でそんなことしてたの……よくあの守銭奴で権力と肩書きが全ての学園長からそんな条件引き出せたわね……」


「だからだ。権力と肩書き重視のやつほど騙しやすい。ちょっと匂わせてやるのと、直近でお前達が活動していたからな。俺の話や肩書きにも説得力が出たってわけだ」


「じゃあ、国に戻ったら早速渡しますね、この契約書。その後はまた、この大陸の他の地方に行くと思います。今度はかなり長旅になりますから、しっかり準備をしないとですけど」


「俺は城下町には入りにくいな、そこそこ有名になったかもしれん。準備はお前達に任せる。俺はそうだな……城下町最寄りの宿場町にでも身を隠すさ」


「……勝手にいなくならないでくださいね? 絶対、私達が迎えに行くまでいてくださいね」


「あいよ。んじゃまぁミステ、そっちは任せるぞ。なにぶん長旅なんて経験することなんてない世界出身だ。準備の買い出しは頼んだ」


「はいはい、それなら問題ないわ。ついでにアンタの分の馬も手配できないか聞いてみるわ。表向きは『荷物が増えた時用』って言って」


「そいつは遠回しに俺が荷物だって言いたいってことか? 生意気な」

「違うわよ、素直に言葉を受け止めてくれない?」

「クク、冗談だ」


 物怖じしない、旅にも慣れた同世代の娘。

 そうだな、冷静に考えたらサナエのお供に選ばれるのは当たり前だよな。

 ……良い出会いに恵まれたな、サナエ。


「んじゃ、明日は王都向かうんだろ? まだ少し日にちはかかるが、俺は途中の宿場町で待機しておく」


「ヘリオス君、お金はあるんですか?」

「なんとかなる。実際、今日までなんとかなったろ?」

「違法スレスレなことはしないでよね?」


 そりゃ約束出来ねぇな!

 なにせ俺を狙う人間がいたら、俺は嬉々としてそいつを殺すか脅すつもりだし。

 本当、良くも悪くも『俺にとってやりやすい世界』だよ。

 他の大陸もこんな感じなのかねぇ? この大陸は本当に辺境も辺境、果ての果てって話だし。


 案外、他の大陸でも日本から人間が召喚されていたりするのかもしれねぇな。








 今度こそ、本当の凱旋パレード……なんてことには当然ならなかった。

 当たり前だよね、いつ帰ってくるかなんて分からないんだから。

 ミステちゃんと私は、出発からまだ一月も経っていない王都に戻る。


 平和な、いつも通りの時間が流れる花の街。

 時折、私が誰なのか気がつく人もいたけれど、私は日常に戻ったこの街を、ゆっくりと馬に乗って進む。


「よかったわね、騒ぎにならなくて」


「そうだね。出発の時は、ヘリオス君を連れて行ったりでバタバタしちゃったから、少し心配していたんだ」


「まぁ普通に聞かれるとは思うけれど……本当のこと、話してもきっと信じて貰えないかもしれないし、ヘリオスだってたぶん話してもらいたくないだろうから、黙っておきましょう」


「そうだね、適当な作り話……考えておくね」


 でも、私はお城を出るまで、殆ど外の人間と関わってこなかった。

 作り話をする余地なんてないんだよね……どうしよう。

 ……ヘリオス君を少し頭のおかしくなった子供として語る……?


 だめだめ! そんなことしたらあとでなんて言われるか!

 ……適当なお話でも考えないといけないよねぇ……『私の力で夢で逢った』とか。

 ちょっとロマンチックすぎるかな?

 これもこれでおじさんにダメ出しされそうだなー……。


「とりあえずお城、行こう? この契約書を渡して、次の目的地を聞いたら……うやむやできないかな?」


「サナエちゃん……なんだか少し逞しくなったね?」

「ヘリオス君といるからかもね?」


 強く、生きよう。優等生だとか世間体だとか、そういうしがらみのない世界に来られたんだから。

 勇者の使命はあるけれど、私にはヘリオス君もミステちゃんもついているんだから。

 そうして私は、この世界における私の出発点への帰路につく。


 ……やっぱり夢で逢ったことのある相手ってことでいいかな?

 なんだか『勇者』の加護と『暴力』の加護って、対極の関係だから、逆に惹かれあった……みたいな。

 よし、この手で行こう!




 城に戻ると、すぐに謁見の手筈が整えられた。

 相変わらず、まるで私を娘のように扱う王様と王妃様に、なんだか出発の時に騒ぎを起こし心配をかけてしまったことが申し訳なくなる。


 よーし……じゃあ聞かれたらはぐらかして契約書を渡すところから始めようかな……?

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