第21話
「実はですね、この辺りの土地には枯渇したと思われていた、貴重な資源がまだ眠っているとここの住人から相談を受けていたのですよ」
「ま、まさかそんなこと、あるはずがありませんよ。この辺りの資源全て、そう全て取りつくされて価値なんてないのです! 教会の人間のお手を煩わせるなんてそんな――」
「ええ、私もにわかには信じがたく、それでここの住人に採掘をさせ、産出された鉱石をサンプルとして、王都に輸送させたのです」
「な……! 無断で採掘など……!」
「おや? ここの彼らの土地だと伺っていますが。採掘は私の命令ですので、もしもなんらかの罰があるのなら、どうか私にお願いします。ああ。無論教会を通してくださいね」
俺の嘘八百に飲まれていく学園長。
分かる、これはもう完全にこちらの語るストーリーに飲み込まれた人間の反応だ。
もう、そもそも『この目の前の人間は本当に教会の人間か?』と疑う段階を過ぎ『どうしたらこの土地の調査を取りやめさせることができるのか』にシフトチェンジしていることだろう。
「皆さん! 一時採掘は中断してください! つるはしは全てそちらの工具箱に収めてください、後ほど教会の者が回収しますので!」
俺は聞こえよがしに背後の集落に声をかけると、遠目からはつるはしにしか見えない、枝を刺しただけの金属片を、住人達が一斉に木箱に収納していく。
『道具まで支給して本格的に調べている』と思わせる為の工作だ。
「そろそろ王都からの使いも到着する頃なのですがね。学園長、もしそうなればこの土地はここの住人と、国が直接管理することになります。構いませんね? 何分この土地の周囲は学園のものですから、運搬には土地を通る必要がある。国からの指示で採掘がはじまる以上、その妨害をするなんてことはしないと思いますが、念のため」
「あ……し、しかしただの勘違いかもしれませんがね! 恐らく、産出したのも遥か過去の採掘漏れ、低純度の『魔力結晶』でしょう! 正直、燃料にもならないような――」
俺はこの往生際の悪い学園長にとどめを刺すべく、大声でわざとらしく、崖の上に向かい呼びかける。
「おや! 到着しましたか! すみません、急いで下に降りてきてもらえませんか!」
その呼びかけを合図に、崖の道を馬で駆けてくる、小ぎれいな服を着た人間。
その馬には、しっかりと『王家所有の証』である、見事なエンブレムも装着されていた。
当然だ、なんたってコイツは正真正銘、勇者のお供が乗っていた馬なんだからな。
これ以上ない説得力になるだろうと思い、馬ごと借りたって訳だ。
「遠路はるばるお疲れさまでした。では調査報告書をお見せ出来ますか」
「はい! こちらになります!」
俺は何も書かれていない羊皮紙を受け取り、さもそこに書かれていることを読み上げているように、でっち上げた言葉を語る。
「なるほど、どうやら学園長の予想は外れていたようですね。この周囲の土地には確かに豊富な『魔力結晶』が眠っているとのことです。国から正式に採掘の許可が下りましたよ。ひいては、近隣の土地の管理者である学園長、貴方からも正式に許可を下すようにとあります。後ほど、この土地の所有権を彼らに認めると同時に、採掘した品の運送にこちらの土地を通ることを許可する契約書を作成したいのですが、よろしいですか?」
「う……ぐ……」
「ああ、しかしそれではあまりにそちらに益がありませんね? どうでしょう、運送をそちらが手配してくだされば、土地の通行料を含めて、資源の売り上げの一割をそちらに収めると言うのは。少ないと感じるかもしれませんがこの埋蔵推定量です、なかなかの額になると思いませんか?」
「い、一割……」
「ああ、これはあくまで善意の申し出です。本来ならば教会か王家の方で運搬を全て賄うつもりですから。ですが、せっかく通行を許可してくださるのなら、なんらかの益がそちらにも出るようにしたいではないですか」
既に『土地を通り抜けるのは許可された前提』で話を進める。
土地の通行料を取るなんて発想は出ないだろう、何せ国が関わるかもしれない事業になりつつあると勘違いしているのだから。
なら、後はどうやって自分もおこぼれにあずかればいいか、それしかもう頭にはないだろう。
分かりやすい餌とゴールをちらつかせ、本当は目の前に落ちている金と餌に気がつかせない。
詐欺師の常套手段ってやつだ。
「そうですね、契約書に王家の名を書いているのに、運送に無断で第三者、この場合は学園の人間を使うと言うのは、下手をすれば国の心証が悪くなるかもしれませんし、こうしましょうか! 『実はすでに土地の人間が土地に埋蔵されている資源に気がついており、国が調査をし始める前にはもう、採掘を開始しており、運送の役目を学園が買って出ていた』と。これならば、国は後から割り込んできた形になります。私とここにいる人間が口裏を合わせれば……国に咎められることなく、そちらに売り上げの一割を収めることができます。どうでしょう、学園長」
「な、なるほど! それでは早急に契約書を作成してまいります! そちらの代表者の名前はいかがいたしましょう?」
「それは、この土地の所有者の名前で良いでしょう。ここで私の名前が出てはおかしなことになる。なにせ……その契約は私がここを訪れる遥か前に交わされた契約なのですから。そうでしょう?」
「は、はは! そうでしたな! では、急いで契約書をまとめてまいります!」
そう嬉しそうに笑いながら、学園長は大急ぎで街へと走っていった。
人間『多少の悪だくみを一緒に行っている』と思えば、奇妙な信頼感や一体感を覚えるものだ。
今回はそれを利用し、深く考えるよりも早急に偽装工作を済ませることの方が大事だと思わせることができた。
これで……書類上は国も教会の名もない、ただの街の長と先住民の人間の採掘の取り決めが可決されるって訳だ。
「さて、話は飲み込めたか? お前らはこれから、ここで炭鉱作業員として働き、その利益の一割を学園に収め、残りの九割でこの環境を変えていくことになる」
「う、嘘みたいだ……あんなにあっさりと契約を飲んじまった……」
「あ、アンタの取り分はどうなるんだ!?」
「あ? そんなんまた今度考えたらいいだろ。今の俺は大金担いで歩き回れるような立場じゃねぇ。ならそうだな……契約書にでも『将来毎月の売り上げの二割を譲渡する』とでも書いてくれや。いつか金に困ったら取りに来る」
何をするにしても、金は必要だからな。
それに後回しにして『気前の良さ』をアピールできるのなら、安いもんだ。
信頼と依存と恩義を感じさせれば、人間何年経っても振る尻尾を忘れたりはしないからな。
そうして俺は、学園長が持ってきた契約書に、土地の人間と学園長が正式にサインしたのを見届け、その書類を王都に持っていくと告げ馬で立ち去るのだった。
「学園長、今のうちにここの方達の生活の支援をしておくといいでしょう。恐らくこの場所は再び採掘で賑わう。その際の景観も大切にした方が良い」
「なるほど、その通りですな……分かりました、こちらの集落の立て直しや生活の支援、そうですな……採掘の支援も請け負いましょう。ですので何卒、今回の件は我らだけの秘密に」
「もちろんです。では、これで失礼しますね」
これで少しはマシな暮らしになるだろうさ。
んじゃ、先に行ったサナエ達を追いかけるとするかね。
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