抗うつ剤との出会い
O先生を指名しての予約は一週間ほど後だった。この頃は日々の記憶がとにかく曖昧だったので、日付もなかなかに曖昧なのだが、現時点で逆算してみると多分二月の中旬あたりの話だ。
擦り切れそうな毎日を送っている間に予約のオンライン診察の日がやってきた。
画面に現れたO先生は、共有されているらしい患者カルテを見て微妙そうな顔をした。
「前回のドクターとのコミュニケーションがうまくいかなったみたいだね(早口)」
「あ、はい、そうなんです……」
「睡眠時間も結局変わらずか(早口)」
「は、はい……」
「そっか……六時間は寝たいね……」
O先生のこの台詞を私はよく覚えている。なんというか、寄り添ってもらったような気になった。六時間は寝たかった。相変わらずの強制四時起きで、どれだけ頑張っても五時間も眠れていなかった。
先生はわずかに眉を寄せながらじっとパソコン画面を睨んでいて、ふと顔を上げると私を見た。
「ミルタザピンを処方します」
「ミルタザピン」
「もうこれしか思いつかない飲みましょう」
O先生は更に説明した。ミルタザピンとは抗うつ剤であり、しかし副作用に強烈な眠気があることから、不眠に処方されることもある。とはいえ、副作用は副作用なので、処方してしばらくはかなりしんどいと思う。それでも副作用の眠気があればなんとか眠れるはずだ。試してみるしかない。
私はぼんやりとしながら話を聞いていた。処方が決まった後にオンライン診察は終わり、オンライン薬局にてミルタザピンとベルソムラが処方された。
あれ、ベルソムラ?
なぜ効かなかった睡眠薬がまた処方されているのかを問い掛けると、薬剤師さんはその場でO先生に確認を取ってくれた。
「ああなるほど……草森さん、ミルタザピン……というより、抗うつ剤の副作用は色々と多くてですね」
「そうなんですか……」
「はい。それに草森さんは抗うつ剤を初めて飲まれますので、体が慣れるまでかなりかかると思われます。そのため、強烈な眠気が起こったとしても、寝付けるかは不明となります。お薬が多少なりとも体に馴染むまで、寝入りがスムーズになるまでは、ベルソムラを睡眠導入剤として使用ください」
たいへん丁寧な説明に感服した。とてもわかりやすかった。
私は了承し、ミルタザピンとベルソムラは無事に処方された。
翌日、いざ実食の時である。
服用タイミングは寝る直前と書かれていたので、そのようにした。寝室に行く直前にミルタザピンを放り込み、まあもしこれ一つだけで眠れるならそのほうがいいわなと思い、一旦ベルソムラを口にしなかったのだが、布団に入って目を閉じて速攻で後悔した。
なんというか、身体中がむずむずむずむずした。血管がラップでも口ずさんでいるようなリズミカルな激しさで、寝転がっていても身体のあちこちが動きたがっていた。背中はジクジクと膿んだように熱かった。指先が震えており霜焼けじみたむくみになっていた。私は飛び起きて、ベルソムラを慌てて飲んだ。
これでやっと寝付けた。
そしてミルタザピンの副作用である眠気は本当に凄かった。
およそ三ヶ月ぶりだろうか。私は午前五時半頃、寝付いた時間から計算するなら六時間ほどは眠れていた。
もうラッキーハッピーホリデー! と踊り狂いたいところだったが、甘かった。
副作用が強すぎるあまり、一日中眠気と倦怠感で体がずっしりと重く、子泣き爺を常に背負っているような体調となっていたのである……。
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