第4話 薬屋、開店します!

 お店の方はアーミラさんが用意してくれた。使わなくなった古い倉庫らしく、中はすごく汚かった。キータと一緒に掃除したりして、どうにか人が入れるぐらいまでにはなった。


「ほかに手伝うことはあるか?」

「うーん……そうですね。薬草を入れるカゴや瓶があったらありがたいんですけど」

「よし、任せろ」


 キータは無愛想だけど、やることはやる人だった。たぶんお姉さんに言われて仕方なくやっているだけかもしれないけど。


 私はキータが用意している間、森に行って薬草を取ってくることにした。無数に生えている葉や花は一見だけでは何なのかは分からない。けど、この図鑑さえあれば一目瞭然だ。


 取り敢えず、身体に良い影響を与える薬草を鞄の中がパンパンになるまで入れると、村の方に帰った。


「あいたたた……」


 すると、道端でおばあちゃんが四つん這いになっていた。周りの人達が心配そうに背中をさすっていたりしていた。


「どうしたんですか?」

「おばあちゃん、ギックリ腰になっちゃったの」


 ギックリ腰! それは大変だ!


 ここで薬草の出番だと思った。えーと、腰の効く薬草は……。


 採取しているうちに図鑑に書かれている事を頭の中に入れた私は脳内でおばあちゃんに適した薬草を探した。


「うーんと、うーんと……あった!」


 私は鞄からカタカナの『ロ』みたいな形をした薬草を取り出した。ロキソーだ。これには腰痛を和らげる力がある。私はすぐにロキソーをすり潰して煮沸したお湯に入れてしてカップに入れた。


 村の人たちは私の行動を不思議そうに見ていた。


「さぁ、おばあちゃん……これを飲んで」


 私はカップを冷ましておばあちゃんに飲ませた。おばあちゃんはどうにか飲むと、フゥと息をついた。


「……おや? あらら?」


 すると、おばあちゃんがスゥッと立ち上がった。これには村の人達も「おぉっ!!」と驚いていた。私もビックリしていた。こんなに効き目があるなんて。


「お、おばあちゃん? どうですか?」

「すごいね、これ。めちゃくちゃ腰が軽くなったよ」


 おばあちゃんはそう言うと機敏な動きを見せた。


「ありがとう! えーと……お名前は?」

「メディーナです」

「メディーナ先生! 腰を治してくれてありがとう!」


 メディーナ先生! 早くもそう先生と呼ばれてしまった。


 おばあちゃんは鼻歌を歌いながら歩いて行った。


「な、なぁ? 今のはどうやってやったんだ?」

「魔法? あなた治癒士なの?」


 すると、村の人達が私の周りに集まっていた。戸惑ったが、ここで良い宣伝になると思って声を上げた。


「私、メディーナは今日から薬屋を開きます! 体調不良でお困りの方がいらしたらぜひお越しください!」


 私がそう言うと、村の人達は「薬屋!」「私も利用しようかしら」と話していた。



 キータが持ってきてくれたカゴや瓶に薬草を入れ、看板を作った。


『メディーナの薬屋 どんな病気や怪我でも治せます!!』


 こんな感じかな?


 よーし、早速開店……と思っていたら、飛び込むようにお客さんがやって来た。


「すみません。この看板に書かれている『どんな病気や怪我でも治せる』とは本当ですか?」

「はいっ! どうかされたんですか?」

「子供が風邪を引いちゃって……薬草を食べでも良くならないんです」

「それは困りましたね……お子さんはおいくつなんですか?」

「5歳になります」


 うーん、困った。子供に下手な野草を食べさせてお腹を悪くして症状を悪化させるのは怖い。


「もしよろしければ、お子さんの様子を見てもいいですか?」

「いいんですか?」

「はいっ! 症状でもしかしたら分かるかもしれないので」


 私は図鑑を手にとって、お子さんの元へ連れてもらうことにした。



 お母さんの名前はオリザ。子供の名前はガンマくんという名前だった。十二通りを抜けて空道通りを進み、回り通をグルグルと回った先にオリザさんの家があった。


 そこには敷物に寝っころがっているガンマくんがいた。とても苦しそうで唸っていた。側にはこの前治療したおばあちゃんがいた。ガンマくんのおばあちゃんだったんだ。


 私が現れると、「メディーナ先生!」と駆け寄った。


「お母さん、この人の事を知ってるの?」

「知ってるのも何も。私の腰の痛みを治してくれた人だよ」

「そうなの?! じゃあ、ガンマの事をよろしくお願いします」

「任せてください!」


 私はまずはガンマくんの額に手をあてた。かなりの高熱だ。咳は確認できない。私はお母さんに聞いた。


「この症状はいつ頃から?」

「二日前です。急に熱が出て」

「腹痛とかの症状は?」

「ないです。ただうなされているだけで」

「うーん、これは……」


 私は薬草図鑑をパラパラとめくった。子供でも大丈夫な解熱剤はあるだろうか。親切なことに『15歳以上使用可能』が記載されていた。


 その中で子供でも大丈夫な解熱剤の役割を担う野草を見つけた。でも、使う前に確認する必要がある。


「ガンマくんは普段はお腹が弱いとか、よく下痢したりする事はありますか?」

「いいえ。泥団子食べでも平気な子です」

「では、汗をかきやすい……えーと、異常ほど汗をかく事はありませんか?」

「うーん、そんなことはないと思います」「でしたら、これがオススメです」


 私は鞄から赤くて細い草を取り出した。オリザさんは「なんですか? それ」と不安そうに聞いた。


「マオという植物です。これには熱を下げる効果があるんです」

「本当ですか?! では、お願いします!」

「先生、私からも……孫をよろしくお願いします」


 オリザさんとおばあちゃんが深々と頭を下げた。私も「必ず良くしてみせます!」と力を込めて言った。


 マラを擂り鉢に入れてすりこぎで潰した後、ハチミツを混ぜて食べやすい大きさに丸めた。


「さぁ、ガンマくーん。お口を開けてくれるかなー?」


 私はガンマくんに呼びかけると、彼は可愛い口を少しだけ開けた。


「今からお薬を入れるからお口の中に入れるよー!」


 私は丸薬をガンマくんの口に入れた。すぐに水を飲ませた。


「はい、ゴクン!」


 私の声が通じたのか、ガンマくんは飲み込んでくれた。ホゥと息を吐いた。


「先生……どうですか?」

「このまま安静にしてください。たぶん大量の汗かおねしょをすると思いますが、それは身体に入っている悪いものが出ている証拠なので」

「あぁ、メディーナ先生……ありがとうございます!」


 オリザさんは何度も頭を下げた。おばあちゃんも涙ぐみながら感謝していた。


 私は大仕事を終えた達成感とまた一人患者を救った嬉しさに満たされながら家を後にした。



 数日後、お店にオリザさんとガンマくんが来てくれた。薬をあげた翌日には熱が下がったらしい。


「ガンマくん、よかったねー!」

「うんっ! でも、いっぱいおねしょしちゃった……」


 ガンマくんは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。私とオリザさんは和やかに笑った。


「メディーナ先生、ありがとうございました。あのお代は……」


 オリザさんが少し顔が強ばっていた。かなりの額を請求されるかもしれないと思っているのだろう。


「ご心配なく。料金はいただきません」

「えぇっ?! で、でも……」

「料金をいただく代わりにお願いしたい事があります」

「はい。なんでしょうか」


 私はガンマくんには聞こえないように耳打ちで伝えた。オリザさん「そんなんでいいんですか?」と首を傾げた。


「はいっ! では、日を改めてお願いしますね!」


 私は二人を店の外まで見送ると、早速部屋の掃除に取りかかった。



 後日、ガンマくんをおばあちゃんに預けたオリザさんがやってきた。


「では、こちらに!」


 私は彼女を奥の部屋に通した。ソファの端っこに座ってもらうと私は少し間隔を開けて隣に腰を下ろした。


「では、失礼します……」


 私は恐る恐るオリザさんの膝の上に頭を乗っけた。なんて心地良いのだろう。それに良い匂いもする。


「あの……これがいいんですか?」

「はいぃ……♡ 最高です♡」


 城にいた頃ストレスが溜まった時、よくメイドにしてもらったな。この村ではそういうのはないけど仕事で疲れるとやっぱり求めてしまう。


 アーミラさんにもしてもらいたいけど、子供たちの世話で忙しそうだし……なので、御礼という名のご褒美を受ける事にした。


「メディーナ先生って意外と甘えん坊さんなんですね」


 オリザさんはそう言うと私の頭を撫でながら子守歌を歌ってくれた。川のように澄んだ歌声に私はたちまち睡魔に襲われ、気づけば寝てしまった。

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