第11話 懐が寒い、身体が熱い?

 化けだぬきのおばあちゃんからもらったきんを10万円にし、贅沢をした俺たち。

 しかし、10万円とは大金なようでいて、生活をしているとあっという間になくなるもの。

 俺一人でも厳しいのに、三人となればなおのことだ。


 1か月も持つことなく、底を尽きる。

 再び、俺たちは金欠に陥った。


 現在食卓につく俺たちは、ハナさんの作ったもやし炒めを食べていた。

 ちなみに昨日も、一昨日も、一昨々日さきおとといも同じだ。


「ごめんな、二人とも……最近ずっともやし生活送らせて……」

「ううん……私……もやし、好き……」

「オレも好きだけどよぉ、んまぁ……ぶっちゃけ飽きるよな。……てか、そもそもオレと六尺ろくしゃくって別に食わなくても生きていけるんだっけか。当たり前のようにメシ食ってたわ」

「俺としては食べててほしいんだよ。いくらその必要がないって言っても、俺一人で食べるのもなんか寂しいしさ」


 しかし、それで食べてもらってるのが代わり映えに限界のあるもやしとは。

 非常に面目ない。


 あの化け狸のおばあちゃん以降も、妖怪からの依頼はあったんだ。

 でも、結局どれもお金には繋がらなかった。


 そもそも、妖怪自体希少な存在だからな。

 彼女らからの依頼が来ないのも無理はない。

 というか、妖怪って女性型しか存在しないのかな。

 それまで聞こえていた声も、今思い返せば女性ばかりだったし。


 なんて悩んでいると、テレビであるニュースが取り上げられた。


 レポーターが女子校を取材をしている。

 近所の高校だ。


「現在、その問題の高校に来ております! ……ここへ来るまで涼しかったのですが、急に身体が熱くなりまして……なんでしょうかこれ、まるで毛布を身につけているような熱のこもり具合です!」


 気温が高いのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 レポーターの手元の温度計は18度。

 いたって普通の春の気温だ。


 レポーターは薄着でスカートを履いているのに、それでも暑いとは。


 六尺様とハナさんもそのニュースを見て、首を傾げている。


「なんで……暑いんだろうね……不思議」

「思い出すぜ……夏場のトイレのうだるような暑さをよぉ。マジでエグいんだよなぁ……」

「そういえば家にはクーラーも付いてるな。ラッキーだ。……まぁ、電気代払えるかどうか怪しいけど」

「ざけんじゃねぇよ! ぜってぇにクーラーつけろよな! もう暑さに苦しむのはゴメンだぜ」

「お風呂に……氷入れて……入ったら涼しいと思う……」

「それ涼しいっていうか、冷たいんじゃ……」


 なんてことを話していると、画面に一瞬だけ雪が映った。


「……えっ!? 今の、雪だよな?」

「わりぃ、見てなかったわ」

「私も……見てない……」


 レポーターも気づいていないようだ。

 俺の見間違えか?

 こんな時期に雪なんて降るわけないしな……。


 と、自分の目を疑っていると、またもや雪が映る。


「ほ、ほら! この人の後ろ!」

「わっ!? マジじゃねぇか!」

「綺麗な……雪……降ってた」


 三人の目を通して、雪が映った。

 これは間違いないと踏んでいい。


 となると、これは――。


「妖怪が……関係してる可能性があるな」

「ってことはよ、金稼ぐチャンスじゃねぇのか!?」

「やったね……蓮斗れんとくん……」

「……営業かけてみるか。学校に行ってみて、責任者の人と話してみて……信じてくれるか怪しいけどな」


 雪に関連する妖怪はいくつか思い浮かぶ。

 しかし、寒さをおぼえさせるならまだしも、暑くさせるってどういうことだ?


 狙いが今ひとつわからないが、俺たちはその女子校へ向かうことにした。


 ————————————————————————————


 後日、近所ということで徒歩でやってきた。

 事前に訪問することは電話しているが、妖怪のことはまだ伏せてある。

 バカ正直に電話口で言ってしまうと、そこで門前払いをくらいそうだからだ。


「問題を解決できるかもしれない」と言って、探偵を名乗った。

 これでもだいぶ怪しいが、かなり困っているようで了承を得られたのだ。


 なにせ今はまだしも、夏に差し掛かると大迷惑だろう。

 学生が熱中症で倒れても問題だしな。


 まずは学校へ入り、担当の先生から話を聞く。


「本当にもう困り果ててまして……暑い暑いって学生たちが訴えてくるんですよ。色々な対策を講じたのですが、どうしても学校にいるあいだは暑くなるようで……」

「学校の敷地内なら、どこでもですか?」

「そうですねぇ……あらゆる場所が暑いんですが、必ず暑くなるってわけではないんです。そうならないときもあるんですが、またしばらくすると暑くなるっていう……」

「なるほど。学校の周囲は大丈夫なんですか?」

「……学校の前の通学路もそうなんですよ。その辺りから暑さを感じ始める子が多くて……それで教室に来たときにはみんな汗びっしょりなんです」


 この情報で妖怪に関して、あることがわかる。


 それは騒動になっている妖怪は、人や場合を選んでターゲットに定めていることだ。

 意図はわからないにせよ全員を暑くさせたいということであれば、もっと広範囲に向けて一気に暖めていくはず。

 でもこの妖怪はそれをしていない。

 だから一人ひとり、選んで暑くさせていっているのだ。

 何かしらの条件に従ってな。


 俺はもう一つ気になっていたことをうかがう。


「変なことをお聞きするんですが、雪とかって降ったりしてます?」

「雪、ですか? えーっと、それは冬にということで?」

「いいえ、今の季節です。この妙な現象が起きてからのことで」

「それは……ないと思いますけどねぇ」


 と、するのなら妖怪で間違いない。

 あの雪は妖怪にまつわるもので、俺や妖怪である二人にしか見えていないのだ。


 問題は、その妖怪がどこにいるか。

 この学校のどこかにいるんだろうが、いかんせん敷地が広い。

 従来のを使ったはらい方は、狭い空間への対処法だ。


 俺はいつも祓うときに指を鳴らす。

 あれは返ってきた音が鈍いことで、その方向に妖怪がいると判別するものだ。

 しかし、ここまで広いと音が散らばって特定できない。


 目で確認できればいいんだろうが、ニュースにも映っていなかったことから、用心深いのはたしかだろう。


「ありがとうございました、先生。では、学生さんたちに聞き込みをしてみます」

「お願いします。どうにかして、暑さからみんなを守ってやってください……!」


 部屋を出て、誰もいない廊下を歩く。

 後ろには六尺様、隣にはハナさん。


「で、どこから聞き込み始めんだよ?」

「通学路から被害が出てるって言ってた。だから、まずはそこからだな。ある程度、その妖怪のルートみたいなのがわかるかもしれない」

「それで……わかったら……お祓い?」

「そうなるな。ただ……俺の祓い方って呪縛じゅばくは祓えても、妖怪は祓えないみたいだ。だから呪縛を解いたあと、説得が必要になったりするかもしれない。そのときには二人にも協力してほしい」

「おうよ」

「うん……わかった」


 久しぶりの人間からの依頼。

 きちんと完遂してやる。


 誰がヤンチャしてるのかは知らんが、依頼を解決して、俺の財布の中を暖めてやるからな!


 ————————————————————————————

【あとがき】

謎の妖怪、出てくる季節が悪い!

次回、蓮斗は身体を張る!

モチベーション維持のために、星をよろしくお願いします

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