第4話 面会
翌日。
「鈴木直人、面会者だ。面会室に来い」
呼び出されて向かった先には、今にも泣きだしそうな母親の姿があった。
「直人、どうして駆け込み乗車なんかしたの。嘘だと言って! あれほど人様に迷惑を掛けることをするなと言ってきたのに……」
母は目に涙を浮かべながら、声を震わせている。
直人は視線を落とし、力なく謝った。
「……ごめん」
「よりにもよって、駆け込み乗車なんて……。もう、どう育て方を誤ったのか……。共働きで幼い頃は直人をずいぶん放っておいたし、そのせいで厳しいこともあまり言わなかった。今思うと、もっと厳しく躾けておけば良かった。そうしたら、こんなことには……」
「母さん……まさか、駆け込み乗車で死刑だなんて冗談だよね」
母親はしばらく黙ったまま、涙目で直人を見つめていたが、やがて話題を変えるように言葉を切り出した。
「……ところで、何か欲しいものはある? 必要なものがあったら買ってきてあげるから」
直人がいくつか頼みごとを伝えると、面会時間はあっという間に終わってしまった。
母親はぎこちなく笑みを作り、扉の向こうへ消えていった。
その日の午後、もう一人、直人に会いに来た人物がいた。
「……こずえちゃん」
そこに座っていたのは、結婚を考えていた恋人だった。
「直人さん……」
うつむいた彼女は、絞り出すように言葉を続ける。
「私……決めたの。駆け込み乗車をする人とは結婚できないって。直人さんは明るくて優しい人だと思ってた。駆け込み乗車するなんて、思いもしなかった。今日は……別れを言いにきたの……」
「えっ、ちょっと待って、こずえちゃん」
「この前もデートの待ち合わせに遅れてきたでしょ?」
「それは電車が遅れて……あっ!」
彼女はかぶりを振り、涙をこらえるように続ける。
「そう。直人さんは電車の遅延の被害者だと思っていた。だから、遅れても仕方ないって許せた。でも、違った。あなたは駆け込み乗車をする人だった。あの遅れは、あなたのような人が起こしたものだった。もう……直人さんのことは愛せない……ごめんなさい」
彼女はそう言うと、面会時間が終わる前に席を立ち、足早に去っていく。
直人は面会室の机に突っ伏しながら、小さく呟いた。
「……そんな……」
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