第7話『誓約戦区・祓い手たちの協奏』

 《Re:VIA》の世界に、突如通知が走る。


【イベント開催告知:祓系統限定・連携戦闘領域誓約戦区:協奏の塔開放】

【参加条件:祓職系統/連携構築スキル習得済/構築履歴レベル3以上】

【形式:チーム同盟戦/5人×3陣営による構文協奏バトル】

【報酬:祓師特典スキル《継承式譜》/伝承構築式片断/称号:祓の伴奏者】


「これは……構築職だけの連携戦闘イベント?」


 カズトは思わず唸る。

 この手の“職縛りイベント”は、大型アプデの直後などに実施されることが多い。

 しかし、“構築職”という手間のかかる系統にスポットが当たるのは稀だ。


「やるしかないだろ。……自分の“構築”が、他の構築とどう響くのか。試すには絶好の機会だ」


 祓師たちの集まる“結界準備エリア”は、異様な熱気に包まれていた。

 火結界を使う“炎祓”、呪札偏重型の“封祓”、結界投擲の“打祓”……

 同じ祓系統でも、そのアプローチは千差万別。


 そして、そこにいた。


「よう、また会ったね」


 リリオットだった。

 彼女も《共鳴祓》という、音波による構築干渉型の祓師に進化していた。


「協奏戦、出るの?」


「出るさ。構築を“音で重ねる”なんて、うちにとっては舞台そのものだよ。

 カズトくん、あんたも出るなら――組まない?」


 祓師系統は、個の力が弱い反面、“連携によって爆発的な構文を形成する”構造になっている。

 1人での突破には限界があるが、数人で“構築の呼吸”を合わせれば――


「参加チーム名は?」


「《縫奏の結界師団》、でどう?」


「ダサいけど、いい名前だな」


 チームを編成すると、画面がイベント専用の“戦術ステージ”へと転移する。

 そこは、結界が幾重にも重なる巨大塔。

 各層に“即興構築バトル”が設定されており、時間内に“祓構文”を展開して突破しなければならない。


【第1階層:感知封鎖領域】

【敵:構築潰し型の沈黙者シルフィグラフ

【特性:起点札消失/起動詠唱封鎖】


 構築開始が潰されるなら、“構築の途中”から起こすしかない。


「リリ、こっちの展開式使ってくれ」


 カズトは、“札を起点としない空間描写式”を開示する。

 これにより、音による空間波動から“結界を逆編成”する手法が成立する。


「うちの《音譜波》と合わせて、“無起点式”で繋げる!」


【構築式連携成立:札なし結界構文縫響陣

【敵に先制成功 → 結界音干渉で封殺】

【突破成功】


 この協奏戦のルールでは、“誰かの構築を土台に、次の人が別の構文で接続する”という形式が求められる。

 完全な“共同構築”――1人では決して完成しない式だ。


【第2階層:逆構文干渉フィールド】

【構築順が逆になる/先に完成した構築が不発】


「ここは……“ゆっくり構築する方が有利”な場所か」


「ならうちは先に“音構成”だけ流して、カズトくんが遅れて仕上げて」


 リリオットが音の基盤を重ねていく。

 空間が楽器のように震え、旋律が“構築の土台”となって展開される。


 そこに、カズトの“構築札”が――遅れて、しかし確実に、結界として結ばれる。


【逆構文成功】

【連携構築:奏遅式和縫連封

【敵の行動干渉成功 → 崩壊】


 二人の構築が、少しずつ重なっていく。

 最初はぎこちなく、だが戦闘が続くにつれ、“呼吸”が合ってくる。


【第3階層:連結構築エリア/5人同時構築】

【構築失敗=即時強制脱落】

【報酬:継承スキル《祓構式・交響断》】


 《協奏の塔》第3階層。

 祓師五名が“同時に構築を組み、連結させる”という狂気の試練が始まる。


 ここでは“各人の構築式が互いに干渉”し、連携不調=構築崩壊=即退場という厳しさ。


「同期取りは《音導式》でうちが合わせる。

 カズトくんは中央構文を担って。うちは波動系から入る」


「了解。俺は“縫合展開式”を主軸に、“調律断”へ繋ぐ」


 他の祓師たち──“結界派”のエミリオ、“結符構成型”のナツキ、“断構式”のユーゴ──も各々の分野で支えに入る。


【五人連結構築:起動】


エミリオ:空間定位 → 導式台座構築


ナツキ:符操作 → 起動式転換・交差書き


リリオット:音導波 → 全域リズム整流


ユーゴ:断構圧縮 → 終結構築入力


カズト:中心縫合 → 全体展開式接続


 構築の光が“円舞”のように巡る。


 音が流れ、札が刻まれ、結界が揺れる。

 五人の“式”が、それぞれの分野で繋がりあう。


「カズトくん、いまだよ!」


「《縫調斬──交響断構式、起動ッ!》」


 札が宙で舞い、音波が穿ち、断構が“祓の旋律”として塔を包み込む。


【祓式連結完成:五構繋ぎ《協奏祓結》】

【特典スキル《継承式譜》取得】

【称号:祓の伴奏者】


 塔が揺れ、敵が霧散する。

 構築式は“絶対に1人では完成しない”。

 だからこそ、“誰かと繋がること”で完成される。


 イベント終了後。

 それぞれのプレイヤーが報酬とともにログアウトしていく中、カズトとリリオットは残った。


「……どうだった?」


「たぶん、俺はまだ“構築の一部”しか知らなかった。

 他人の式、他人の思考、それらに触れて……

 “次の一歩”が少しだけ見えた気がするよ」


「……じゃあ、次も組もう。うちは音で、あんたは針で、また祓ってこう」


 協奏は、終わらない。

 構築は、また次の“繋がり”を求めて回り出す。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る