第6話『未記録迷域・繋がる死線』

 ログイン後、カズトの元に届いていたのは、通常のクエストログではなかった。

 画面上に表示されたのは、システムの裏側から滑り込むような“手動転送ログ”。


【非公開エリア検出】

【座標接続:中層下部 迷域領界第零窟・繋鎖の淵

【アクセス条件:再誕者認定/単独行動】

【備考:本迷域は公式記録に存在しません。挑戦は自己責任で行ってください】


「……記録されない迷域。ここが、リリオットの言ってた“次の領域”か」


 恐らく、開発陣がテスト実装したまま、正式公開していない特殊構造。

 だが、そこにこそ、“再誕者”の名にふさわしい挑戦があるのだと、カズトは直感していた。


 迷域第零窟・繋鎖の淵

 その入口には、NPCの姿すらない。

 ただ、無音のまま“空間の裂け目”が揺らめいていた。


 進行を選んだ瞬間、画面が“崩壊するように”転移する。

 背景データが塗りつぶされ、情報HUDが半壊する。


【警告:構築インターフェースが制限されています】

【警告:職業スキル“視写領域”が封鎖されています】

【警告:戦闘ログ記録が無効化されます】


(……構築が使えない? いや、制限か)


 この領域では、“成長した技能”そのものが一時的に封じられている。

 すなわち、“進化職だからといって通用しない領域”――


 ここは“原初に戻れ”という場所だ。


 目の前に現れたのは、光も影も持たない“人の形をした影”。


■《記録外エネミー:縫合主“アザリク”》

分類:構成体型存在

能力:スキル封鎖領域/連鎖構築複製/知能型AI模倣

特性:初撃後に対象の行動記録をコピー→2手後に実行


「完全に“構築職殺し”じゃないか……!」


 構築を読まれ、模倣されるなら、“手順を意図的に乱す”しかない。


 カズトは考える。


 構築の順序、スキル構文、距離感、魔力の偏差――

 すべてを偽装して、本命を隠し通す


 まず囮の札を数枚展開。

 “視認性の高い大技”に見せかけた擬似構築。

 敵が模倣に入った瞬間――


「《錯封式・空折》!」


 構築動作をあえて“間違った軌道”で行うことで、相手の模倣構文を壊す。

 さらに、封鎖されていない範囲構文をねじ込み、逆転の構図を作る。


【評価:模倣殺し構築達成】

【敵AI構文破損 → 初回ループ破壊】

【特殊条件達成:構築封鎖下での勝利】


 だが、戦いは終わらない。

 《第零窟》の本質は、ここからだった。


【深部解放】

【迷域中核:繋鎖の裁定場】

【構成:再誕者の戦歴に応じた“失敗構築”の具現化】

【出現:カズトの過去の構築記録 × 自己模倣AI × 連戦構造】


 目の前に並ぶのは、過去に失敗した構築式――

 かつて上手くいかなかった連鎖、不完全な封結、理論だけで組んだ複雑構文。


「……“お前の失敗が敵となる”ってわけかよ」


 裁定場の中央に現れたのは、自分自身の失敗だった。

 構築失敗ログNo.0043──“未完成構文:多重封結+爆符展延”


 浮かぶ影は、かつてのカズトが試みて“暴発”した構築だ。

 札が暴走し、封結が破綻し、魔素が逆流して自己を傷つけた。


(やりたかった構築だ。でも、無理矢理だった)


 だが、今なら。

 あの時とは違う“視える目”があり、理解と経験がある。


 敵として立ちふさがる《模写体カズト》は、過去の手順通りに構築を始めた。

 それは崩壊へ向かう手順。ならば――


「こちらは、“正しく編み直す”。」


 カズトは並行して構築を開始する。


 ①まず封結式を反転構成し、圧縮式を後回しに回す

 ②展延に虚式を絡め、札の強度を1段下げる

 ③視写領域の“補正角度”を20%ずらし、自己干渉を外す


「《再構成式・縫封斬》!」


 放たれたのは、過去の“失敗構文”を再解釈し、洗練された構築だった。


 模写体は暴走。破裂音とともに、自壊する。


【構築更新達成:模倣記録・再誕】

【報酬:構築補正式縫合環取得】

【深層選定:記録外ボス戦へ移行】


 そして最後に待っていたのは、

 “再誕者の記録を観測する者”だった。


■【記録外ボス:縫神の代理リメンシア

分類:特異神構成体

能力:記憶再構築/構築削除干渉/神話級連鎖式

制約:構築職限定バトル


「ようこそ、再誕の針よ」

 リメンシアは、人の形をした白布だった。

 その布は言葉を発し、語りかける。


「お前が望むのは、“正しい構築”か? それとも、“誰かの記録の続き”か?」


「……どちらでもない。

 俺は、俺だけの“式”で戦うために来た」


 ボス戦が開始される。

 リメンシアはプレイヤーの過去ログを一部読み取り、

 次々に“封印された構築”を展開してくる。


 だがカズトは、それを上回る速度で、“新たな構築”を即興で組み替えた。


【即興式:清眼 → 裁断 → 虚織】

【再構成:封術連鎖 → 結界投擲 → 投影視認式】


「《刺し穿て、“視写貫布”──縫い返しの構文、今ここに完結する!》」


 構築が繋がり、リメンシアの布装を縫い裂く。

 神話級の構文すら、“経験と改善”で突破されたのだった。


迷域第零窟クリア】

【報酬:特性構文再誕糸/称号:迷域縫い師】


 そして最後、ログにこう記されていた。


【記録:お前は、“過去の自分を繕った”】

【この記録は、誰にも記されることはない】

【だが、次に進む針の先は、誰よりも強く、まっすぐだ】


 カズトは静かにログを閉じ、再び光の中へと歩み出す。

 構築職は、完成しない。だからこそ、強くなれる。


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