第5話 止めたのは

私が席を立って、どれほど盛り上がっていたのだろう。


花渡は酒を一気に飲み干しながらかなり怒りを含んだ声で私の悪口を続けている。


こんな真後ろに立ってるのに気づかないの?


それはこの後輩君もだけど。


「あのスカしたドS女が!!普通ここ選ぶか!?しかも高ぇのしか頼まねぇーし!!」


「まぁまぁ、そろそろ先輩も帰ってきますから。その辺に...」


「っつーかよ、俺が声かけてんだからもっと浮かれろよな!?実家が金持ちだから声かけてやってんのに自惚れんな顔面だけ女がっ」


「花渡さん、水飲みましょ?俺頼んどきますから。それと少しですが先輩が帰ってくる前にー...」


「にこ♡」


「ひゅっ...。あ、あぁーっえっと!!花渡さん、次何頼みます!?」


あら。後輩君はやっと気づいたのね。


お金を出そうとしたみたいで少し後ろ向いたからバッチリ目が合った。慌てて会話を逸らそうとしてるけどもう全部聞いてるからムダよ、ムダ。


「それより金寄越せよ金!!ったく...やっぱ特班にいる女はダメだな。イカレてやがる。」


「...」


「どうせ男ばかりの部署で女を武器にしたんだろ?異例のスピード出世だったしな。これと言った目標もねぇくせに生意気なんだよ。」


「イラッ」


「花渡さん!その辺にしましょ!?マジで!!コメカミから血を吹く前にっ」


「はぁ?なんだそりゃ。」


へらへら笑ってかなり好き放題言ってくれるじゃない。私がなんの目標も持ってないですって?


女を武器に出世した??


努力もしないナンパ野郎と同じにすんじゃないわよ。


「こんっの」


ガァアン!!


「!?...何してんの、あんた」


「流南...?なんだよコイツ」


一言文句言ってやろうと首根っこ掴む前に響いたテーブルを蹴る音。あまりにも激しい音だったから賑やかだった店内が一気に静まり返った。


テーブル蹴ったのはあの身長お化けのストーカー男。おかげで私の存在に花渡は気づいたみたいで私と男を見比べて驚いてる。


こんな騒ぎを大きくするつもりなかったのに、何してくれてんのよ。


「流南、君は聞く必要ない。」


「いやもう全部聞いてるし。ていうかコレ、営業妨害に暴行よ。手錠かけられたくないならどきなさい。」


「どいたからって済むかよ!!おい帰城、手錠あんだろ出せ!」


「出さなくていいわ。ほら、あんたも帰りなさいよ身長モンスター。」


「…君は、この子がどれほどの努力をしているか知っているのか」


「はぁ!?」


くそっ、コイツ引っ張ってもビクともしない!!周囲の視線が痛いから早く退けたいのに!


怒ってんの?肩撃たれても笑い狂ってた奴が?


「流南は君には想像もつかない覚悟で努力をしている。そんな彼女を君みたいな人間が貶すことは許されないよ。」


「な、なんだよ。さっきのは冗談だっての!なぁ流南!俺とお前の仲だろ!?」


「どんな仲だよ。はぁ…花渡さん、3度目です。私の名前を勝手に呼ぶな。実家が金持ちなのは本当ですが私は結婚はしません。彼氏も作る気はありません。」


「っ」


「私の目標の邪魔をするなら…あなたのこれまでを上に報告しますよ。」


「なんだよ…くそ」


あーあ。空気最悪。静かだった店内は野次馬みたいにザワザワしだしたし。


見世物じゃないってのに。


「さて。空気も最悪になったところで私は帰るわ。後輩君、そこの男暴れないように見張っときなさいよ。」


「は、はい!…先輩、1ついいですか?」


「なによ。」


「その男、誰です?」


「いい質問するじゃないか、後輩君。流南は僕の婚約者だ、悲しませないでくれよ。」


「こん…こん!?」


「さっさと除霊師探しなさい後輩君。でないとこの男を撃ち殺してしまうわ。」


慌てふためく後輩君に満足そうな顔をして男が私の肩を抱き寄せるけど、誰が許したのよ?


ペシ!と少し強めに手を叩き落としたら嬉しそうに笑ってるし。


嫌よ、こんな変態奇人と結婚なんて。誰がするものですか。


「机蹴るなんて暴挙したせいで目立ってるし。」


「当たり前だろう?君が悲しい顔をするなら僕はこのくらいする。」


「はぁ?」


「流南はその真っ直ぐな目が魅力の1つだからね。揺るぎない強い目だ。それに惚れた女を悲しませる奴を許せるか?」


「っ。」


「それじゃぁ帰ろう。家まで送るよ」


「断ってんでしょ。1人でいい、ついてこないで。」


よくもまぁ…恥ずかしげもなく言えたこと。



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