第6話 騎士団
「どうしてこうなった。」
今、僕は騎士団宿舎にいてカイやリナのお父上であるトーマス・ブランディル騎士団長とグレン副団長と向かい合ってお茶を飲んでいる。
騎士団長は「騎士見習いは10歳からなれますからな」というし、グレン副団長は「近衛騎士は貴族限定ですがそのほかは平民でもなれますから。」なんて言い出している。
カイとリナは後ろでニコニコしながらお茶を飲んでいるので僕だけが二人の向かいに座って頷く役になっている。
ギルドでパーティ結成届けを出したあと、ギルドの宿舎を引き払うように言われて(持ってゆく荷物もなかったが)宿舎から出てくるとカイとリナ達にいい宿泊所があると連れてこられたら騎士団の宿舎だったのである。
もうリアンノン王女と護衛騎士のベルナルドは王宮に帰ってしまったようである。
グレン副団長は「もし魔獣退治がしたければ騎士団も魔獣討伐をしているから好きなだけ魔獣を狩れるよ。」なんてことを言っている。
カイは本名をカイル・ブランディルといい、騎士団長の息子らしい。リナはリナスティアが本名でグレン副団長の娘さんだという。
その気づまりな騎士団長との面会の後はカイとリナとの三人で騎士団の食堂で夕食をとることになった。
カイによるとあのガンツさんの研修会は『地獄のブートキャンプ』として有名なのだそうである。それで彼らは誇りをかけて研修会に参加したそうである。彼らにしてみれば僕が研修会を軽くこなしてしまった上にガンツさんに一太刀入れたというのは驚愕の出来事だったという。
「僕も研修でへとへとでしたから。もうくたばってました。ガンツさんに一撃入れたのは単にまぐれですから。」
「私も騎士団長の息子として騎士団で揉まれてきましたが、まぐれだけで強者に一撃が届くなんてことはないのですよ。」
カイはそういうとニコッとして騎士団で一緒に鍛錬できることが楽しみですなんて言い出したのである。
食事の後、割り当てられた部屋に戻ると久しぶりにエフィーを呼び出して話をした。エフィーは「何?あのお姫さんに見初められて護衛騎士になるのか。あはは、もうそろそろレーシュの冒険を吟遊詩人が歌にするかもしれないな。」とケタケタ大笑いしている。
「もう。笑い事じゃないよ。父上から勘当されているのに騎士団に入るなんて、そんなことを父上が知ったら王宮に文句を言ってくるかもしれないんだぞ。」
「ははは。レーシュは心配しすぎ。一番重要なことは騎士団の食堂は無料で食べ放題ってことだ。追い出される前に食べられるだけ食べようぜ。」
僕はもう相談することを諦めてさっさと眠ることにした。
♢♢♢
夜明け頃に目が覚めた僕は修練場に出て朝の修練をやる事にした。最初はとにかくランニングである。無心の境地でひたすらに修練場の周りを走り続けていると、カイもやってきたようで「おはようございます。レビン君も朝の修練を頑張っているのですね。」と爽やかに挨拶した後に僕と一緒に走り始めた。その後は素振りをしたり簡単な撃ち合いをしたりして朝食の時間まで体をほぐしたのである。
朝食のために食堂に行くと、まだあまり人がいなかったのでこっそりとエフィーを呼び出して食事をさせた。エフィーは騎士団の食事が食べたいと昨夜は結構ごねていたのである。カイはエフィーに気が付かないみたいだったので素知らぬ顔をして喋っていた。
彼の話はさまざまで、騎士団長や副騎士団長が魔獣討伐でオーガを倒した話や神殿でサニア女神の神像を新しいものに一変した話、王家の双子の王女のクレア王女は金髪の美女で光の聖女というあだ名がついているがリアンノン王女は国民にもほとんどない黒髪のため黒王女とか黒魔女姫と言われている事を喋ってしまい、思わず口を塞いだがもう遅い。
多分ここは僕がフォローしなければならないのだろう。
「黒髪って伝統的には聖女の髪色だよね。」
「うん、でも最近は神殿も金髪こそ聖女の色だって言うからね。民の間にもそんな意見が増えているんだ。リア王女はすっごく頑張っているんだよ。君が護衛騎士になってくれればいいのに。」
僕は遠い目をしてその言葉をやり過ごした。
「さあ、食事も終わったし騎士団の鍛錬の準備をしなくちゃね。」
僕は席を立って部屋に戻る事にした。
部屋に戻ってシャワーを浴びて着替えたりして準備をしていると、エフィーが朝食を食べすぎたみたいで「もう食べられない」と言いながらふわふわと浮かんでいた。
貸し与えられた見習い騎士用の服は新品ではなかったが清潔だったし体にピッタリだった。
修練場に出ると多くの騎士や従者が既に勢揃いしている。
僕はカイを見つけてそのそばに立った。
最初は見習い騎士同士の打ち合いをやらされた。
相手の打ち込みは弱すぎるので逆にリズムが狂わせられる。普通に打ち込むと相手の体に当たりそうになるのでフルブレーキで相手の剣に優しく合わせなければならない。
そういう事で結構苦労しながら打ち合っていると、グレン副団長がやってきて僕の襟首を掴むと従騎士のグループに投げ入れた。副団長は僕のことを猫か何かと間違えているのだろうか。
従騎士は大体13~18才の年齢なので僕より大きい。けれどもクローヴィスさんと打ち合っていた僕にとってはむしろやりやすかった。相手の打ち込みのスピードも速くなったのでリズムも取りやすい。
そうして何人かの従騎士達と打ち合っていると、副団長が止めの号令をかけた。もうお昼らしい。お昼はカイとリナとの三人で食べる事になった。
「さすがレビン君よね。年上の従騎士と普通にやり合っているんだもん。」
「い、いや、胸をお借りしたというか。」
「午後は模擬戦だけれどレビン君なら従騎士の部でも余裕で優勝するんじゃないか。」
「それって煽り過ぎじゃないかな。従騎士からの視線が痛い。」
午後から模擬戦が始まった。
グレンさんは「模擬戦にはリア王女も視察に来られるらしいからな。恥ずかしいところを見せるなよ。」なんて言っていたのだけれど。
なぜ僕は正騎士のリアムさんと模擬戦を戦うことになっているのだろう。騎士団長は静かに半眼で表情もわからないけれどグレンさんは明らかにニヤニヤ笑っている。
その後ろにリアンノン王女が座っていて僕が見た時に思わず目が合ってしまった。
王女がちょっと下を向いて手を振ったので僕も思わず手を振りかえした時に試合開始の声がかかった。
リアムさんは「いちゃつきやがってふざけるな!」と叫んでものすごい勢いで一撃を繰り出してきた。僕は飛び退って紙一枚の間合いでその一撃を避けた。それに続いて同じ勢いの打撃が五発連続で飛んできた。木剣でまともに受けたら剣は折れるか吹っ飛んでゆくだろう。なので避けるしかない。
攻撃を避け切ったらリアムさんもさすがに疲労があったのか少し息が上がっていた。僕はその隙をついてリアムさんの首筋に木剣をそっと沿わせた。
他の人の声援がピタリと止まった中で王女だけが僕に黄色い声で声援を送ってくれていた。
試合の後、リアムさんは呆然として動かないし、僕が試合場から降りようとしてもみんな僕とはあえて視線を合わせないようにしているみたいだった。
そういう気詰まりな状況で僕が居た堪れなくなっていると、グレンさんがやってきた。
「おい坊主、お前、王女様の護衛騎士になりたいんだろう?さっさと王女様にご挨拶に行ってこい。」
彼はそう言うと強制的に僕を観客席にいるリアンノン王女のところに行かせたのである。
僕は護衛騎士になりたいなんていうのは誤解だという隙すら与えられずに王女様のところに向かわざるを得なかった。
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