1.喧騒

成程ねぇ。

こうやって、分類してみると、色々と、な解るんだなぁ。


項目は、意外と少なった。

皆さん、ご存知の通り、事件のあった当初は、自殺の発表があったのです。


だから、恋人。

と、呼べるのどうかは別として、恋人との関係の縺れ。の投稿が一番多いのです。


次に大麻の使用に関する投稿です。

不思議ですが、何故か、大麻に関する投稿が多いのです。

元々、大麻との関係が、疑われていたのでしょうか。


優等生という評価の反面、大麻の噂が絶えないのは、不思議でなりません。

余りにも、優等生と大麻は、掛け離れていると思うのです。


どうも、先程から、騒々しい足音と喋り声が、階段を上がって来ていました。

階段を上り終えた、騒がしい物音は、コミュニケーションスペースへ入って来た。


やはり、大垣さんでした。

二年生の越智さんも一緒です。


まさか、二人だけ?

二人だけで、あれ程、騒がしいのか。


「出来たんやなあ」

大垣さんが、声をかけて来ました。

「ネット内容分類表」を今朝「紫陽花」フォルダへ登録しました。

ファイルのフォーマットを作成するのは、そんなに時間が掛かりません。

表の作成と処理ボタンのプロシージャ記述くらいてす。

一日で、出来ていました。


その翌日から、ネット投稿の確認を始めたのです。

ネットの確認をしていて、気付く事があります。

それで、表の項目を一部、追加、削除してフォーマット自体は、完成しました。


四日目には「ネット四方山話」をネットワーク「紫陽花」フォルダへ登録しました。

ところが、石井先輩から横槍が入った。いえ、指摘があったのてす。

「四方山話」とは何だ。

ふざけているのか。

と、もの凄い剣幕で叱責されたのです。


どこまでも、生真面目です。

石井先輩は、熱い人だと判明したのですが、融通が利きません。

大垣さんも、お見逸れしました。

と、感心しています。


いや、感心は、ちょっと違うかもしれませんが、今、表現を思い付きません。

もし、思い付きますたら、その時は、唐突かもしれませんが、訂正して、お詫び申し上げます。


そして「ネット内容分類表」とファイル名を変更しました。

何とも、面白くも、可笑しくもない名称です。


千景は、コミュニケーションスペースで、ネットの投稿を確認しています。


「やっぱし、内容は、恋愛の失恋やな」

千景は、独り言を呟いて入力しました。

分類は「恋愛」へ、項目は「失恋」へ入力する。と、云う事です。


殺人事件だと、警察が発表していても、未だに、「恋愛」関連への投稿が多いのです。

やはり、同年代の投稿者としては「恋愛」に、大きな関心が寄せられるのでしょうか。

と、事件とは関係の無い事に、思いを馳せる千景でした。

そんな物思いに耽る千景の楽しみを奪ったのが、大垣さんと越智さんです。


千景は、憮然として、確認したネット名称と、最新ネット投稿ナンバーを入力しました。

迷いましたが、一旦、更新を終えました。


大垣さんが、云いました。

「前の名前の方が、良かったのになあ」

ただ、前の名称の方が、面白かっただけだろっ。


すると「私もそう思うたんやけど」と声がします。

大垣さんの後ろで、隠れるように越智さんも賛同しました。


越智さんは、二年生の寮生では、数少ない人材です。

人材、と云っても、大垣さんタイプと云う、意味合いです。

決して、他の寮生が、優秀でないと云う意味ではありません。

二年生の寮生のために、一言、申し添えておきます。


越智さんに付いて、その豪快っぷりな逸話があります。

しかし、時間も押してまいりました。

また、後ほど、紹介する機会があると思います。


千景は、大垣さんに誘われて、補食室へ行きました。

越智さんは、何故か、石井先輩に見込まれたそうです。

あの、豪快な逸話を知ったのでしようか。

「紫陽花」に招待登録されました。

そして、越智さんは「紫陽花」の「聞込み」班へ配属されました。

騒々しい寮生には適所です。


その、お披露目を兼ねて、大垣さんが、補食室へ誘ったと云うのです。

お披露目を兼ねて。と云っても、千景は、越智さんと、何度も一緒に、補食室でカップラーメンを食べています。

確かに、何度も、大垣さんとも一緒でした。

何を今更。という感じです。


さて、次に「大麻」の分類です。

ああ、折角なので、大垣さんと越智さんに、千景が調べた「分類」の「大麻」に付いて、思った事の説明をし始めたのです。


すると、コミュニケーションスペースが、何か騒々しくなりました。

越智さんが、覗きに立ちました。

すると、豊田さんが、小倉さん従えて、補食室へやって来ました。

どうやら、大垣さんか、千景を探していたのでしよう。


「二人共、こんな所に、逃げてたんやなあぁ」

小倉さんが、そう云って詰りました。

豊田さんは、かなり、焦っているようです。

どうやら、大垣さんも千景も、二人共、探していたようです。


豊田さんは「紫陽花」へ、一番最初に招待登録されていました。

そして「紫陽花」の管理を担当しています。


千景は、豊田さんの形相に、戸惑いました。

こんな表情、するんやぁ。

当たり前ですが、沈着冷静。

の四文字だけではなかったのです。


大垣さんは、平時に慌てて、大失態をやらかします。

しかし、緊急時は冷静です。

しかも、事態を客観的に、観察しているようです。

どうやら、豊田さんとは、真反対のようです。


中々、豊田さんが話しません。

何時になく、興奮しているのでしよう。

小倉さんが、代わって話しました。


事件です。

「伯浦で遺体発見!!」

スマホのネットニュースを指しています。

ネットニュースのタイトルでした。


皆、一斉にスマホのネットニュースを見ました。

地元新聞社のネットニュースです。

皆、リンクを貼っているのでしょう。


太字の事件の内容の要約は。

今日、一五時頃、釣りに訪れていた二人が、伯浦の高台の駐車場で、黒塗のスポーツカーの中に、死体があるのを発見した。

サブタイトルにしては長い。

これでは、「要約」の要約が必要です。


事件の内容は、第一発見者の語る経緯。

釣り客の二人は、朝早くから伯浦で釣りをしていた。

その時間から、もう駐車場には、何台も車が停まっていた。

二人は、帰宅しようと、高台に停めている車へ戻ると、まだ一台、車が停まっていた。

まだ、釣りをしているのだろうかと思った。

しかし、スポーツカーという車種に違和感を覚えた。

何時も、大抵、軽トラックか、軽ワゴンで、皆、釣りに来ているらしい。

気になった。


それで、車の中を覗いた。

運転席に、人がハンドルに、凭れ掛かっていた。

頭から血が流れている。

死亡しているかどうか、分からないが、警察と消防署へ通報した。

十分足らずで、パトカーと救急車が到着した。


救急隊員が、助手席側からドアを開けている。

救急隊員が、運転席側からストレッチャーで被害者を救急車へ搬入している。

救急車のアップ。

被害者を救急車で、病院へ搬送している。

三本の映像が用意されている。


被害者は、その場で、死亡が確認された。

警察は、事件、事故の両面で捜査している。

死亡していたのは、尾崎勝。

年齢は、十七歳。

石鎚山高校の三年生。

何となく嫌な予感がした。

と、ネットニュースの最新版だ。


そのタイミングで「紫陽花」のメンバー、西山君からメッセージグループへ着信だ。

皆、一斉に見たようだ。


嫌な予感が的中した。

尾崎さんは、古条西中学校出身で、西山君の同級生だ。

そして、西山君と塾が同じだ。


これは、もう、疑う余地が無い。

それにしても、記事も長い。

もう少し、端的に、表現出来ないのだろうか。


連続殺人事件だ。

塾生、連続殺人事件。

古条西中学校出身の同級生、同塾生、連続殺人事件。


千景も、ニュース記事を書くと、こうなる。

ネットニュースの記事を書いている記者よりも、拙い文章に、なるのかもしれません。


速報の記事は、スピード勝負です。

だから、誤字、脱字があるのは、仕方無いのかもしれません。


だからと云って、後日、訂正とお詫びの文言もありません。

校正もなにも、通過していないのでしよう。

ネットニュースとは、そういう物だと、思って見るのが、正解だと思います。

それでも、千景の文章よりも、読み易いのですから。


これ、この通りです。

千景が、書きたいように書くと、こうなるのです。

また、話しが脱線しました。


と、計ったようにタイミング良く、ネットニュースの続報です。

タイトルは「連続殺人事件」でした。

千景が最初に思い付いたタイトルでした。

尾崎さんは、やはり、皆が想像した通り、殺害されていました。


皆、ネットニュースに齧り付きです。

そして、長いサブタイトルを見て、今度は、皆、正真正銘、驚いています。


被害者は、数日前に行方不明になっていた。両親から、警察に行方不明届が提出せれていた。警察は、今年三月に殺害された杉岡さんに付いて、事情聴取を実施した当日だった。そして、遺体が遺棄されていた車は、石鎚山高専の暴走車両か?!


随分と長い、太字のサブタイトルです。

もう、記事の詳細な内容を全部網羅しているのでは、ないのでしょうか。

それはさて置き「正門コース暴走車」事件と繋がったの、かもしれません。


慌てた様に、スリッパの音を響かせ、石井先輩が、コミュニケーションスペースへ駆けて来ました。

寮内の廊下は、緊急の場合以外、走ってはならない。

と、寮規で定められています。

石井先輩は、立派な指導寮生。

言わずもがな、歴っきとした執行部員の責任者です。


何だか、嬉しそうです。

おそらく、高専に合格したよりも嬉しかったのでは、ないでしようか。


おそらくです。多分ですが、連続殺人事件と「正門コース暴走車」事件とが関連する可能性が高まったからでしょう。

石井先輩に対する、沈着冷静のイメージは、もう、ありません。

被っていた羊は、何処かへ消えて、無くなりました。

中から出て来たのは、まだ、比喩の対象が見付かりません。


「やつぱし、暴走車と殺人事件は、繋がっとったんやでぇ」

石井先輩が、コミュニケーションスペースで叫びました。


次第に三階が騒がしくなりました。

階段を上がって来る足音、話し声。

階段を下りて来る足音、話し声。

何だか、怒鳴り声も響いています。


三階のコミュニケーションスペースが、寮生で一杯です。

詰めて、詰めて。五年生の執行部員が、集まった寮生に指示しています。


何人もの、いや、鈴音寮の寮生全員かもしれません。

三階のコミュニケーションスペースに寮生が溢れています。


奥の方の、あちらこちらから、小競り合う声で、騒々しくなりました。

階段付近、北へ向かう廊下、西側の新規開放した部屋の前。

何処も寮生の喋り声が、そこかしこで騒々しく響いています。


その時、凛々しく、石井先輩が立ち上がりました。

「皆、静かに。こらぁ、そこ騒ぐなあ」

久しぶりに、堂々とした石井先輩を見たような気がしました。


そして「正門コース暴走車」事件と、ある殺人事件が関連している可能性が高まった。

詳細に付いては、追って、ネットワークの「紫陽花」フォルダの「連絡」ファイルに文書を掲示する。

「紫陽花」のアクセス権を寮生全員に付与処理する。

準備次第、「紫陽花」フォルダの「質疑応答」「提案可否」「情報提供」のファイルを使用の事。

一時間以内にファイルと文書を作成する。


それまで、自室で待機するりなり、外出するなり、あるいは、帰省するなり、寮規に従って自由に行動。

しかし、直接、関係寮生に、この件に関する事案に付いて、話し掛けるのは、控える事。


明日、土曜日に合宿所の会議室を予約する。

事件に付いて、周知会を実施する。

何時も通り、発言、質疑応答は、全て自由。

開始時間は未定。

決定次第「紫陽花」からメッセージを送信する。

参加、不参加は、自由。

周知会議事録は「紫陽花」に掲示する。


「以上。解散」

石井先輩が、力強く宣言した。


皆、三々五々、コミュニケーションスペースから、騒々しく離れて行きました。

騒がしい物音が遠ざかり、辺りが静かになりました。


そして、石井先輩が、豊田さんに向かって指示しました。

「豊田さん。紫陽花に、連絡ファイル作って、連絡文書、掲示しといてよ」


「はい。それで、文書はどれですか」

豊田さんが尋ねた。


石井先輩が、怪訝な顔で豊田さんを見た。

「文書は、豊田さんが作るんやで」

当然の様に、云い放った。


えっ?

豊田さんが、茫然としている。

意味が、理解出来ていないようだ。


「ほら、早くしないと、後、五十分、切っとるで」

石井先輩が、冷徹に云い放った。


コミュニケーションスペースへ残った他の四人は、唖然としています。

しかし、どうしたのか、千景以外は、そそくさと、その場を立ち去り、居なくなりました。


成程。

千景は得心した。

だから、豊田さんを「紫陽花」の管理に就けたのだろう。


「そうや、秋山さん…」

石井先輩が、千景に呼び掛けました。


千景に「質疑応答」「提案可否」「情報提供」のレイアウトを作成して、ファイルに登録するよう、指示したのです。

今度は、千景が、呆然としました。


「後、四十五分を切っとるで」

豊田さんが云いました。

気の所為かもしれませんが、口角を少し上げて、笑っているように見えます。


差詰、ざまあ見ろっ、て感じですか。

成程。

だから、大垣さん、小倉さんと越智さんは、状況を察して、逃げ出したのてす。

千景は、皆が舌を出して、鈍感な女子だと、嘲笑っている様子を思い浮かべていました。


五月蝿いわい。

千景は、素直で良い娘なんじゃい。

と、負け惜しみを心の中で叫びました。

残念。

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