第22話 離れ、できました。

 完成の日。


 小さな平屋の前に、村の人たちが集まっていた。

 

 建物は木造。地元の杉とヒノキを使い、屋根は瓦葺き。

 壁の一部には、子どもたちが描いた絵が焼き板として飾られている。

 


 「……ほんとうに、できたんだなあ」


 白髪の老人が、庇の影に腰を下ろして、つぶやいた。


 「はい。どこに座っても風が通るように設計しました。

 畳も、地元のイグサ農家さんに織ってもらったんです」

 

 かなめの説明に、老人はふっと笑う。


 「……わしの孫がここで“秘密基地みたい!”って言うとったわ。

 あの子がここに来て、昼寝してくれるだけでもう、わしゃ満足じゃ」


 かなめは少し照れくさそうに笑った。


 「“秘密基地”、いいですね。それ、正式名称にしましょうか?」


 集まった人たちからも、くすくすと笑いがこぼれる。


 「“暮らしの離れ ヒミツ基地”──ですか。

 なかなか、いいかもしれません」


 タミが、そっと口を挟んだ。


 彼女は庭の端に植えた小さな果樹を見ながら、淡々と言葉を重ねる。


 「果樹は、五年で実をつける。

 子どもも、五年後にはきっと……背が伸びて、この屋根の下で、

 何か話してると思う」


 「五年後……ねぇ」


 かなめは、庇の陰に立って遠くの山を見つめた。


 (五年後、私は……どこにいるんだろう?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る